18 ついに、支部長…!
調勇者ダイヤモンドリッチネル・ゴージャスティスが犯した最大のミス、それは……。
アントレアの街に10ほどあった『ゴージャスマート』のうち、ハイソな立地にあった2箇所を新たに高級路線の店舗に変え、残りをすべて潰してしまったこと……!
彼が趣味同然に改装した『ゴージャスマート1号店』が大当たり。
他の9店舗の合算どころか、他の街を併せても届かないほどの売上を叩き出してしまったので、彼はルタンベスタ領の支部長会議でもお山の大将となっていた。
ゴルドウルフを煉獄に放逐した功績と、絶大なる売上。
次の組織改変で立場が逆転するのはわかっていたので、上司である方面部長も、彼の決定には逆らえなかった。
そして生まれ変わる、アントレアの街の『ゴージャスマート』たち。
メジャーな戦勇者を起用しての一大プロモーションを決行し、他の街からも札束を抱えた貴族たちがやってくるようになった。
「ひょぉーっ! 超やべぇーっ!? とうとう、となりの街からもカモが来るようになっちったよー! やっぱマジ俺ってば、商売の神様じゃね? 疫病神を追っ払ってからの俺って、マジハンパなくね? キャハッ! キャハハッ! キャハハハハハハハ!!」
もはや笑いが止まらないダイヤモンドリッチネル。
ゴルドウルフとオサラバしてからというもの、何もかもが絶好調。
ついには次期の『ゴージャスマート』を担う、最有力幹部候補とまでいわれるようになってしまった。
だが、それは……崩壊への前触れであることを、まだ誰も知らない。
彼は敵軍に包囲されていることにも気づかない、裸の王様でしかなかったのだ。
『ゴージャスマート』の統廃合のニュースは、ゴルドウルフにとっては福音のように響いていた。
ここで狼は、獲物に襲いかかるような勢いで攻勢に打って出る。
空きとなった7つの物件のうち、一気に5件を借り上げたのだ。
労せずして優良店舗を手に入れ、しかも速攻での展開が可能。
これは彼にとっては濡れ手に粟ならぬ、濡れ身に粟のような出来事であった。
これには大きなメリットがみっつある。
まず単純なものとして、居抜き物件であること。
寸前まで『ゴージャスマート』が営業されていたので、残存設備をそのまま使うことにより、改装の手間が最小限ですんだのだ。
これにより、開店の初期投資費用をありえないほど低く抑えることができた。
そして次に、マーケティング済の立地であること。
普通、店舗を出店する際にはターゲットの客がどれほど訪れるか、どれほどお金を落としてくれるかを綿密に調査して、決定を下さなければならない。
しかし、今回はその費用が一切かからなかったのだ。
なぜならば、そこにはすでに『ゴージャスマート』という同業者が展開していて、
その系列店でかつて店長をやっていたゴルドウルフは、毎月の店長会議に出席し、どの店がどのくらい稼いでいて、どれが優良店舗か赤字店舗かを把握していて、
そのなかで、売上上位にあった立地の店舗を借り上げれば……!
それだけでもう、同程度の売上は保証されたも同然……!
立地が原因の赤字は、起こりえなくなるのだ……!
余談として、こういった出店戦略は、現代日本でも行っている企業がある。
コンビニエンスストアの近くによく、弁当屋があるのがその一例。
客層が似通っているコンビニの近くに弁当屋を出すことにより、マーケティング調査の手間と費用を省いているのだ。
そして最後のメリットとして、人材の確保が容易であったこと。
10あった『ゴージャスマート』が3店舗に統廃合されてしまったということは、そこにいた店員たちは行き場を失ってしまったということである。
ゴルドウルフはその、路頭に迷うかつての仲間たちに声をかけたのだ。
『ゴージャスマート』では、途中で人事規則が改定となり、『大天級』以上の調勇者でなければ、店長にはなれなくなってしまった。
そのせいで、かつてのゴルドウルフや多くの仲間たちは、能力がありながらも店長から平店員に降格となってしまったのだ。
店長クラスは調勇者であるのと、全員ゴマスリで昇格したのを知っていたので全員スルーし、平店員のなかでも優秀だと思える人材を雇用して店長に据えた。
そう……!
ゴルドウルフは『良い店舗』と『良い人材』……!
商売にとっては水と塩ともいえる貴重なものを、労せずして手に入れることができたのだ……!
一気に7つもの城を束ねる身となったゴルドウルフは、支部長クラスに昇格……!
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
●熾天級(副社長)
●智天級(大国本部長)
●座天級(大国副部長)
●主天級(小国部長)
●力天級(小国副部長)
●能天級(方面部長)
●権天級(支部長)
↑昇格:ゴルドウルフ
ダイヤモンドリッチネル
●大天級(店長)
クリムゾンティーガー
●小天級(役職なし)
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ダイヤモンドリッチネルへの包囲網を、着実に狭めることができたのだ……!
しかし、そもそも高級路線の『ゴージャスマート』と、大衆路線の『スラムドッグマート』では対象としている客層が違うので、シェアの奪い合いにはならない。
しかしっ……! しかしである……!
その平定を覆す事件が、これから勃発するっ……!
両者の均衡を崩し、そしてダイヤモンドリッチネルを俎上へと叩きつけることとなる、3つの大事件がっ……!
みっつ……! スリー……! ドライっ……!
いまはこの数字を覚えておいてほしい……!
それらはやがて、三種の神器のように輝き出すことも……!