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85 1周年記念番外編 花の嵐11

 黄金の花に新たなる人生を見出した、創勇者(そうゆうしゃ)ゼニクレイジー。

 くたびれた聖女の一言を真に受けて財産を処分するなど、狂気の沙汰としか思えないが、いちおうの保険はあった。


 それは、ホーリードール家に咲いた、黄金のフラムフラワー。


 黄金のフラムフラワーは『幻の花』のなかでも特に貴重とされており、たったの1本だけでゼニクレイジーの総資産をかるく凌駕してしまうほどの価値がある。


 なので最悪、ハナアラシの園芸が失敗しても、彼に黄金のフラムフラワーを持ってこさせればよい。

 ホーリードール家からゼニクレイジー家に、植え替えさせればよいのだ。


 それだけで、損失分の補填はじゅうぶんにできるというわけだ。


 しかしこれには、大きな罠がふたつ隠されている。


 ひとつめは、『ハナアラシがその気になるかどうか』。

 ふたつめは、『たとえその気になったとしても、植え替えに失敗したら枯れてしまう』。


 ハナグルイはこのことを、ゼニクレイジーには秘密にして、メリットだけを強調して話していた。



「ダーリン、もしハナアラシの園芸が偶然によるもので、本当はへっぽこだったとしても問題はないわ。偶然に育てた黄金のフラムフラワーをこっちに持ってこさせれば、それだけで大儲けできるでしょう?」



「ふむぅ……。でもそんなことをしたら、リインカーネーション様が黙っていないのでおま?」



「リインカーネーション様は、植え替えに反対しようにもできないわ。だって育てたのはハナアラシだって、彼女自身が宣言しているもの。新聞に書いてあったんだけど、花は育てた者が自由にする権利がある、ともおっしゃっていたそうよ」



 ゼニクレイジーはその言葉を信じてしまった。


 そして母親であるハナグルイが依頼すれば、ハナアラシは植え替えを承諾してくれるだろうと思い込んでしまう。


 さらにゼニクレイジーは園芸の素人だったので、植え替えが失敗することがあるなど知らなかったのだ。


 なおハナグルイは植え替え自体も、ハナアラシ自身にやらせるつもりであった。

 なぜならば、植え替えに失敗して枯らしてしまったときの責任を、すべて押しつけることができるからである。



「あああっ!? 黄金のフラムフラワーを枯らしてしまうだなんて! ダーリンっ! この子よ! この子の植え替え方がいけなかったのよ! 黄金のフラムフラワーを育てたからって、きっといい気になって油断していたんだわ! ああっ、アテクシがやっておけば、こんな大惨事にはならなかったのに……! ぜんぶこの子が悪いの! いますぐ奴隷として叩き売って、少しでも損失補填しましょう!」



 ちなみにこれらの悪だくみは、すべてあの時……。

 ホーリードール家の庭園で、スコップをもって彼女が暴れていたとき、とあるオッサンから入れ知恵してもらい、思いついたものである。


 仔細は省くが、その時のくだりを読み返していただければ、ご理解いただけることであろう。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ハナアラシ少年の、新たな人生がスタートした。

 ホーリードール家とゼニクレイジー家を往復して、庭師として働く。


 黄金のフラムフラワーを育てた彼は、すでに天才庭師とされていたので、マスコミもこの事をこぞって取り上げた。



『天才庭師のハナアラシくん、ゼニクレイジー家の主任庭師に!』



『ゼニクレイジー様は語る! この丘を「幻の花」でいっぱいにしてみせると!』



『生き別れの親子が再会し、絆の親子園芸を開始! 愛の花よ、咲き誇れ!』



 ちなみにではあるが、オッサンは園芸ブームが来るのを見越して、『スラムドッグマート』に園芸コーナーを新設していた。

 それが見事にハマって増収増益を果たしたのだが、それはまた別の話。


 当のハナアラシ少年は、ホーリードール家では三姉妹と、ゼニクレイジー家では母親と、園芸の毎日を送る。


 ホーリードール家では花のチョイスをハナアラシに一任していたので、彼は種類豊富で、色とりどりの花を選んで植えた。


 ゼニクレイジー家ではフラムフラワー、グレイスフラワー、ヴェントフラワーなどの特定の花ばかりを植えさせられていた。


 それらはぜんぶ、勇者や王族や貴族などが好む、高価で高貴なる花。

 色は黄金か紫。時たまプラチナか銀を指定された。


 黄金と紫というのはゴッドスマイルが最も好む色で、この世界では崇高なる色とされている。

 彼が会長をつとめる『ゴージャスマート』の看板も、紫色の地に黄金のエンボス文字である。


 そして、両家の規模については対極ともいえるほどに差があった。


 ホーリードール家はハナアラシと三姉妹のほかに、数人の庭師がいる程度。

 使っているのもありふれた園芸バサミに、小さなじょうろ。


 どこにでもありそうな、裕福な家庭の園芸風景である。


 対するゼニクレイジー家は、数百人規模の庭師がアシスタントとして付いていた。

 さらに『魔導装置』と呼ばれる、魔法を原動力とする最新鋭の農業機械を多数導入。


 一大産業を目論んでいるだけあってか、完全に工場のような有様である。


 別に両家は争っているわけではないのだが、勇者とその嫁は一方的に聖女たちを目の敵にしていた。



「たった一輪なんてケチくさいことを言わず、黄金のフラムフラワーを量産して、この丘を黄金に変えるでおま! そうすればホーリードール家にあるフラムフラワーなんて、誰も見向きもしなくなるでおま! そうだ! この丘を観光地にして、入場料を取るでおま!」



「素敵なアイデアね、ダーリン! それにアテクシもホーリードール家の方々は、かねてから虫が好かないと思っていたの! 彼女たちは勇者様なんて興味ない、みたいなフリしてて、ゴッドスマイル様のお気を引こうとして……! そのうえ、ゴルなんとかとかいうよくわからない理由で、聖女にとって大切な集会をお休みになるのよ! アテクシがたくさん黄金のフラムフラワーを咲かせれば、きっと悔しがって、地団駄を踏むに違いないわ!」



 横恋慕のような一方的な想いが火を噴くなか、ついにやってきた。

 両家の庭園は時を同じくして、一面、緑色の蕾に包まれたのだ。


 あとは、花開くのを待つばかり……!

これからは番外編が終わるまでは、毎日2話更新とさせていただきます。

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