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75 1周年記念番外編 花の嵐1

このお話も、今日で1周年を迎えました! これもひとえに、読者のみなさまのおかげです!

というわけでここから数日間は1周年記念として、番外編を掲載させていただきます!

1日に複数回の投稿を予定しておりますので、ご期待ください!

 これは、今よりもすこし未来の話。


 ルルディという小さな村に慰問に訪れたリインカーネーション。

 村人たちがこの日のために丹精こめて作り上げたという花畑に案内され、ぽかんとしていた。



「あらあら、まあまあ……これは、どうしちゃったの?」



 おそらく昨日までは、花の咲き乱れる公園であったろうそこは、見る影もない。

 何者かが柵の中に押し入り、花を踏み荒らし、引っこ抜き、散らされて、さながら花の大量虐殺のような有様であった。


 特に毎日のようにこの公園に通って世話をしていた子供たちは、花の肉親であったかのように泣き崩れている。

 リインカーネーションを案内してきた村長は真っ青になっていた。



「……なっ!? なんということだ!? 村のみんなが手塩にかけて育てた花を、メチャクチャにするだなんて……! きっと『ハナアラシ』に違いない!」



 「ハナアラシ?」とリインカーネーションが尋ねると、



「はっ……はい! リインカーネーション様! この村にハナアラシと名乗る、みなし子の悪ガキがおりまして……! ヤツは花壇や家の軒先にある花をむしっては皆を困らせているのです! 子供のイタズラかと思い、看過していたのですが……しかしここまでされては、許すわけにはまいりませんっ! 今すぐ引っ立てて、罪の裁きを……!」



 すぐさま村の若い衆の手によって、件の少年は捕縛。

 村の人々が集まった、公園の広場に連行されてきた。


 突き出された少年は、村人全員から罵られてもまるで反省する様子はない。

 まだ小学生くらいだというのに、肝の据わった極悪人のように、「フン!」とそっぽを向いている。


 そんな彼にとうとう、石の雨が降り注いだ。



「おめぇ! 今日という今日は許さねぇぞっ!」



「せっかくリインカーネーション様がお越しくださっているのに、とんでもねぇことをしてくれたな!」



「こんなへんぴな村に来てくれる大聖女様なんて、普通はいないんだぞ! 村人みんなで歓迎してたのに……!」



「それをおめぇが、全部台無しにしやがったんだ!」



「おめぇみてぇなみなし子に同情したのが間違いだった! とっとと村から追い出しとけば良かったんだ!」



「いや、追い出すだけじゃ飽き足らねぇ! 吊して、花の肥やしにしてやるっ!」



 ハナアラシ少年の悪ガキっぷりには、ずっと手を焼かされていたのであろう。

 村人全員が一丸となって、罵声と石を容赦なくぶつけていた。


 多くの憎しみが込められた(つぶて)は、嵐のように激しかったが……。

 しかし通り雨よりも早く、それは止んだ。


 なぜならば、



「みんな、いけません!」



 ……バッ! と例の大聖女が、少年を庇う投石の盾となって、立ちはだかったからだ……!



 ……ガッ! ガン! ゴンッ!」



「あっ、あうっ!? あらら……」



 石のシャワーを身体じゅうに、まともに浴びてしまうリインカーネーション。

 頭から血を流しながら、へにょり、と崩れ落ちる。


 これには、村じゅうがショック死寸前なまでに肝を冷やした。

 冷汗三斗(れいかんさんと)ならぬ、冷汗三トンなまでに。


 大聖女に石を投げつけるのは大犯罪。

 たとえ偶然であろうが事故であろうが、神の使いに仇なす行為とされる。


 明るみに出れば、こんな小さな村など地図から消えて無くなるどころか……。

 隣国に戦争の大義名分を与えてしまい、国が縮んでしまうほどの一大事となってしまうのだ……!


 しかし彼女はクラクラと目を回しながらも、



「あらあら、まあまあ……。ママ、また転んじゃったみたい。いたいのいたいの、とんでいけ~!」



 ……パアッ!



 貴重とされている聖女の祈りのひとつ、『癒し』を惜しげもなく発動……!


