99 外道3(ヘイト回)
村が燃えているのに気付いた俺様は、転げ落ちるように山を降り、村に戻った。
すると、そこは……。
まるで、地獄みてぇだった……!
ずっと助け合って暮らし合っていたヤツらが、手に鍬や鍬や鎌を持ち……。
隣近所に火を放ち……そして殺し合っていたんだ……!
それも、それも……泣きながら……!
しかも村のヤツらは、俺様を見るなり、死に物狂いで駆け寄ってきて……。
「許せ! クロタニシ! ワシの息子を守るためじゃあっ!」
まるで狂ったみたいに刃物を振り回すんだ……!
俺様はわけもわからず、かといってやられるわけにもいかず、木刀でブン殴った。
この村では最強の剣士だった俺様も、かなり苦戦した。
相手はなにせ悪ガキだけじゃなくて、世話になっていた村のジジババ、そしてからかって遊んでいた娘っ子たちまでもが、俺様を殺そうとしたんだ……!
村全体がへんな疫病にやらて、村のヤツらが全員おかしくなったみたいだった。
俺様は傷を負いながらも、なんとか村の広場に向かった。
なんで、広場を目指したかっていうと……。
こんな時だってぇのに、祭り囃子が鳴り響いていたからだ。
ようやくたどり着いた広場には、さらに信じられねぇ光景が広がっていた。
村のヤツらが、俺様のオヤジとオフクロ、そしてアカツメクサを槍で串刺しにして、神輿みたいにして担ぎあげていたんだ……!
櫓には、泣きながら笛や太鼓を演奏するヤツらがいた。
その中心には、獅子みてぇに、長くて真っ白い髪を振り乱して、舞い踊るガキが……!
♪勇者が来たらば、みな幸せに
♪勇者が通らば、お祭りさわぎ
♪この道は、勇者が来る道、通る道
♪お祭りさわぎをせぬ者は、生命をもって、血の囃子……!
ソイツが踊りながら、ピッと指を払うだけで……。
櫓の下で縛られていた、幼いガキたちの首が、飛んでいた……!
俺様は、すぐにわかった。
コイツが村の幼いガキを人質にとって、村のヤツらに殺し合いをさせていたことを……!
そして、俺様のオヤジとオフクロ、アカツメクサを殺させたことを……!
「へんっ! て……てめぇ……! 何モンだっ!?」
ヤツは俺様の声に気付くと、踊りをやめて見下ろしてきた。
ソイツと目があった時、俺様は……心臓が止まっちまうかと思った。
「へんっ!? お……おめぇはっ!?」
間違いねぇ、だいぶ様子が変わっちまってたが……。
あの瞳は間違いなく、俺様の弟のシロサナギだった。
ヤツが手を遮るように動かすと、祭り囃子がピタッと止まった。
しかし、ヤツは何も言わねぇ。
吹雪みてぇな冷たい目で、俺様をじっと見つめるばかりだった。
「へ……へんっ! シロサナギ……おめぇ、シロサナギだろっ!? 俺様にはわかる! おめぇ、いったいなにをしてやがんだっ!?」
するとヤツは、口を動かしもしねぇで、こう言ったんだ。
「わたくしは、神尖組第1番隊、『神の指』の隊員……。第1番隊はまたの名を、『人刺し指』とも呼ばれていますがね」
「へ……へんっ!? シロサナギ……てめぇ、勇者になったってのかよ!?」
「わたくしは、シロサナギなどではございませんよ」
その日は俺様にとって、朝から信じらねぇ出来事の連続だったが……。
この日、いちばん目を疑いたくなることがおこった。
櫓の上にいたヤツは、背中に携えていた、自分の身長よりも長ぇ剣の上に……。
ひらり乗って、宙を舞う羽毛みてぇに、ふわりふわりと、降りてきやがったんだ……!
その姿は息を呑むほど美しかった。
そして、残酷だった。
ヤツが地面に着地したと同時に、お囃子のヤツらも、神輿のヤツらも、後ろにいたガキどもも……。
ぽろり……。
首が椿の花みてぇに、落ちちまったんだ……!
水芸のように吹き上がる赤い血をバックに、ヤツは両手を広げながら言った。
「わたくしは、『人刺し指』……マッドサナギ……!!」
「ま……マッドサナギ……!?」
「そう、『原始の刃』とも呼ばれる偉大なる勇者、プライマルブレイド様によって、わたくしは生まれ変わったのです……! 故郷に錦を飾るために、わたくしは帰ってきた……!」
「へ……へんっ! なにがマッドサナギだ! なにが故郷に錦だ! おめぇはやっぱり、俺様の弟のシロサナギじゃねぇか!」
「それを知る者も、もはやあなたを除いて、誰もいなくなりましたよ」
俺様が、あたりを見回すと……もはや村と呼べるものは、そこにはなかった。
あるのは、血の海に沈む、死体の山と……そして燃え落ちた、瓦礫の山だけ……!
「て……てめぇぇぇぇぇぇぇ!!」
俺様はマッドサナギに向かって、木刀で殴りかかっていった。
しかしヤツは、一歩も動かず……。
しだれ桜のような髪を、風に揺らすだけで……。
……ドシュッ!!
俺様を、袈裟斬りにしやがった……!
「ば……ばか……な……!!」
「プライマルブレイド様は、こうおっしゃっております。剣はなぜ、この世に存在するのか……。その理由は、鎌と同じ。稲のように、人間の生命を刈るため。それは刈られる者にとっては、異端なる行為。道理や真理をすべて無視した行為。したがって、剣の道はすべて『外道』なるもの……」
俺様の目からは、シロサナギはあかくあかく染まって見えていた。
「訓練所での訓練を終え、いっとき故郷に帰ることを許されたわたくしは、考えたのです。プライマルブレイド様の意図を……。そして気付いたのです。『原始の刃』は、『外道なる帰郷』をお望みだと……!」
神尖組とは、ゴッドスマイル様のために生き、死んでいく者たち……!
北にゴッドスマイル様に仇なすものあらば、行ってつまらぬ殺し方をし……!
南にゴッドスマイル様を信じぬ邪教徒あらば、たっぷりと怖がらせて殺す……!
過去は捨て、すべて焼き払い、血の錦として捧げる……!
たとえ実の家族であっても、稲の束のように刈り取り、その死体を籾殻のように、踏みにじる……!
そういう外道に、わたくしはなりたいのです……!
……。
ちょっと、お喋りが過ぎてしまったようですね。
そうだ。この剣を差し上げましょう。
わたくしには、ちょっと重くなってきたのと……。
三途の川の、渡し賃くらいにはなるでしょうから……。
では……ごきげんよう。





