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68 邂逅する者たち

 『八十裂(やそざ)き事件』『犬神事件』に次いで、グレイスカイ島を襲ったのは……。


 『セレブ狂乱事件』……!


 クーララカの暴露と扇動によって、カジノに集まったセレブたちが大暴れ。

 それにより、この島いちばんのカジノは破壊されてしまい、営業できなくなってしまった。


 そこ以外の島のカジノには物理的な被害こそなかったものの、巻き込まれる形で閉店を余儀なくされる。


 なぜならば、X-DAY(あのひ)……。

 今回のリゾートにおける、カジノ利用客のほとんどが、暴動に参加していたから……。


 そう……!

 ようは顧客全部に『この島のカジノはイカサマをしている』と知れ渡ってしまった以上、営業を続けることなどできるはずもなかったのだ……!


 ちなみにではあるが、『ぜんぶがイカサマ』というわけではない。

 カジノのオーナーたちは、リヴォルヴのイカサマ嫌いを知っていたので、小遣い稼ぎ程度の『ちょっぴりインチキ』くらいだったのだが……。


 しかし広まってしまった悪評は、もうどうにもならない。


 普段は最高の料理を出す店でも、たった1回の食中毒で台無しになるように……。

 少なくとも、今シーズン中のカジノの儲けは絶望的になってしまった。


 これはもはや、三重苦といっていい。

 出港制限に加えて、ビーチにカジノという、二大リゾートを封印されてしまっては……。


 本当にただの『殺人鬼のいる島』……!

 あとに残った娯楽は、『殺される』だけ……!


 そして……信じられるだろうか?

 これほどの恐慌だというのに、それらの糸をたどれば、全てがたったひとりのオッサンに、たどり着くというのを……。


 そう……!

 あの(●●)オッサンは、『神の住まう山(シンイトムラウ)』の頂上付近にある、穴蔵から……。

 文字どおり『穴熊囲い』の中から、一歩も出ずに……!


 対戦相手の大駒という大駒を、すべて奪い去ってしまったのだ……!


 ちなみにではあるが、神尖組(しんせんぐみ)によって捕まってしまったカジノ客たちは、一部をのぞいてほとんどが釈放された。


 本来は、勇者の息のかかったカジノで暴れるなど、許されることではないのだが……。

 逃亡のおそれがないという観点から、『本土に戻ったときでも、本件は他言無用』という誓約書を書かせるだけで、お咎めなしとなった。


 しかし、それでも観光客たちの不満は募る。

 そして、一気に街が荒みはじめる。


 X-DAY(あのひ)、カジノで全財産を賭けてしまったセレブたちは、賭け金を返してもらえず……。

 無一文になってしまったせいで、ホテルを追い出されてしまった。


 ある程度の権力者であれば、もちろん救済はされたのだが……。

 小金持ちは程度は切り捨てられ、街に放り出され……。


 結果として、『身なりのいいホームレス』が続出してしまったのだ……!


 野良セレブとなってしまった者たちは、路地裏でうなだれていた。

 その中には、家族連れの姿もあった。


 彼らは、困惑と後悔にさいなまれる。


 楽しいリゾートに来たはずなのに、どうして……!?


 馬に追い回され、水死体を見せつけられ……。

 そして、島に閉じ込められ……!


 ウサ晴らしに向かったカジノはインチキだとわかり……。

 抗議した結果、暴力で鎮圧されたうえに、金はすべて奪われ……。


 挙句の果てには、宿無し生活っ……!

 何も悪いことをしていないのに、なぜここまで落ちぶれてしまったのか……!?


 彼らは絶望し、苦悩した。

 そして自殺を考え、他人を傷付けようとした。


 何もかも見捨てられ、自暴自棄に走ってしまったのだが……。

 しかしそんな彼らにも、手をさしのべる者たちがいた。


 それは、皮肉にも……。

 集落に住む、ワイルドテイルたちであった……!


 『セレブ狂乱事件』の噂を聞きつけた彼らは、街におりて野良セレブたちに声をかけた。



「……行くところがないんだったら、ワシらのところに来るといい」



「ワシらの仲間を傷付けて喜んできたアンタらは、死ぬほど憎いが……しょうがあるめぇ」



「たまに神尖組の方々がやって来て、ワシらを兵器実験に使うことがあるが……アンタらには危害は加えんじゃろ」



 本来は、集落に住んでいるワイルドテイルは街に出てはいけない決まりになっているのだが、今は神尖組の注意も彼らには向いていなかったので、比較的自由に行動できた。


 ちなみにではあるが、街で暮らしているワイルドテイルのホームレスたちは、自らすすんでホームレスとなっているので、彼らが声をかけたところで集落に行くことはない。


 なぜならば集落に行ってしまうと、神尖組の兵器実験に晒されてしまう可能性がある。

 モルモットにされて殺されるくらいなら、ホームレスとしてのたれ死ぬ道を選んだ者たちなのだ。


 いずれにせよ、ワイルドテイルたちのやさしさによって、多くの者たちが生命を繋ぎ止めることとなった。

 集落に案内された元セレブたちは、ワイルドテイルたちに世話になることによって、誤解が解けていく。


 いままでは邪教徒だと思っていた、野蛮なる半獣人たち……。

 世界を闇に染めるために、邪教を世に広めている者たち……。


 粛正されて当然だと思っていた者たちが、こんなにも……。

 あたたかく、親切で、やさしかったとは……!


 衣服も風呂も布団も、何もかも粗末であったが、嬉しかった……!

 出された食事は貧相であったが、今まで口にしたどんな美食よりも、美味しかった……!


 そして朝は、みんなで外に出て、身体を動かすようになった。

 「ほら、見てみい」と山のほうを指さすワイルドテイルたちにつられ、見上げてみると……。



「あっ……!? あれは、野良犬マスクっ!?」



「そうじゃ、いつもこの時間になると、あのお方は巫女のチェスナと一緒に変な踊りをするんじゃ」



「ワシらもそれを真似するようになったんじゃが、あの踊りをやった日は体調が良くてのう」



「嫌なら無理にとは言わんが、アンタらもやってみるといい」



 なお『変な踊り』というのは、スラムドッグマート開店前に、店員たちがやっている朝の体操のことである。

 ちなみにではあるが、聖女たちのいる店舗では、店員に限らず多くの者たちが体操に参加する。


 胸の重さにてんてこ舞いになる、とある大聖女を見るためであるのだが、それはさておき……。


 元セレブたちの心は、野良犬体操を通じて、じょじょにほどけていった。


 この島を騒がせ続けていた、野良犬マスクは……。

 噂では殺人マシーンのように冷酷だと聞いていた、野良犬マスクは……。


 たしかに見た目は殺人鬼っぽいけど、案外、悪い人ではないのかも……!?


 そんな心理が芽生えつつあった。


 そう……オッサンはここにきて、大駒だけでなく、『観光客』という名の、小さな駒まで取り込みつつあったのだ。


 『歩のない将棋は負け将棋』とばかりに……!

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