96 デス・ゲーム6
脳内で、早指しの将棋のように高速思考を巡らせる14。
――俺の『プレゼント』は煙草。
05の『プレゼント』は、シガレットチョコ……。
そして、お互い、毒入り……!
さらに、お互い、相手の毒入りに気づいている……!
ならば、ここは……。
勧めるフリを続けて、話を拗らせるしかない……!
なぜならば、俺のほうは……。
ただの『毒入り』じゃないんだからな……!
次の一手がまとまった14は、手にしていた煙草を05の口に無理やり突っ込もうとしたが、唇に触れる寸前、
……ガッ!
と手首を掴まれてしまった。
05は05で、ちょうど14の口にシガレットチョコを突っ込もうとしていたので、返す刀で手首を掴み返す。
「な、なんだよ……!?」
「お前こそ、なんだよ……!?」
14は、煙草を握る手に力を込める。
すると、05もやり返してくる。
「い……いいから無理すんなって! 煙草、大好きだろ!? 我慢するのは身体に毒だぞ!? 吸わなくてもいいから、せめて咥えろよ!」
「そ……そっちこそ無理すんなって! チョコ、大好きなくせしてヤセ我慢して……! 食わなくてもいいから、せめて咥えろよ!」
……ググググググググ……!
クワガタの喧嘩のように、がっぷり四つに組み合うふたり。
力むあまり、お互いプルプル震えている。
「ぬぐぐぐぐ……! いいから、吸えって……!」
「ぬぐぐぐぐ……! いいから、食えって……!」
隊員ふたりの異様な譲り合いは、しばらく続いた。
先に打開策を提案したのは、14のほうであった。
「じゃ、じゃあ、こういうのはどうだ? 俺たちは休憩してるんだから、いがみあってもしょうがねぇ。お互い、無理に勧めるのはやめて……。自分のを吸って、自分のを食おうぜ。もう、それでいいじゃねーか」
青筋を浮かべ、歯を食いしばっていた05は、「わ、わかった……いいだろう」と頷いた。
「よぉし、じゃあ……。いっせーの、でお互いの手を離そうや。……いいか? いっせーの」
……パッ!
合図とともに、反発する磁石のように離れるふたり。
内心、14はほくそ笑んでいた。
――かかった!
俺の煙草のほうは、吸わせなくてもなんとかなるんだ……!
ちょっとリスキーではあるが、ヤツに吸わせられないとなると、やるしかねぇ……!
彼はさも安心した様子で大きな溜息をつき、肩をすくめた。
「ふぅ、これでやっと休めるぜ。じゃあお互い、自分のをやるとするか」
――05はきっと俺に先に吸わせて、毒入りであるかどうかを見極めようとするはず。
ここでもし俺がためらったり、途中でやめたりしたら、コレが毒入り煙草であることを05にバラすようなもんだ。
だから……。
ええいっ、ままよ!
14は清水の舞台から飛び降りる気持ちで、煙草を咥えた。
そしてパチンと指を鳴らし、発火魔法を指先にともし、煙草に火をつける。
……すぅ……。
と大きく吸い込むのを、凝視している05。
煙草を吸った14に、何の異変も起こらないことをいぶかしがっていた。
「どうした、05? お前は食わねぇのか? まさかとは思うが、毒入りってわけじゃねぇよなぁ?」
そうからかってやると、05はムッとした様子でシガレットチョコを口に含んだ。
ぺちょぺちょとかみ砕き、ごくりっ、と飲み下す。
それまで14はポーカーフェイスを保っていたのだが、思わず眉をひそめた。
――毒入りのチョコを、食いやがった……!?
いや、もしかして、毒なんて入ってなかったのか……?
いやいや、そんなはずはねぇ。
もしかして、遅効性の毒なのか……!?
食っても無害であると見せかけておいて、俺にも勧めたあと……。
そのあと大急ぎで別れて、自分だけ解毒すれば……!
