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60 野良犬レディの反撃7(ざまぁ回)

「み……水責めされながらの実況なんて、無理じゃんっ! み、みんなっ! 俺は本当に本当の勇者なんじゃんっ! 勇者ジャンジャンバリバリなんじゃんっ! 信じてじゃんっ! 信じてじゃぁぁぁぁぁんっ!! こ、これ以上、水責めされた……死んじゃうじゃんっ! 死んじゃうじゃんっ! うっ……! ううっ!」



 ジャンジャンバリバリは、シクシクと泣きはじめた。


 それは泣き落としなどではなく、心の底から滲み出した涙だったのだが……。

 いままで多くの『狭間ルーレット』を見てきた、目の肥えた観客たちには一切響かなかった。


 たとえば200周……いやせめて、20周を耐えたあとならともかく……。

 たったの2周では、誰の心も動かせるはずもない……!



「おいっ! ふざけるなっ! まだ2周目だぞっ!?」



「『狭間ルーレット』をやって、こんなに早く泣きはじめた球、初めてだわっ!?」



「そうだそうだ! 俺ならもっともっと耐えられるぞっ! 情けないっ!」



 観客席のセレブたちは、球のあまりのふがいなさに、球の訴えとは真逆の三段論法に及んでいた。


 一、ジャンジャンバリバリ様といえば、直系の勇者様……!


 二、ゴージャスティス様の血を引く勇者様が、こんなに情けないわけがない……!


 三、やっぱりあそこにいるのは、勇者様の名を騙る、偽物、愚か者、不届き者……!


 ちなみに誰もが「少なくともあのニセ勇者よりは、自分は水責めに耐えることができる」と思い込んでいた。

 しかし現実はそんなに甘くない。


 いままで『狭間ルーレット』にかけられたワイルドテイルたちは、神尖組(しんせんぐみ)の暴虐によって、持たざる者とされていた。

 彼らに唯一残されていたのは、この島に古くから伝わる『シラノシンイ』への信仰心。


 多くのものを持つ者たちとは、どだい精神力が異なっていたのだ。

 仮に観客席にいるセレブを無作為に選んで、『狭間ルーレット』にかけたら、1周目で……。



「がはぁぁぁぁっ!? くっ……苦しいっ!? もうやめ、やめててくれっ! や、やるっ! なんでもやるっ! 金でも宝石でも、ワシの地位もぜんぶみなくれてやるから、許してぇぇぇぇぇ!」



 と、どこかで見覚えのあるリアクションをしたであろう。


 ジャンジャンバリバリはいちおう、晴れ舞台に返り咲くという執念があるので、セレブたちよりはハングリー精神旺盛だったが、しょせんは本物の勇者(●●●●●)……。


 たったの2周目で、顔面崩壊っ……!



「うっ……ううっ! もうやめてやめてやめって! ほんとにほんとにほんとにほんとに勇者なんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーんっ!!」



 しかし彼の魂の叫び空しく、さらに積まれていくチップ……!


 うず高い影に、まるで生はげを目にした東北の子供のように、ハッとなるジャンジャンバリバリ。

 そして戦慄する。



「つ……追加ベット!?」



 女王様のようなMCの手が、ぽんと肩に置かれた。



『先ほど、貴様も承諾したではないか……! 今回は特別に、ルーレットの回転が完全に終了するまで、チップの追加(●●)と、引き下げ(●●●●)を許可する、とな……!』



 と、いうことは……?

 その疑問に答えるように、クーララカが高らかに叫ぶ。



『おっとぉ!? 球の言動があまりにジャンジャンバリバリと程遠かったのか、チップがどんどん積まれていくぞぉ! 無理もないだろう! 熱い実況でジャンジャンバリバリであることを証明してみせると豪語したというのに、さめざめと泣いていたのであれば、興ざめもするというものだ!』



「やっ……やめてやめてっ! ほんとにほんとのほんとなんじゃぁぁぁぁぁぁぁーーーん!! だから追加ベットは、やめるじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーんっ!!」



 とうとう、球はわあわあと泣き叫びはじめた。



『おお! どうやら球のほうは、もっとベットしてほしいそうだぞ!』



「ちっ、違うじゃん違うじゃん違うじゃんっ! フリじゃないじゃん! もうやめてっ! もうやめてじゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーんっ!!」



『球の望みどおり、チップはさらに積み上がり……! なんとなんと、70億(エンダー)に到達したっ! と、いうことは……あと、698回転だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!』



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 地の底から放たれたような歓声が、ビリビリとカジノを揺らす。


 舞台袖で見守っていたカジノのオーナーは、一時はどうなることかと生きた心地がしなかったが……ここに来てルンルンと小躍りしていた。


 なにせ75億(エンダー)もの、マグナム・ベット……!

