102 ゲーム・デス
スキュラからのラブレターを読み終えた24は、同じくリュックに入っていた、可愛くラッピングされた袋を見やる。
その中身を確認する前に、手紙の裏面を確認していると……不穏なる気配を察した。
「……誰だっ!?」
振り返ると、茂みがガサガサと揺れ……。
「誰だって、俺だよ」
同じ隊の仲間である、16が姿を現した。
「なんだ、お前か……」
「どうしたんだよ? シてるところを見られたみたいなツラして……。ションベンだけじゃ、我慢できなくなったのか?」
「そ……そんなわけあるかよ」
24は取り繕いながら、リュックの中にラブレターを押し込み、見られないように閉じる。
背負いなおしながら、いそいそと立ち上がった。
「で、お前はなんでこんな所にいるんだ?」
「いや、ションベンが終わって集合場所に戻ろうとしたんだけど、道に迷っちまってな。……あ、そうそう。迷ったついでに、面白ぇモンを見つけたぜ、たぶん野良犬マスクの野郎が落としていったモノだろう」
16は言いながらポケットから何かを取り出し、24に向かって放り投げた。
指輪くらいの大きさのソレは、まさに指輪だったのだが、24がそれを認識したと同時に、
……バッ!
と一気に距離を詰めてくる、16。
リーチ圏内まで飛び込みつつ、押し倒すように手を伸ばす。
……ガッ!!
その音は、ふたつ同時におこった。
……ガシィィィィィィーーーーーーーーーーーーーンッ!!
指輪に受け取ってしまったせいで、初動がワンテンポ遅れてしまった24。
16に肩を掴まれ、背後にある木に押さえつけられてしまったが、寸前のところで片手を突っ張って、なんとか唇を拒むことに成功する。
「な、なんのつもりだっ、16!?」
白いマスクの向こうから、「フンッ!」と笑いがおこった。
「ずっと……ずっと狙ってたんだよ、お前のこと……! 同じ訓練場の土に、同じだけの汗を染み込ませたお前を……! そんじょそこらのヤツなら、この宝石だけでブッチュリやれてたんだがなぁ」
「ま……! まさか……! 訓練場では弓術師だったお前が、妖剣術である第10隊を志望したのも……!?」
「そうさ! お前がいたからさっ!」
「そ……そうか……そうだったのか……!」
あれほど拒絶していた24の腕から、ふっと力が抜ける。
それまでは異物を見るようだった目が、あの頃の……。
ふたりで毎日のように剣の稽古に励んでいた頃の、純粋なる眼差しに変わる。
「実をいうと……俺もだったんだ……!」
「ほ、本当か!? 24!?」
「ああ、本当だ。それを証拠に……」
16の押さえつける力も緩んでいたので、24は担いでいたリュックの中から、あるものを取りだした。
「……これは?」
「お前への『プレゼント』だ。実は任務の時は、かならず持ち歩くようにしていて……。渡す機会を伺っていたんだ」
「お……お前ってやつは……! まさか俺たちは、相思相愛だったなんて……!」
興奮気味にラッピングをほどこうとする16。
リボンかかった手を、24はガッと掴んだ。
「ま、待て、16。その中には、俺のすべてが入ってるんだ」
「お前の、すべてが……?」
「ああ、だからその、俺の前で開けないでくれ。きっと身体がカッと熱くなって、大変なことになってしまう。お……俺はもう行くから、俺がいなくなったあとで開けてほしいんだ」
「……わかった」
「……じゃあな」
24は目も合わせずにうつむくと、プイとどこかへ行ってしまう。
きっと照れているのだと、16は思った。
それよりも『プレゼント』の中身を確認しようと、リボンに再び手をかけたところ、木々がざわめいた。
「おいっ! 今のはなんだっ!? 16!」
「見たぞ! 俺たちというものがありながら! 24にまで手を出すだなんて!」
「いったいどういうことだ!? 俺たちとは遊びだったのか!?」
茂みから飛び出してきたのは、02、11、18であった。
バレたか、とばかりに肩をすくめる16。
「なんだ、見てたのか……。ならわかるだろう? 俺の本命が、誰だったのか……? 俺は今から本当の愛を確かめるんだから、邪魔しないでくれ!」
そう声高に宣言しながら、リボンはほどかれた。
手榴弾の、ピンを抜くように。
……しゅるんっ!
