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97 外道1

 第10番隊の野良犬追跡班が、野良犬そっちのけでデス・ゲームを繰り広げている頃……。

 野良仔犬追跡班のほうは、どうしていたかというと……。


 26(トゥインクルシックス)から29(トゥインクルナイン)のメンバーたちは、ストロングタニシ先導のもと、狩りを楽しむハンターのように少女を追いかけていた。


 山を下っていったゴルドウルフとは対象的に、彼女は山を駆け上がっていく。

 頂上付近まで来ると、寝床がわりの洞窟の中へと逃げ込んでいった。


 追跡班たちは罠に警戒しつつ、後を追って中に入ってみる。

 すると、そこには……。


 ワイルドテイルの特徴である耳をぺたんと倒し、長いしっぽを身体に巻き付けて小さくなっている、少女が……!


 それはさながら、親を狩られたばかりの子狐のように、不安と恐怖に満ちた姿。

 悪い夢だと思っているかのように顔を伏せ、小刻みに震えている。


 その思いを踏みにじるかのように、



 ……じりっ……!



 とブーツのカカトを鳴らし、迫る4つの影。



「こんな所に逃げ込むとは、やっぱりガキだな」



「あーあ、こんなに震えちまって」



「こんなにアッサリ捕まえたんじゃ、少々つまらねぇが……」



「でもまぁその分、コイツ(●●●)で楽しむとするか……!」



 ……ジャキィィィィィーーーーーーーーーーンッ!!



 4人が取り出したのは、第10番隊の装備のひとつ、即席で剥製を作る魔導装置。

 取っ手のついた本体は掃除機くらいの大きさで、隙間ノズルのようなパイプが伸びている。


 ノズルは竹槍のように鋭く、その先を剥製にしたい対象の身体、なるべく傷が目立たない場所に突きたて、スイッチを入れると……。

 おぞましい吸引音とともに、血も、肉も、内臓も、骨も吸い出して……。


 本体のカートリッジから詰め物を注入し、ものの数十分で剥製が完成……!


 される側にとっては、そのわずかな時間すらも永遠に感じられるほどの苦痛があるという。


 示し合わせたわけでもないのに、その悪魔の器具を取り出した4人は、顔を見合わせあう。



 「なんだ、お前らも剥製にするつもりだったのか」と26。


 「ああ、息子にせがまれてな」と27。


 「俺は、ちょっと小遣い稼ぎだ」と28。


 「俺は……『自分用』だ……!」と29。



「ったく、相変わらず変態野郎だな、29は……!」



 26、27、28は呆れた様子だった。

 しかし29は褒め言葉のように受け取って、べろりと舌なめずりをする。



「こんな小せぇワイルドテイルをオモチャにできるチャンスなんて、滅多にねぇからな……! それもこんな上玉を……! ころころ、ころーってな! ヒヒヒヒヒ……!」



 白塗りの顔を真っ赤な舌でなめ回すその様は、さながら悪魔……!


 ストロングタニシは輪の外から彼らの会話を耳にし、総毛立つ思いだった。



「へ……へんっ!? ちょ、ちょっと待ってくだせぇ!? この娘っ子は、生け捕りにするんじゃなかったんですかい!?」



「そりゃ、前の話だろう。生け捕りにするのは野良犬のほうだ。こっちの仔犬のほうは、好きにしていいってリヴォルヴ様からのご命令だ」



「へんっ!? そ……そんな……!? でも、だからってこんな小さな娘っ子を、剥製にするこたぁねぇでしょう!?」



 ストロングタニシがメンバーの肩をガッ! と掴むと、彼らはぬうと振り返る。

 洞窟の薄闇のなかで、白い顔がぼうと浮かび上がった。



「それは違うなぁ……! 小さいからこそ、意味があるんじゃねぇか……!」



「ワイルドテイルの子供の剥製、しかもメスとなると滅多にねぇから、売れば金になるしな……!」



「そうそう。金持ちにはコレクションしてるヤツらもいるくらいだからなぁ……! 息子にプレゼントすりゃ、父親の株もあがるってもんよ……!」



「俺はいちどこんな娘っ子を、穴だらけにしてみたかったんだ……! ぼこぼこ、ぼこーってな! ヒヒヒヒ……!」



 男たちの瞳は、まるで上質の子羊(ラム)肉を前にしたかのように輝いていた。

 人類というよりも、食肉に接するかのような目……!



「ううっ……!」



 後ずさるストロングタニシ。

 同じワイルドテイルの彼は、恐怖のあまりそれ以上は何も言えなくなってしまう。


 もしこれ以上意見したら、自分も一緒に剥製にされてしまうのではないかと思ったからだ。


 すごすごと引っ込んでしまったストロングタニシを「ケッ」と吐き捨て、悪魔たちは獲物に向き直る。

 そして、地獄の拷問器具を構えながら、一歩、また一歩と……距離を詰めていく。



 ……じり……!



「さぁ、お嬢ちゃん……! おじさんといっしょに、いいことしようか……!」



 ……じり……!



「そんなに、怖がらなくてもいいよ……! だって……!」



 ……じり……!



「これからもっと怖い目にあうんだから……! 殺してって泣き叫ぶくらいの、とっても怖い目に……!」



 ……じり……!



「狂って垂らしたヨダレを舐めるのが、また格別なんだ……! べちょべちょ、べちょーってな! ヒヒヒヒ……!」



 大人たちに覆われ、チェスナの姿は見えなくなる。



 ぐわあっ……!



 と29が振りかぶった拷問器具の切っ先が、血も凍るような色で輝いた。



「へっ……! へへっ……! へへんっ……!」



 ストロングタニシは、今にも腰を抜かしそうなくらいに脚をガクガクさせていた。

 しかし、見えない鎖を振り払うように、ぶるんと身体をひと振りさせると、



「へっ……! へぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」



 地の底から湧き上がるような怒声とともに、地を蹴ったっ……!



 ……ドガアッ!!



 と29の背中にタックルをかます。

 あと数センチでチェスナの身体に刺さろうとしていた切っ先は、大きくぶれた。


 結果、



 ……ドスゥゥゥッ……!!



 隣にいた28の脇腹に刺さり……!



 ……ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」




 機械仕掛けの邪神デウス・エクス・マキナが動き出したかのような轟音と、この世の終わりのような悲鳴。

 そして腐った魚を大量に床にぶちまけたような水音が、洞内を揺らす。


 ストロングタニシはその時すでに、チェスナの手を引いて洞窟から逃げ出していた。

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