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67 追われる者

 ……さて、お気づきだろうか?

 リヴォルヴと、哀れ『ロシナンテルーレット』にかかってしまったオーナーのやりとりに、大きな誤りがあったことを。


 もしこのことがリヴォルヴの耳に入っていたら、戦局が変わっていたかもしれない、重大な情報……。

 それが、欠けていたことを……!


 例えるなら、配達されたばかりのピザが一切れ欠けていて、おかしいと思わない客はいない。

 配達員が口のまわりをソースまみれにして、「最初からそういうデザインなんすよ」と言われたところで、納得できるはずもない。


 しかし、受け取ってしまった……! リヴォルヴは……!

 つまみ食いされた、ピザを……!


 そして、制裁した……! 店員を……!

 例えるなら「おつりをごまかした」ほどにかけ離れた、別件で……!


 欠けていた重大な情報の一片、それは……。

 ジャンジャンバリバリに取って変わった、ワイルドテイルのMCについてのことである。


 オーナーは見た目の印象からして、クーララカのことを『ワイルドテイルの女』としか報告しなかった。

 この『ワイルドテイル』という見た目が曲者で、先入観をつくり出してしまったのだ。


 人間というのは、出会った他人に大いなる特徴があると、それに注意を奪われ、小さな特徴を覚えなくなってしまう。


 『三億円事件』を例にしてみよう。

 この事件の目撃者たちは、警察から犯人の特徴を尋ねられた際、『白バイ隊員の格好をした男』と答えた。


 もちろんそれは手がかりのひとつではあるのだが、犯人は白バイ隊員の格好を四六時中しているわけではない。

 おそらく犯行後はその制服を脱ぎ捨てて、まったく違う格好でいることだろう。


 ここで重要なのは、顔つきなどの小さい特徴……。

 たとえば『キツネ目の男』などの情報があったとしたら、もしかしたらぐっと逮捕に近づいていたかもしれない。


 もしオーナーが『ワイルドテイルの女』という大きな情報以外にも、クーララカの特徴を伝えていたら……。

 リヴォルヴは手配書と合致する箇所を見いだし、点と点とを繋ぎ合わせていたかもしれない。


 しかしこの島を支配する勇者は、『ワイルドテイルの女』という報告を受けたとたん、彼女のことを意識外へと追いやってしまったのだ……!


 しかし、そう考えるのも無理もない。

 『ワイルドテイルの女』などという存在は、この島では隣家の壁のシミも同然。


 他人の家の壁など、シミが増えようが穴が開こうが、なにかを埋めた跡があろうが、気にかける者などいないように……。

 『ワイルドテイルの女』は野良犬事件の容疑者から、早々に外されていた。


 だが野良犬に勝ちたければ、もっと疑ってかからねばダメだったのだ……!


 そしてリヴォルヴの判断ミスはこれだけでない。

 彼の思考は、オーナーの報告により、すっかり誘導(●●)されてしまっていた。


 『いまこの島を騒がせている野良犬マスクは単独ではなく、やはりグループで、他にも協力者がいるのだ』と……!


 しかしこれも、無理からぬ話である。


 オッサンひとりで神尖組(しんせんぐみ)の隊を2つも潰せるわけがない……!


 オッサンひとりでそれらの死体を気付かれずに屋敷に運び込めるわけがない……!


 と、自分の妹の可愛さを疑う兄のような心境で結論づけたとしても、誰が責められようか。

 なぜならば、これもまた人間の(さが)のひとつなのだから。


 人間というのは、自分が最初に立てた仮説に、事実が当てはまってしまうと……。

 「やっぱりそうだったのか」と思考停止してしまい、他の可能性を探らなくなってしまう。


 ようは思考停止してしまうのだが、やはり野良犬に勝ちたければ、それではいけない。

 これもまた、もっと疑ってかからねばダメだったのだ。


 『本当に野良犬マスクはグループなのか? 本当はグループに見せかけた単独犯なのではないか?』と……!


 しかし、勇者という存在……。

 人間以下の存在レス・ザン・ヒューマンにそれを期待するのは、酷というものであろう。


 これから彼が、大いなる采配ミスを犯したとしても……。

 誰が彼に、石を投げることなどできようか……!


 リヴォルヴは即日、神尖組に通達を出した。



『シャンパンアケマクリ、もしくは勇者ジャンジャンバリバリの名を騙る、干からびた煮卵のような男が逃走中。総力をあげて探し出せ』



 彼の持ち駒(リソース)である神尖組の隊員たちを、大幅投入。


 これにより、とある人物が危険に晒され、逆にとある人物は安全になってしまう。

 天秤が、大きく傾くように。


 いままで『野良犬マスクの協力者かもしれない』という疑惑を持って追われていたクーララカの追っ手が、手薄になり……。

 『明らかに野良犬マスクの一味』となってしまったジャンジャンバリバリが、マークされることに……!


 今やグレイスカイ島の街の路地裏は、表通りのような喧噪に包まれていた。



「……いたぞ! あそこだ!」



「本当に、干からびた煮卵みたいだな! おいっ、待てーーーっ!」



「コーックックックックッ……! 勇者の名を騙る不届き者の首を取れれば、一気に大出世が見込めるぜっ! コックェーーーーーッ!」



「へんっ! 待ちやがれっ! 勇者の名を騙るなんて、ふてぇ野郎だ! てめぇみてぇな腐った卵は、この最強級勇者であるジャイアントタニシ様が踏み潰してやらぁ!」



 殺気だった男たちが、手に手に刃物を持って、ひとりの男を追いかけ回している。



「ひっ!? ひいいっ!? 誤解じゃん誤解じゃん誤解じゃんっ! 本当に俺は勇者なんじゃん! ぎゃあっ!? 刺すなじゃん刺すなじゃん! 死ぬじゃん死ぬじゃん! 死ぬじゃああああーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」



 逃げながら必死に、真実を訴えるジャンジャンバリバリ。

 樽にすらも入れてもらえず、直接刺されてしまった海賊のように、身体じゅうに剣が刺さりまくっていた。

金今 黙様よりレビューを頂きました! ありがとうございます!

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