41 Gの悲劇2(ざまぁ回?)
聖女集会1日目。
講演やディスカッションをこなすも気もそぞろ。手が震え始める。
聖女集会2日目。
情緒不安定に。突然笑い出したり、落ち込んだりする。
聖女集会3日目。
次女の提案で『ゴルちゃんグッズ』なるものを作り始める。
撮りためておいたゴルドウルフの真写を使い、ステッカーやバッヂ、ポスターなどを作り、滞在している自室に飾る。
多少、落ち着きを取り戻す。
聖女集会4日目。
幼児退行の兆候が現れはじめる。
ずっと赤ちゃん言葉を話すようになり、夜は次女の付き添いがないと、ぐずって眠らなくなった。
聖女集会5日目。
幼児退行がさらに進み、三女とおままごとを始める。
三女とのおままごとはよくやっているようだったが、今回はガチであった。
どっちがゴルドウルフ役をやるかでモメていたが、仲裁に入った次女がその役を押しつけられる。
次女はゴルドウルフのお面を被って役を演じていたが、照れまくりで噛みまくり。
しかし、うろたえるゴルドウルフは新鮮であると、姉妹には好評であった。
聖女集会6日目。
とうとう幻覚が見え始める。
会場に飾ってあった彫像を『ゴルちゃん』と呼び始め、離れなくなる。
彫像は彼女の部屋に持ち込まれ、多少、落ち着きを取り戻す。
聖女集会7日目。
彫像を『旦那様』と呼び始める。
その日は彼女の講演があり、いつも慈愛に満ちあふれた素晴らしい演説が聴けるのだが……。
今回に限っては彫像を横に置き、瞳孔の開ききった目で旦那様のことをひたすら語り、参加者を困惑させていた。
聖女集会8日目。
脱走する。
聖女集会はあと2週間続くのだが、途中離脱をしたのだ。
集会は聖女にとって大切な聖務のひとつなので、それを放棄するのは大問題とされる。
しかし止めれば命も絶ちかねない勢いだったので、次女は関係者に平謝りして許しを請う。
周囲からは、聖女の地位剥奪とまで言われたが、彼女は盗んだ馬車で走り出す。
途中でホーリードール家の馬車が追いつき、次女と三女が説得。
馬車を乗り換える。
聖女集会9日目。
彼女の熱意に負けた次女は、聖女集会を放棄し、ともにグレイスカイ島に付き添うことを決意する。
彼女はここ数日は食事も喉を通らず、また一睡もしておらず、げっそりと痩せていたので、ひとりで行かせるわけにはいかなかったのだろう。
聖女集会10日目。
船でグレイスカイ島に近づくほどに、彼女はみるみる精気を、そして正気を取り戻していく。
親が学校に休みの電話をしてくれた途端、急に元気になる子供のように。
彼女は船内で、ウキウキと『おめかし』をしていた。
グレイスカイ島が見えたところで、待ちきれず外に飛び出す。
しかし……この島の海上警備隊の船が近づいてきて……。
現在に至る。
……嗚呼……!
運命というものは、なんと残酷なのであろうか……!
たったの10日などと、言うなかれ……!
少女にとっては100年にも等しい、永遠ともいえる別離であったのに……!
それが、目と鼻の先……!
手をヨガのように伸ばせば、届きそうなほどの距離だというのに……!
再び、引き裂かれてしまったのだ……!
崩れ落ち、大の字に倒れた少女は、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!!」
魂の号泣を、大海原に響かせていた。
「ああああああああんっ!! ゴルちゃんにっ!! やっとやっと……!! やっとゴルちゃんにまんままんまできると思ってたのにぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
船に落ちんばかりの勢いで、大きな胸をばるんばるんと揺らす。
それは、実に異様な光景であった。
常に柔らかな笑みを絶やさず、何があって「あらあら、まあまあ」と微笑む、大らかなる海、聖母の代名詞のような少女が……。
まるで幼子のように、わんわんと泣きわめいていたからだ。
それだけではない。
彼女はここに来るまでに、作っておいた『ゴルちゃんグッズ』を使って……。
『武装ラブライバー』も顔負けの、『武装ゴルドウルファー』と化していたのだ……!
オッサンの顔が人面瘡のように貼り付いた身体、ラスボスのようにオッサングッズで着飾ったドレスが転がるたびに、オッサンの顔が花の嵐のように舞い上がる。
「お……お姉ちゃん! お気を確かに! お……おじさまの抱き枕ですっ!」
次女がすかさず、グッズの中では効果の高い『おじさま抱き枕』をあてがうが、
「ああん! ああん! ああああーーーーんっ!! こんなのゴルちゃんじゃないでちゅっ!! ゴルちゃんでちゅけど、ゴルちゃんじゃないでちゅうっ!! ゴルちゃんがほちいっ!! ゴルちゃんがほちいのっ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
枕をバリバリと掻きむしり、舞い散るオッサンの顔に羽毛をトッピング。
とうとう船体までもが、グラグラと揺れ出す。
ちなみに船は、オッサンの顔でラッピングされた、痛車ならなぬ『痛船仕様』。
それが高波に煽られるように、ぐわんぐわんと激しく左右に動き……!
「落ち着いて、落ち着いてくださいっ! リインカーネーション様っ!」
「ああっ!? 落ちるっ!? 落ちるるぅぅぅぅぅぅーーーーーっ!?」
「あっ!? わっ!? うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?!?」
乗り込んできていた神尖組の若者たちを、次々と海に叩き落としていた。
なぜか彼女の姉妹や、同行していた召使いたちは全員無事。
しかし泣き声は、枯れるどころか壊れたサイレンのようにやまない。
とうとう超音波のように、空気を震わせはじめる。
「ゴルちゃんゴルちゃんゴルちゃんゴルちゃんゴルちゃんゴルちゃんっ……!! ゴルちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁaaaaaaaaaaaa--------ーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
……ドォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!
近くで停泊していた海上警備隊の船が、見えない砲弾を受けたかのように爆散する。
乗っていた神尖組の若者たちが、みな海に投げ出された直後、
どっ……ぱぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーんっ!!
突如としておこった高波がさらっていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「なっ!? なんだんだ!? なんなんだぁーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「うわっ!? サメだっ!? サメだぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
もはや現場は大混乱。
たったひとりの駄々っ子によって、船一隻が沈没。
普段は静かな海が荒れに荒れ、普段はいないサメまで集まってきて、パニック映画さながらの大惨事に発展していた。