74 デス・ゲーム1(ざまぁ回)
スキュラからのラブレターを読み終えた24は、同じくリュックに入っていた、可愛くラッピングされた袋を見やる。
その中身を確認する前に、手紙の裏面を確認していると……不穏なる気配を察した。
「……誰だっ!?」
振り返ると、茂みがガサガサと揺れ……。
「誰だって、俺だよ」
同じ隊の仲間である、16が姿を現した。
「なんだ、お前か……」
「どうしたんだよ? シてるところを見られたみたいなツラして……。ションベンだけじゃ、我慢できなくなったのか?」
「そ……そんなわけあるかよ」
24は取り繕いながら、リュックの中にラブレターを押し込み、見られないように閉じる。
背負いなおしながら、いそいそと立ち上がった。
「で、お前はなんでこんな所にいるんだ?」
「いや、ションベンが終わって集合場所に戻ろうとしたんだけど、道に迷っちまってな。……あ、そうそう。迷ったついでに、面白ぇモンを見つけたぜ、たぶん野良犬マスクの野郎が落としていったモノだろう」
16は言いながらポケットから何かを取り出し、24に向かって放り投げた。
小石くらいの大きさのソレは、まさに小石だったのだが、24がそれを認識したと同時に、
……バッ!
と一気に距離を詰めてくる、16。
剣のリーチ圏内まで飛び込みつつ、一気に抜刀。
……シュランッ!!
その音は、ふたつ同時におこった。
……ガキィィィィィィーーーーーーーーーーーーーンッ!!
石に気を取られて初動がワンテンポ遅れてしまった24。
鞘から抜きかけの剣で、なんとか受け太刀に成功する。
「な、なんのつもりだっ、16!?」
白いマスクの向こうから、「フンッ!」と笑いがおこった。
「やっぱり、同じ訓練場の土に、同じだけの汗を染み込ませたヤツだけあるな。そんじょそこらのヤツなら、この小石だけでバッサリ殺れてたんだがなぁ」
第10番隊は前述のとおり、剣術においてはかなりの手練れ揃いである。
最初、16は24の背後から忍び寄り、音もなく忍殺するつもりだったのだが……気配でそれを察したことからも明らかであろう。
そして、悟られることもあるだろうと考えていた16は、もうひとつの手段も用意していた。
あらかじめポケットに入れておいた石を、意味ありげに投げ渡すことで24のスキを一瞬だけ作りだし、斬りかかったのだ。
白昼に煌めくふたつの刃が、ギリギリと音をたてる。
24は仲間の突如の凶行の理由を、すぐに察した。
「まさか、お前にもっ……!?」
「ああ……ってことは、お前にもラブレターが届いてたのか……」
「仲間どうしで殺し合いなんて、馬鹿なことはやめよう! やめるんだ!」
「もしお前さんが俺の立場だったら、そんな言葉を吐いていたかなぁ……?」
鍔競り合いは、16にかなりの分があった。
24の剣はまだ鞘から抜けていないうえに、抜刀途中の不自然な体勢で受けてしまったので、押し返すことができずにいたのだ。
不利な状況から脱出するため、いちかばちかの賭けに出る24。
「くううっ!」
体勢を崩しながらも後ろに飛び退き、距離を取る。
しかし容赦無い剣閃の斬雨が降りかかった。
……ガキン! ガキン! ガキンッ!!
16は絶え間ない剣撃の乱舞を繰り出しながら、挑戦的に笑いかける。
「第10番隊のヤツらの剣の腕前は、均衡してる……! まともにやりあっちゃ、5分5分だが、こうしてうまいこと先手を取れりゃ……! どうだっ、凌ぐだけで精一杯だろう!?」
剣術に限らず、白兵戦というものには『攻めている側』と『攻められている側』という概念が存在する。
同じ条件で戦っているように見えて、まるでサッカーでボールを取り合うかのように、『攻撃権』を奪い合っているのだ。
実力が離れている者の戦いであれば、『攻撃権』は常に上手の者が握る。
下手の者は攻撃をしのぎつつ、一瞬だけ『攻撃権』を掠め取り、反撃するしかない。
16の言うとおり、第10番隊の者たちの実力が伯仲しているのであれば、先手を取れた16のほうに『攻撃権』がある。
16が攻撃を続けている間は、24は防御に徹するほかない。
無理に『攻撃権』を奪おうとすれば、バッサリやられる……!