そうか、そういうことだったのか……!
……だが、残念だったな!
俺にそんな、安いおままごとは通用しないぜ!
14はフグのように頬を膨らませると、05めがけて、
……フーッ!
と煙草の煙を吐きかけた……!
途端、05の顔が曇る。
「なにをするっ!? ……ウッ!? これはもしや……!?」
その表情は、さらに苦悶の色を帯びはじめる。
14は、ハンカチを取り出して口を覆っていた。
「そうさ。お前さんの予想どおり、コイツは毒入り煙草さ。でも吸い口に毒が塗ってあるタイプじゃない。煙に毒があるタイプなのさ。だから吸った煙を肺に入れず、こうやって吐きかけてやれば……。毒のブレスのできあがりってわけよ……!」
「く……くそっ! や……やられたぁ!」
自分の首を絞めるように喉元を押え、崩れ落ちる05。
そのままバッタリと仰向けに倒れ、痙攣をはじめる。
それで勝負は決着したが、仕掛けた14のほうも、無事ではすまなかった。
「……ぐうっ!? げほっ! ごほっ! がはっ!」
咳き込んだ拍子に、ハンカチが赤く染まる。
「チッ……! 肺に少し入っちまったか……! だが、問題ねぇ……!」
意識が朦朧としたが、吸引したのは微量なので、すぐに元に戻るだろう。
14は初めての喫煙をした不良少年のようにクラクラしながら、もう動かなくなっている05の遺体にしゃがみこんだ。
「悪く思うなよ、05……! 俺はこの毒煙草で、副隊長の座に昇り詰めてやるんだ……!」
決然と手をのばし、05の死体をあらためようとしたところ、
……ドスッ……!
と小太刀が、彼の心臓を貫いていた。
「ぐうっ……!?」と目を剥く14。
その、足元には……。
なおも横たわったまま、『作戦通り』と笑う、05の姿が……!
「05っ!? な……なんで、なんでお前、毒の煙を受けて生きてるんだ……!?」
「ふふっ、俺の『プレゼント』だったシガレットチョコは、『毒入り』なんかじゃない……。実は『解毒剤』だったのさ。それを前もって食べていたから、お前の毒ブレスを食らっても平気だったんだ」
「なっ……なにい!? ならなんで、俺に勧めた!?」
「お前が煙草を勧めてきた時点で、毒入りだってのはわかってさ。もし俺がその毒を受けたあと、チョコを取りだして食べたりしたら、お前はすぐに解毒剤だと気付いて、邪魔してくるだろう?」
「ぐっ……!」
「だがああやって、こっちから勧めてやれば、お前は毒入りだと勘違いする……! なんたってお前の煙草が毒入りである以上、他人のも毒入りであると疑うのは、ごく当たり前の思考だからなぁ!」
「ぐぐっ……!」
「そしてお前が『無理に勧めるのはやめて、自分のを吸って、自分のを食おう』と言った時点で、俺はピンと来たんだ。お前の毒煙草は吸い口に毒が塗ってあるタイプではなく、煙が有毒なのだと……!」
「ぐううっ!?」
「そして俺は自分の解毒チョコを食べて、お前の煙にやられたフリをしたんだ。お前はもう、俺のチョコが解毒剤であるとは微塵も思っていなかった……。だからチョコを食べるのを妨害しなかったし、俺が煙を受けて死んだと思い込んだ……そうだろう?」
「ぐうっ!? ぐうっ!? ぐうううっ!?」
「あとは、倒れた俺に、無防備に近づいたお前を……! こうやって……!」
「ぐううううううーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
……ズバァァァァァッ!!
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名もなき戦勇者 183名 ⇒ 184名
名もなき創勇者 61名
名もなき調勇者 113名
名もなき導勇者 167名
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第10番隊、のこり17名……!
次回から、お話のスポットは別のところに移ります。
意外な人物の活躍が…!?