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14 オラオラ勇者、またクエスト失敗…! 1

 戦勇者(せんゆうしゃ)一行は、病み上がりの身体をひきずって湿った洞窟内を進んでいた。


 先頭には、新顔の尖兵(ポイントマン)のイル・ボンコス。

 先代の兄とは違い、淀みない足取りでぐんぐんと進軍している。


 小さなランタンをそれぞれの手で掲げており、光量は前回の2倍。

 見た目は兄ソックリだったが、その背中はどことなく頼もしかった。


 続いて勇者クリムゾンティーガー。

 ヘアスタイルが乱れるからといって、一度も使ったことのなかったマントのフードを深く被り、なにかブツブツと呟きながら歩いている。


 全財産をはたいた魔法施術で顔は元通りにしたものの、頭髪の再生までは無理だったので頭を隠しているのだ。


 しんがりには、大魔導女ミグレアと聖女リンシラ。

 ミグレアは前回の反省を活かして底の薄いブーツを履いてきているので、いつもより背が低くなっている。


 今回のクエストの目的は、洞窟に棲み着いたミノタウロスの殲滅。

 通常であれば軍隊が投入されるような事態を、クリムゾンティーガーが名乗りをあげて引き受けたのだ。


 彼は息巻いていた。そして焦っていた。

 先のクエスト失敗でついたケチを、より難易度の高いクエストで帳消しにする……! と。


 しかし、その焦燥感はイル以外の仲間たちには伝わっていなかった。

 なぜならば、ミノタウロスの巣の殲滅であれば、過去経験済みだったからだ。


 あの時も楽勝だったものの、あれからさらに経験を積んでいるので今回は鼻歌レベルだろうと楽観視していたのだ。


 しかし、しかしである。

 あの時とはパーティ構成が大きく異なっている。


 例のオッサンが……ゴルドウルフ・スラムドッグがいないのだ。

 これは将棋に例えるなら、自陣にある駒が、王と金以外はぜんぶ敵に寝返っているようなもの。


 同格どころか、格下相手ですら勝負にならない状況。

 いわば、ほぼ『詰み』……!


 しかし、初手で投了すべき絶望的な状況に置かれていることに、若者たちは気づいていない。


 前回のクエストは、運悪く失敗しただけ。

 ここで雪辱を果たせれば、以前のような破竹の勢いを取り戻せると、信じて疑わなかったのだ。


 鍾乳洞のように水滴したたり、ぴちょんぴちょんと波紋をつくる小さな水たまりを散らしていくと、通路の向こうでオレンジ色の光が溢れているのが見えた。


 ゴルドウルフであれば洞窟の構造を熟知しているので、事前に少し離れた場所に仲間を待機させておいて、見つからないようにこっそりと先の様子を伺うのだが……。


 一行はまるで勝手知ったる我が家のように、ドヤドヤと開けた場所に踏み込んでいってしまったのだ。


 ……そして、時が止まる。


 光源の正体は、巨大なるキャンプファイヤー。

 その周囲には、あぐらをかいて鎮座する、石像のような巨躯たち。


 ボディビルダーのような鍛え上げられた大腿筋を、腰ミノ一枚で惜しげもなく晒す。


 見上げるほどの高さには、丸太のような腕、そして牛のような顔と角。


 牛頭人身の怪物、ミノタウロスである……!


 ……ギョロリとしたブルズアイと視線がぶつかり、時は動き出す……!



「ブモォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!」



 空気をビリビリと震わせるほどの雄叫びが、洞内を突き抜けていく。


 尖兵(ポイントマン)と後衛のふたりは、爆音に耳を塞いで後ずさっていたが、勇者だけはすでに剣を構えていた。



「あぁ~ん? そんなんでビビると思ってんのかよこの牛野郎っ! こっちはずっとムシャクシャしてんだ! どいつもコイツもブッ殺す! ミンチになるまで斬り刻んでやんよっ! あぁぁ~んっ!?!?」



 ペンッ!!



