20 野外キャンプに出発
受注した10本の子供用の剣を手配するため、ゴルドウルフは次の日からグラスパリーンのクラスを参観するようになった。
クラスは6歳から9歳までの10名の男女で構成されている。
すでに戦士になるつもりでいるワンパク坊主、どの職業に就くか迷っている女の子、上位職を目指しているお嬢様など、どの子も元気で溌剌としていた。
ゴルドウルフが彼らの授業を見学したのは、ひとりひとりに合った剣を選ぶことだった。
そのために身体つきや運動神経、性格などを把握しておきたかったのだ。
子供たちは今は木刀を使っているのだが、もうじき真剣を使った授業に入る。
時期尚早のようにも感じられるが、この世界では普通のこと……ゴルドウルフなどはパインパックくらいの歳の頃から、もうゴブリン相手に戦っていたのだから。
子供たちとも触れ合ううち、グラスパリーンから来月開催予定の野外キャンプへの同行をお願いされる。
クラス全員が街から少し離れたところにある渓流に向かい、そこで1泊のキャンプをするというのだ。
最近物騒なので、男の人がいると心強いということだったので、ゴルドウルフは快く引き受けた。
そして、サプライズプレゼントとして……その日にあわせて、注文された剣を用意することに決めたのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
キャンプ当日。
待ち合わせ場所である『スラムドッグマート1号店』の前に集まった、ゴルドウルフと子供たち。
残るはグラスパリーンだけだったのだが、彼女は待ち合わせ時間からだいぶ遅れてやってきた。
「うっ……ぐぐぐ……うぐぅ……おま、おまたせ……しまっ……した……」
小さな背中を年寄りの行商のように曲げ、身体と同じくらいある背負子に押しつぶされそうになりながら、ヨロヨロと歩いてくる。
すかさず近寄って、ひょいと荷物を受け取るゴルドウルフ。
少女にとっては拷問のような重さだったのだが、オッサンにとっては片掛けでいけるくらいの軽さだった。
「グラスパリーン先生、重い荷物があるのでしたら、言ってくだされば迎えに行ったのに……」
ゴルドウルフから『先生』と呼ばれるのにまだ慣れず、気恥ずかしそうにするグラスパリーン。
テヘヘ、とこめかみのあたりから垂れているお気に入りのチェーンを揺らしていた。
「あの……ゴルドウルフさん。実をいうと、同じ荷物がまだあと9個あるんですけど……」
「9個もですか?」
だったら馬車が必要なレベルだと思うのだが、まさか彼女は街と渓谷を往復して運ぶつもりだったんだろうか……と、さすがのオッサンも驚愕する。
「す、すみません……! キャンプ学習に必要なものを準備していたら、多くなっちゃって……!」
ペコペコと髪の毛を揺らし、首から下げたメガネも揺らす新人女教師をなだめたあと、ゴルドウルフは考えた。
店用の馬車ならあるが、それは今日の仕入れに使う。
リインカーネーションかプリムラに相談すれば、ホーリードール家の馬車をすぐ手配してはもらえるだろうが、それは気が引ける。
ならばやむをえまい、と決意したゴルドウルフは、ひとさし指と親指で作った輪っかを口に入れ、指笛を吹き鳴らした。
……ピィィーーーッ!!
すると……どこからともなく、天地が鳴動するような馬蹄が響く。
……ゴゴゴゴゴゴゴ……!
通りの向こうから豪駿してきたのは、ひときわ大きな芦毛の馬だった。
燃えるようなたてがみに、神気さえ感じさせる風貌。
戦車のような堅牢な体つきに、拷問器具のような蹄。
馬というよりは妖獣のようだったが、子供たちを前にしたとたん、眼光はコロッとつぶらな瞳に変わった。
急に親しみやすいキャラクターになり、子供たちは歓声をあげる。
「すげーっ! かっこいいーっ!」
「わぁーっ! かわいいっー!」
「おじさん、この子、名前なんていうの!?」
「その馬は、『錆びた風』という名前です。ホーリードール家の方々は『サビちゃん』と呼んでいるので、みなさんもそう呼んであげてください」
「わぁーい! サビちゃん! サビちゃん!」
「ねぇねぇおじさん、触ってもいい!?」
「ええ、もちろんですよ。あ、錆びた風は大丈夫ですが、馬の後ろには立たないようにしてくださいね」
「はぁーいっ!!」と元気に返事をして、クラスのお嬢様以外は一斉に『サビちゃん』に取り付いた。
ベタベタと触られても、ゴルドウルフの愛馬はじっとしている。
むしろ子猫をあやす親猫のように、しっぽをぱたぱた振っていた。
親睦を深めている間に、ゴルドウルフは肩に担いでいた荷物を馬の背中にくくりつける。
脳内では、ルクの呆れた声と、プルの嬉しそうな声が響いていた。
『ああ……天国と地獄の運び屋といわれる冥馬に、生命ではなくて、荷物を運ばせるだなんて……それも、キャンプ用品……』
『でも子供たちに囲まれて、サビのヤツも、まんざらでもなさそうだよね!』
『まったく、煉獄では手をつけられなかったほどの暴れ馬だったのに……』
『でも我が君のせいで変わったのは、サビだけじゃないでしょ?』
『……プル、それは今、言う必要がありますか?』
『おおっ、こわっ!?』
ゴルドウルフは荷物を詰み終えると、出発がてらグラスパリーンの家に寄って、残りの9個の荷物もいっしょに運ぶことにした。
「では、プリムラさん、行ってまいります。明日のお昼までには戻りますから、どうかよろしくお願いします」
「はい、おじさま。お気をつけて、いってらっしゃいませ」
プリムラは店先で手を振り、朝咲きの花のような笑顔で一同を見送ってくれた。
皆様の応援のおかげで、やる気ゲージがたまったため、今日はあともう1話更新したいと思います。
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