そして、閃光がおこる。
……ドォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
24の背後で、高く吹き上がる爆炎。
彼はそれを、振り返ろうともしなかった。
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名もなき戦勇者 184名 ⇒ 188名
名もなき創勇者 61名
名もなき調勇者 113名
名もなき導勇者 167名
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第10番隊、のこり13名……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「09、ここにいたのか」
「どうした、08? なにかあったのか?」
「いや、お前に話しておきたいことがあって」
「なんだ? 任務中だってのに、妙にあらたまって……」
「いや、こんな時だからこそなんだ。俺とお前は友達だろう?」
「そ、そりゃまぁ……。でも、どうしたんだよ急に?」
「きっかけは08と09っていう、ナンバーが近かったってだけだが、俺たちは意気投合して仲良くなった。そしていまは、親友と呼べる仲だ。違うか?」
「ああ、そうだけど……」
「だから悩んだんだ。言おうかどうしようか、ずっとな……。でも親友だから、教えとかなくちゃダメだと思ったんだ」
「教える……? なにをだよ?」
「これを、見てくれ」
08が懐から取り出したのは、一枚の真写。
ひとりの女性が犬用の散歩紐を持って、連れ込み宿に入るところであった。
まるで鵜飼いのように広がった複数のリードの先には、大勢の男たち四つ足で続いている。
男女は後ろ姿のシルエットだけで、顔はわからなかったのだが、男たちは全裸であった。
それは目にした途端、09は眉をひそめた。
「これは、もしかして……!?」
「ああ、そうだ。お前の奥さんだ」
「まわりにいる男たちは……!?」
「10だ。それも10人」
「10が、10人も……!?」
「そうだ、10だから10人いても不思議じゃないだろう?」
「ああ、そうだな。……くそっ……! 俺のいないところで、アイツ……こんなことをしてやがったのか……!」
「悔しいよなぁ、許せねぇよなぁ。それじゃあ行こうか、09」
「行くって、どこへ……?」
「最低の浮気男に、制裁を加えに決まってるじゃないか。俺も協力するぞ」
「い……いいのか?」
「ああ、もちろんだ。なんたって俺とお前は親友なんだからな。さぁ、今からいっしょに、アイツを殺しにいこう……!」
さて、ここから先はお察しのとおり。
まんまと乗せられてしまった09は、血眼になって10人の10を探しだし、襲いかかり……。
斬り合ってボロボロになったところを、ふたりまとめて08に、ごっつぁん……!
「ぐっ……! き、貴様っ……! だ、騙していたのか……!」
ピラミッドのように折り重なって倒れた10人の10。
その下敷きになっていた09は、血まみれの顔で、かつての親友を見上げていた。
08はしゃがみこんで、ワナワナと震える09の耳元で、ささやきかける。
甘くてしょっぱい、悪魔の塩大福のような声で……!
「……ズバァァァァァッ!!」
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名もなき戦勇者 188名 ⇒ 199名
名もなき創勇者 61名
名もなき調勇者 113名
名もなき導勇者 167名
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第10番隊、のこり2名……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「お前は……05か。どうだ、野良犬は見つかったか?」
「いや、まだだ14。その様子だと、そっちもまだのようだな」
野良犬包囲網を展開中の第10番隊。
その最中、森のなかで偶然はちあわせた05と14。
情報交換を終えた05は、その場を立ち去ろうとしていたが、
「待てよ、お前もだいぶ歩いたんだろう? ここいらでちょっとひと休みしようや」
大きな木によりかかった14に呼び止められた。
「ひとりで休んでちゃただのサボりだが、ふたりなら作戦会議になる。付き合えよ」
「……少しだけだぞ」
戻ってきた05に、14はポケットから出した煙草を差し出す。
「吸うか?」
「いや、いい」
「珍しいな。ヘビースモーカーのお前が吸わないなんて」
「最近、ちょっと禁煙しててな」
「なんだよ、今朝も朝メシのあと、ホテルのロビーで5本いっぺんに吸ってたじゃねーか」
「そうだったかな」
話題を変えるように、05はポケットから何かを取り出す。
「なんだよ、結局吸うのかよ」
「いや、これは煙草に見えるけど、チョコレートなんだよ。こっちに切り替えようと思ってな」
そして当然のように、1本差し出す。
「食うか?」
「ああ、もらうよ」
箱から飛び出したシガレットチョコを、14は何の疑いもなく手にとり、先端をポキリとかみ砕き、ペチャクチャと飲み込んだ。
まさか食べるとは思わなかったので、05は唖然としてしまう。
「た、食べた……!?」
「なんだよ05、食べちゃいけなかったのかよ? お前が勧めといて」
「あ……そ、そうだな。ちょっとボーッとしてた」
「おかしなやつだな」
14は失笑しながら煙草に火をつけると、あたりに煙をまき散らすように吸い出した。
木の幹によりかかりながら天を仰ぐと、
「ふぅ……。毒も食らい、解毒も食らう……。清濁あわせ飲むっていうのは、こういうことなんだろうなぁ」
「いや、違うと思うけど」
即座に否定した05の口からは、一筋の血が流れていた。
……ゆらり。
そのまま前のめりになって、倒れ……。
……ズズゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
同じタイミングで倒れてきた大木の下敷きになって、潰された蚊のようになる。。
……ズズゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
……ズズゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
14の周囲では、次々と木が倒れていた。
さながら巨大な嵐が吹き荒れているかのように。
……ズズゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
……ズズゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
……ズズゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
彼は煙草を口から離すと、まだ火のついているソレを、しげしげと見つめる。
「まわりの木まで倒しちまうなんて、すげえ威力だな、この毒……」
とうとう彼が寄りかかっていた木まで倒れてきて、世界はひしゃげた。
「でもこの俺には解毒剤があるから、平……気……」
……ズズズズゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
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名もなき戦勇者 199名 ⇒ ■■■名
名もなき創勇者 61名
名もなき調勇者 113名
名もなき導勇者 167名
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第■■番隊、のこり■■名……!
今回のお話だけだとあんまり読んだ感じがしないと思いますので、今日はもう1話更新したいと思います。