 名乗りが終わらないうちに、近くに座っていたミノタウロスから払いのけられてしまう。


 デジャヴのように吹っ飛び、来たばかりの廊下を、ずべしゃあっと滑り戻っていくクリムゾンティーガー。



「「く、クリムゾンティーガー様っ!?!?」」



 ミグレアとリンシラはあの時の再現のように、青ざめながら勇者の元へと駆け寄っていく。



「くっ! 来るんじゃねぇっ! お前ら、いつものヤツはどうした!? いつもだったらデカい魔法をブッ放してたじゃねぇか!?」



 するとふたりの少女は同時に叫ぶ。



「「む、無理ですっ!!」」



 ……前回の彼らのミノタウロス殲滅クエストでは、そもそもこんな間抜けな状況で標的と遭遇(エンカウント)することはなかった。


 それでも複数のミノタウロスを相手にすることはあったのだが、その時はいつもゴルドウルフがポケットから赤いハンカチを取り出し、敵の前で揺らしていた。


 これぞ彼が編み出した『ムレーター・テクニック』。

 牛やイノシシのモンスターは布を挑発的に揺らすことにより、注意を惹くことができるのだ。


 仲間である勇者や大魔導女の火力は、かつてのゴルドウルフより遥かに上であった。

 しかし、彼らの大剣技や大魔法は、発動準備に時間がかかる。


 そのことを知っていたので、ゴルドウルフは自らがオトリとなって、時間を稼いでいたのだ。


 しかし……仲間たちは知る由もなかった。


 オッサンひとりが傷ついていた、理由を。

 自分たちの胸のすくような快刀乱麻の、影の立役者を。


 それどころか、混乱に陥る始末。


 なぜ今日に限って、敵は短い呪文すら唱えるスキを与えてくれないのかと。

 なぜ今回に限って、いままで無傷で勝てた相手に、紙くずのように翻弄されなくてはならないのかと。



「距離を取るぞっ!」



 そう口火を切って脱兎のごとく逃げ出したのは……リーダーである勇者だった。



「ああっ!? 待って、待ってください! クリムゾンティーガー様っ!」



「お、置いてかないでくださいっす!」



 ほうほうのていで後に続く仲間たち。

 そしてここで、新たなる失態がまた浮き彫りとなる。



「ああんっ!? 分かれ道かよっ!? おいっ! イル!」



「ねえイルっ!? 右と左、どっちに行けばいいんだよっ!?」



「は、早くしてください、イルさんっ!」



 丁字路で立ち止まった勇者と大魔導女と聖女は、後から追いかけてきた尖兵(ポイントマン)に向かって急き立てるように叫んだ。


 が、返ってきたのは、耳を疑うような一言だった。



「わ、わかんないっすぅっ!?」



 必死の形相で遁走する、ネズミのようにちっぽけな青年。



「わかんないっす! わかんないっすよぉぉぉぉっ! だって、だってクリムゾンティーガー様が怖くて、あてずっぽうで歩いてきたんでぇぇぇぇぇっ!!!」



 コブだらけになった坊主頭の頭上には、闘牛場から暴動を起こして街へ繰り出したような、無数の牛頭の群れがあった……!

勇者一行の災難(自業自得?)は、まだまだ続きます!


あと、読者の方々のご指摘で、「……」と「……!」の数が多すぎるというものがありましたので、今回減らしてみました。

このほうがよい、前のほうがよい、どうでもいい、もっと減らせ……などご意見頂けると嬉しいです。


特にないようであれば、禁断症状が起こるまではこのスタイルでいこうと思っています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何度でも言おう。 オッサンが居なければ、君たちは所詮そんなものだと・・・(呆れ) ・・・あと、 「・・・・・・」 と 「・・・・・・・!」 の事ですが、自分は別にあってもいいと思いますよ?…
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