それが剣の世界における、『駆け引き』というものなのだ。
24は絶え間なく寄せては返す白刃の波を、懸命に受け止めていた。
彼も並の使い手ではないので、後手に回ったとしても、そう簡単に斬られることはない。
となれば、後ずさって距離を取りつつ、雨が止むのを待つのみ。
やがて16は疲れて、太刀筋は鈍くなるはず。
その一瞬のスキに、反撃を叩き込めれば……!
その狙いに16も気付いていないわけがない。
となると16は一方的に有利な状況を維持したまま、一気に勝負を決めに来るはず。
しかしいくら待っても16の剣撃のリズムは一定であった。
その不自然さに、24はもっと早く気付くべきであったのだ。
……ズザアッ!
と後ろに大きく飛びすさる24。
彼はここに来て、新たなる狙いを見出していた。
――この後ろには木があるから、追い詰められたフリをして大振りを誘い、タイミングを見計らってかわせば……。
16の剣は木に刺さり、大きな隙ができるはず……!
そう思い、背後にある木に背中を預けようとしていたのだが、
……ズムッ!
と脇腹に、焼け火箸を押し当てられたような熱さを感じた。
「ぐうっ……!?」
首をよじって確認してみると、そこには……。
木の幹に突き立てられた、双刃の小太刀が……!
双刃というのは、柄の両端に刃のついた武器のことである。
しかし、第10番隊は皮鎧を着用しているので、24の受けた傷はそれほど深くなかった。
しかし、彼の身体は硬直し、剣を取り落としていた。
勝負は決したとばかりに、16は剣を鞘におさめながら言う。
「ソイツが俺の『プレゼント』ってわけさ。身をもって感じていると思うが、刃には毒が塗ってある」
答えるように、24の口から「がはあっ!」と血が飛び散った。
「なにせ俺たちゃ五分五分だからな。いくら毒の武器があったからって、振り回して当てるのは骨だ。だからちょっと罠を仕掛けさせてもらったのさ」
「こ……ここ、まで……誘い込んだ……と、いうのかっ……!?」
「ああ。といっても、プレゼントは何本かあったから、いくつかの場所に仕掛けておいたんだ。一箇所に誘い込もうとすると、太刀筋が不自然になって、感づかれるかもしれないと思ってな」
「ふ……不覚……っ!」
24は剣士らしい言葉を吐きつつ、どさり、と崩れ落ちた。
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名もなき戦勇者 170名 ⇒ 171名
名もなき創勇者 61名
名もなき調勇者 113名
名もなき導勇者 167名
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「これで、まずは1匹、っと」
しゃがみこんだ16は、24の背負っていたリュックを開く。
そして未開封のままのプレゼントに手を伸ばした。
「武器は、多いほうがいいからねぇ」
彼が鼻歌まじりに、リボンをほどいた瞬間……。
……ドォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
爆炎が、吹き上がった。
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名もなき戦勇者 171名 ⇒ 172名
名もなき創勇者 61名
名もなき調勇者 113名
名もなき導勇者 167名
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跡形もなく消し飛んだ、ふたりの隊員。
枯葉のようにひらひらと舞い散る、燃えカスとなったラブレター。
その裏面には、こう書かれてあった。
『このプレゼントは開けたら大爆発を起こすから、開けちゃダメよ。使い方は……自分で考えてね』
お話の途中ですが、明日からは本編を中断して、1周年記念の番外編をお送りします!
番外編は別枠でなく、こちらに投稿させていただきます!
1日に複数回の投稿となる予定ですので、ご期待ください!