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87 1周年記念番外編 花の嵐13(ざまぁ回)

 ゼニクレイジーの邸宅のある丘を目にしたものは、そのフルカラーともいえる美麗なる七色に、誰もが夢の世界に迷い込んだかのように(●●●●●)ウットリする。

 それほどまでに幻想的な光景だったのだ。


 かたやホーリードール家の邸宅にある庭園を目にしたものは、その浄土のような夢幻の輝きに、誰もが真顔になる。

 かのように(●●●●●)どころではなく、完全転移してしまう……。


 魂を抜かれてしまうほどに、ガチ(●●)なる光景だったのだ……!


 例えるなら、フルハイビジョンのテレビでハワイの映像を自慢する金持ち一家を尻目に、どこにでも行ける扉でハワイに旅立つようなもの。


 同じ楽園だとしても、ぜんぜん違う……!

 リアリティが……!


 とはいえこれは、努力不足などでは決してない。

 片方が、異常なだけ……!


 ゼニクレイジー家の花畑は、現代の粋を限界まで駆使して作りだしたものであり、その時代では他の追従を許さない、最高級といってもいい景観である。


 かたやホーリードール家は、未来からやってきたオーバーテクノロジーを使ったようなもので、そもそも反則技である。


 これでは子供の喧嘩に核爆弾を撃ち込むどころか、宇宙人がUFOでやってきて、相手の子供をさらっていくようなものである。

 そもそも人間風情で、太刀打ちできるものではなかったのだ。


 ではその『反則技』の正体とは、いったい何のであろうか?

 やっぱり、あの(●●)オッサン……?


 否、そうではない。

 『幻の花』を咲かせるのに必要な条件を、覚えているだろうか。


 過去のハナアラシ少年の言葉から、引用してみよう。



「……マザー。俺はたしかにこの花を育てた。そういう意味ではパパかもしれない。でも黄金のフラムフラワーは、聖女の愛がないと咲かないと言われている花……。だからマザー、プリムラ、パインパックがママになって……みんなで咲かせた花なんだ……!」



 そう……!

 ホーリードール家の『無限の愛』……!


 なかでも筆頭となったのは、あんなこともこんなこともしてくれそうな、しとどに愛情あふれるラブリー・ママ……!


 リインカーネーション・ホーリードールっ……!!


 花すらも我が子と言ってはばからない、彼女の……!

 「水と空気と、ママの愛情と祈りはタダだから、よい子のみんなにはいっぱいあげないともったいないでしょう?」と言ってはばからない、彼女の……!


 異常なまでの、愛情っ……!!


 それと、ハナアラシの園芸の腕前が噛み合って、初めて起こし得た奇跡……!

 いや、必然であったのだ……!!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ホーリードール家のある街には、この国じゅうの人々が訪れていた。

 そして途方もない美しさの庭園をひと目見ようと、長い行列を作る。


 現地ではひれ伏すもの、失神する者、第六感が芽生える者、第三眼が開く者などが続出し、とてもではないが庭園に訪れた者たちのリアクションではなかった。


 新しい価値観に芽生え、ホーリードールの三姉妹を現神(あらがみ)だと崇めた者たちは、大満足で帰ろうとするのだが……。

 せっかくだからと、美しいと評判のゼニクレイジーの丘をついでに見ていこうとする。


 そして実に微妙な反応をしてから、帰途につく。


 丘も美しい、たしかに美しいのだが……。


 どだい、違うのだ……!


 神気すら感じさせる『幻の花』と、綺麗なだけの『ただの花』では……!

 幻獣の住まう高嶺と、ゴブリンが棲み着いたゴミ捨て場くらいに……!


 どちらもモンスターには違いないのだが、決して同じではないのだ……!

 それもゴブリン側には責はない、相手が悪すぎただけのこと……!


 そして当然のように、勇者はゴブリンでは満足するはずがない。

 その不機嫌さを察したハナグルイは、真っ先に足元にすがりつく。



「だ、ダーリンっ! アテクシはちゃんとやったのよ!? 最新鋭の魔導装置に、多くの使用人を使って、農薬たっぷりで育てたのよ!? あの子! あの子よっ! あの子の育て方が悪かったんだわ!」



 しかし今回ばかりは丸め込むことができなかった。

 頭に豪雷のような青筋を浮かべたゼニクレイジーは、すがりついたハナグルイの腹を、容赦無く蹴り上げる。



 ……ドスッ!



「ぐふっ!?」



「そんなわけはないでおま! 現にハナアラシが庭師をやっているホーリードール家には『幻の花』が売るくらい咲いているでおま! 今日の新聞を見たでおま!? ハナアラシがインタビューに答えていたでおま! 『幻の花』には聖女の愛が必要だと! ホーリードール家の聖女たちの愛があったからこそ、ここまで咲き誇ることができたと! 自分はその手伝いをしただけだと!」



 胎児のように丸まって苦しがる身体に、さらにストンピングを浴びせるゼニクレイジー。



「聖女のあんさんの愛が足りなかったから、わてらの所には『幻の花』ではなく、食えもせんしょーもない花が咲いてしまったんでおま! このままじゃ大損でおま! この責任、いったいどう取ってくれるでおま!」



「だ、ダーリンっ! 違うの! す、すべての原因はあの子にあるの! だから、いますぐ奴隷として叩き売って……!」



 ……ガスッ!



「げふうっ!?」



「この期に及んで、まだそんなことを言っているでおま!? 奴隷として叩き売られるのはあんさんのほうでおまっ!」



「ゆ……許して! 許してダーリンっ!!」



「気やすくダーリンだなんて、呼ぶでないでおま! もうあんさんなか、わての嫁でもなんでもないでおま!」



 ゼニクレイジーとハナグルイは、先日結婚を発表したばかりであった。

 『幻の花』に囲まれて、世界一美しい式をを挙げるとマスコミに喧伝していたのに……。


 訪れたマスコミに披露されたのは、世界一醜いドメスティック・バイオレンスであった。

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