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70 幸せな家族たち

 スキュラは滞在しているホテルに戻ると、同じく島を訪れていた第10番隊の隊員たちを招集、明日の朝の作戦決行を伝えた。


 部下は他の神尖組の部隊と同じ、総勢30名。

 しかし誰もが『妖剣士』として名高い手練れたちばかりである。


 彼らは世界最強の『妖剣士』として有名なスキュラに憧れ、第10番隊を志した者たち。

 そのうえスキュラから催眠術をかけられ、彼のためなら生命をも惜しまないほどの絶対的信者となった。


 彼の血も喜んで飲んでいるので、『拒絶の石』の効果を受けない。

 スキュラの身体に触れることのできる、希有な存在であるともいえる。


 スキュラは用心深い人物なので、自分の血を分け与えることを基本的にはしない。

 しかし本当に何者からも触れないとなると、いざ怪我をしたときに治療をしてもらえなくなるので、特別に彼らだけには血を与えていた。


 野良犬狩りの任務を説明された部下たちは、統制された動きで「はいっ!」と敬礼を返す。

 そして解散、おのおの部屋へと戻り、明日の朝の出撃に備えて準備をはじめた。


 ある隊員が部屋に戻ると、家族が迎えてくれた。

 彼らはもともと式典のために現地入していたので、ついでに家族も連れてきていたのだ。



「パパ、おかえりー!」



「あなた、おかえりなさい! ちょっと、聞いてよ!」



「どうしたんだ?」



「さっきホテルにあるカジノにルーレットをしに行ったんだけど、なぜか閉店してたのよ! もう、この島に来た時は『狭間ルーレット』をするのが楽しみだったのに!」



「ママは邪教徒が苦しむところを見るのが大好きだもんなぁ、明日にでもよそのカジノに行ってみるといい」



「うん、そうするわ。この子もいい年頃だから、そろそろ『狭間ルーレット』で遊ばせておかないとね。いざ邪教徒を殺すときに躊躇ったら落第だから、いまのうちに慣れさせておかないと。あ、ところで、お仕事のほうはどうだったの?」



「パパ! 次はどんな悪者を殺すの!?」



 隊員は、「ほら、これだ」と作戦説明の際に受け取った資料を家族に見せた。

 それは、野良犬マスクとチェスナの人相書きであった。


 以前の作戦であれば、『野良犬マスクの生死は問わず、チェスナは生け捕りに』という内容だったのだが、今回はその逆。

 『野良犬マスクは生け捕りに、チェスナは生死は問わず』に変わっていた。


 なぜならば、神尖組の入隊式典の余興で、処刑されるのがチェスナから野良犬マスクに変更になったためだ。

 しかし『火は絶対に使わない』というタスクだけは共通として残っていた。


 息子は人相書きの少女を見た途端、目を輝かせた。



「パパ! このワイルドテイルのメスを殺すの!? なら、剥製にして持って帰ってきてよ!」



「やれやれ、お前は本当に剥製が好きだなぁ」



「この子ったら、この前の社会見学で『勇者清浄偉績記念館ゆうしゃせいじょういせききねんかん』に行って、たくさんの邪教徒の剥製を見てきてから、ずっとこうなのよ」



「うん! いまクラスでも剥製が流行ってるんだ! ワイルドテイルのメスの剥製、それもこんなに小さいのは珍しいから、みんなに自慢できるよ!」



「そうね。こんなに幼いワイルドテイルのメスの剥製なんて、記念館くらいにしかないわね。それこそお家にあったら、ご近所に自慢できるかも」



「そうか、じゃあコイツをお土産にするとするか。それに明日には任務が終わるから、そのあとは入隊式の日まで、家族揃ってバカンスといこうじゃないか」



「わぁい! やったぁ! パパ、大好き!」



「うふふ、あなた、お仕事がんばってくださいね!」



 愛する家族から、ひしっ、と抱きしめられる隊員。


 ……いま、このホテルを外から眺めてみたとしよう。

 すると、こんな幸せそうな家族の光景を映し出した窓が、他にも29部屋ほどあった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 そして、同じ頃……。

 指名手配中のニセ勇者を追いかけていたストロングタニシは、神尖組(しんせんぐみ)の若い衆に捕まって、街の美容院に連行されていた。



「ヘンッ!? こんなところに連れてきて、いったい何だっていうんですかい!?」



「うるさい、大人しくしろ! リヴォルヴ様からお前に、第10番隊を野良犬マスクの所まで案内せよという上意だ!」



「ヘンッ!? 第10番隊!? まさか『神の指(ゴッド・フィンガー)』を、このアッシが……!?」



「そうだ! 隊長のスキュラ様は汚い格好の男が大嫌いであるゆえ、貴様の身なりを明日の早朝までに整えよとのことだ!」



「うわっ!? な、なんですかい、こりゃあ!?」



 ボサボサの髪をゾリゾリと、無精髭をバリバリと乱暴に刈られてしまったストロングタニシ。

 その上から白粉のようなものをベタベタと塗りたくられ、目を白黒させていた。



「第10番隊は隊規定により、同行者も含めて顔を白塗りにする決まりがある!」



「ええっ!? ってことは、スキュラ様と同じ顔になれってことですかい!? ……あれ!? でも、隊員の方々は全員、マスクみたいなのを被ってるじゃないですかい!?」



「隊員は任務遂行中にはマスクを被っているが、その下はぜんぶ白塗りなのだ! わかったら、大人しくしろっ!」



「うひゃあっ! 第10番隊の妖術剣を間近で見られるのは、願ったりかなったりだが……こりゃあたまんねぇっ!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 そして、次の日の早朝……。

 野良犬マスクのアジトがあるという、シンイトムラウの麓に、第10番隊は馬車で乗り付けた。


 隊長であるスキュラは、そこで出迎えてくれたピエロみたいなメイクを施されたストロングタニシを品定めする。



「ふぅん……あなたが例の案内人ちゃん? 小綺麗にはなったようだけど、なんだかぎこちないわねぇ……。それにイキがってる巻貝みたいな顔してるし……スキュラちゃんの趣味じゃないわねぇ……」



 ファッションチェックは早々に中断され、白い仮面を押し当てられた。



「その顔を視界に入れたくないから、任務中はずっとそのマスクをかぶっていること、いいわね」



 「ふぁい……」と情けなく返事をして、仮面を被るストロングタニシ。


 それはペストマスクのような形状をしており、口先が尖っている。

 第10番隊のエンブレムはツルなので、それを模しているのだ。


 そして隊長以外は全員、そのマスクを被る決まりになっている。


 それは見た目として不気味なので、見る者を威圧する効果もあるのだが……。

 彼らを妖剣士たらしめるための、恐るべき効果もあったのだ……!

実をいうと第10番隊の悪行を描いたヘイト回を考えていたのですが、あまりにアレだったので省略しました。

隊員の家族の会話で、第10番隊はどんなことをしていたかを想像してください。

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