 このカジノ……いや、この島始まって以来の、最大級の超ビッグ・ゲーム……!


 ジャンジャンバリバリの様子からして、親の総取りは無理にしても、賭け金が動くときの手数料だけでも、莫大な儲けが出る……!


 クーララカからこの話を持ちかけられた時は、オーナーは彼女のことを悪魔かと思ったのだが……。

 いまではその頼もしさも相まって、民衆を率いて戦う、勝利の女神のように映っていた……!


 そしてここで、ある人物にも異変が。



「うっ……! ぐっ! うぐっ……! うぐううっ……! も、もう、怒ったじゃんっ……!」



 ただならぬ一言に、クーララカは観客席に向かって、押しとどめるように手をかざした。

 すると歓声はピタッと止む。


 熱気残る静寂のなかに響いていたのは、嗚咽……!

 ある男の、決意に満ちた慟哭であった……!



「俺を……俺をナメると、後悔するじゃんっ……! 直系ながらも裸一貫で這い上がってきた、この俺を……! どんなに辛いステージでも、どんなに過酷なステージでも、笑って笑って、アゲてアゲてきた、この俺を……! あんまりナメてると……ブッ飛ばしてやるじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!!」



 顔をあげたジャンジャンバリバリは、血のような涙をしとどに溢れさせていた。

 顎から垂れ落ちた雫が、下にある水槽に、豪雨のような波紋をいくつも残していく。



「見てるじゃんっ! 俺はもう、絶対に弱音は吐かないし、絶対に笑い続けてやるじゃんっ! お前ら全員を、俺の得意とする『満面の笑顔』を持って大損させてやるじゃん! そして……一文なしになった時に、俺が勇者ジャンジャンバリバリであることに気づき……! 勇者不敬罪で、神尖組(しんせんぐみ)にひったてられる所を、あざ笑ってやるじゃんっ!!」



 それは、処刑台に掛けられてもなお、自由(フリーダム)を叫ぶ勇者の姿であった。

 ゴトゴトと音をたてて、水車はまわる。


 勇者は水に沈む直前、ニヤリッ……! と大胆不敵に笑った。



「さあっ、覚悟するがいいじゃん!! このあとの回転を終えてもなお、俺の変わらぬ笑顔に……! 震えるがいいじゃんっ! そしてひれ伏すがいいじゃんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーもがっ!? もがぎゅぐydそふぃじゃつぎゅさあwてごいうさfgdmんlk;!?!?」



 ……ざばぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!



 3回転目のルーレットを終えたジャンジャンバリバリ。

 アフロはさらにしおれ、海藻と煮卵を使った新しい料理みたいな顔になっていたが、観客たちは誰も笑わなかった。


 あれほど、あれほどのタンカを切った男が、いったいどんな笑顔を見せてくれるのかと……。

 誰もが固唾を呑んで、その第一声に耳を傾けていた。


 しかして、その口から飛び出したのは……!?



「げほおっ!? ごほっ!? がはっ!! げはあっ!! ひいっ!? ひいいっ!? ひいっ!? ひぎいいいいいいいいいいいいいいっ!?!?」



 で……デジャヴ、ふたたび……!?

 それともここから、不死鳥のように復活した、勇者の実況が……!?



「や……やっぱり無理じゃん! 無理無理無理無理無理無理ぃぃぃぃぃぃぃーーーーっ!!こんなに苦しいの、耐えられるわけないじゃんっ!! こんなので笑えるヤツなんて、いるわけないじゃんっ!! なっ……何度も言うけど……俺は本当に勇者、勇者なんじゃん! だからやめてほしじゃんっ! 許してほしいじゃん! ベットはもう許して!! 許してじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーんっ!!!!」

繰り返しは、ギャグの基本ということで…。

次回からはちゃんと話が動きだしますので、ご期待ください!

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