 ちなみにではあるが、聖女は痛みを伴う怪我を負ってしまった場合、自力では治すことはできない。

 なぜならば、痛みがあると祈りの集中ができず、『癒し』を発動できないためである。


 しかしこの(●●)聖女は、特例中の特例であり、規格外。

 祈りというよりも、お遊戯のような一言だけで全てを健やかにできるのだ。


 しかもそれは、自分の怪我に対してだけではなかった。



 ……パアアア……!



 背後にいた少年の怪我すらも、いっしょに……。

 いやいや、それどころか……。



 ……パアアアアアアーーーーーーッ!!



 石を投げていた者たちすらも、光に包み込む。


 ドームのような光のなかにおさまった、すべての村人たち。

 中は春のようにぽかぽかと温かく、母の胸に抱かれているような落ち着きを彼らにもたらす。



「はぁぁっ……こ……これが、リインカーネーション様の『癒し』……」



「はふぅ……なんという温かく、柔らかな光……」



「ハナアラシを庇って、自らが石をお受けになるだなんて……噂以上に、慈悲深いお方だ……」



「しかも貴重とされている聖女様の祈りを、我々みたいな者にもお与えくださるなんて……」



 さっきまで少年を殺しかねない勢いだった村人たちの表情は、実に穏やか。

 しかし型破りな大聖女の力は、こんなものでは済まなかった。



「あ……あれ? ずっと悩まされていた、腰痛が……?」



「え、ええっ……? わたしの、火傷の跡が……!?」



「消えていく……無くなっていく……!?」



「わ、ワシなんて、杖が手放せなくなかったのに、ほれ、この通りじゃ!」



 なんとリインカーネーションの『癒し』は、村人たちの心だけでなく……。

 彼らを長年悩ませてきた病気まで、ついでのように治してしまったのだ……!」



「す……すごい……! なんというお力だ……!」



「り、リインカーネーション様が女神様の生まれ変わりというのは、本当だったのね!」



「あ……! ありがたや、ありがたや……!」



 「よいしょ」と立ち上がるリインカーネーションに、村人たちは一斉にひれ伏しす。

 彼らは偉大なる力に恐縮しきりだったが、同時に、別の不安も抱きつつあった。


 これほどの『癒し』を与えられた以上、向こうはどんな要求をしてくるのか、と……!


 勇者以外の人間にとって、聖女の『癒し』はタダではない。

 無償で病人を治療する医者がいないように、必ず何らかの見返りを要求してくる。


 それは、王族や貴族などでないと払えないような、庶民にとっては法外なまでに高くつくものがほとんど。

 そしてたとえ一方的な押し売りであっても、神聖なる力を断ることなどできないのだ。


 聖女側も払えないのがわかっているので、村人などには『癒し』をくれてやることはない。

 あるとすれば、村を借金まみれにして潰したいような意図があるときのみ。


 もしそのへんの大聖女が、このルルディの村人たちに『癒し』を与えるようなことがあったら……。

 この特産品もない村では、全財産を差し出したところで足りないだろう。


 しかも今回は、全員の病を治すなどという、ありえないほどの奇跡の大盤振る舞い。


 村人全員が奴隷にされて、一生タダ働きをさせられたところで、払いきれるものでないのは明白……!


 そしてついに、悪夢のような瞬間がやって来る。



「あのね、ママ……みんなにお願いがあるの」



 自分のことを『ママ』と呼ぶ大聖女は、大きな胸の前で両手を合わせ、小首をかしげてかわいくおねだり。


 ……来た……! と村長をはじめとする村人たちは、誰もが身体をこわばらせた。

 いったいどんな無理難題を押しつけられるのか、戦々恐々とする。


 しかしてその無垢なる唇から飛び出した、無邪気なる『お願い』とは……?

 それは恐怖のあまり、耳がおかしくなったのかと思えるほどに、とんでもなかった……!



「みんな、このハナアラシちゃんのこと責めないであげて。少しだけ、ママに任せてほしいの。ねっ、お願い」



 信じられない一言に、騒然となる村人たち。


 そして子供ながらに、眉をひそめていたのは……。


 身体つきはほっそりしているのに、豊かすぎる母性が横からはみ出しているあまり、なんともアンバランスなシルエットになっている、その背中を……。


 ただただ唖然と眺めていた、ハナアラシ少年であった……!

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