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39 ピクチャー・ザ・リバース

 虎の子ともいえる神尖組本隊を、異教徒のように処刑されてしまったリヴォルヴ。

 島の観光業を再び窮地に陥れられたうえに、家族にまで被害を及ぼされてしまった、彼がとった行動とは……!?



倍プッシュ(ダブル・ダウン)だ……! 野良犬よ、お前は本気にさせちまったんだよ……! この(テーブル)(ディーラー)である、俺をナ……! さぁ、ケツの毛まで、毟り合おうじゃねぇか、ナァ……!」



 リヴォルヴはまず、心臓部ともいえる自宅の警備強化を行なった。


 彼の邸宅は、城塞のような外壁と兵器に囲まれている。

 そしてそれらの最深部に、天守閣のような屋敷がある。


 リゾート地の別荘のようでありながらも、戦争ができそうなほどの設備を揃えているのは、大陸のほうで有事があった場合、ここがひとつの戦略拠点となるためである。


 このグレイスカイ島の北側には、海を挟んで弓なりに広がる大陸の湾岸部があるので、そのすべてに睨みをきかせることができるのだ。


 そのため、警備には万全を期していた。

 神尖組の若い衆たちが何百人も城塞部で暮らしており、24時間体制で見張りをしている。


 それは蟻の子一匹たりとも見逃さない厳重さなので、たとえ伝説の怪盗であっても侵入することなど不可能。

 そしてなにかあったらスズメバチのように飛び出してくるので、脱出することもできない。


 過去、何度か物盗りが侵入したことがあったが、すべて屋敷に近づくこともできずに警備の手によって始末されている。


 しかし、それは過去のものとなってしまった。

 なにせ本丸ともいえる屋敷に忍び込まれてしまったのだ。


 そのうえ何かを盗まれるどころか、置いていかれてしまった……。

 気も狂わんばかりの、死体の山を……!


 これは侵入者がその気になれば、リヴォルヴの寝首をも掻くことができていたことを意味する。


 というか、これは大いなる謎でもあった。

 物盗りというのは普通、身軽な格好で侵入し、邪魔にならない貴金属類を盗んで逃走する。


 しかし今回の相手は、18体もの遺体を運び込んできたのだ。

 しかもリヴォルヴたちが屋敷で寝ている間に、こっそりと。


 これは神話級の怪盗のみで構成された、引っ越し業者でも使わないと不可能な芸当である。


 リヴォルヴは屋敷の警備を増員し、野良犬駆除までの期間、戒厳令にも等しい厳戒態勢を敷いた。

 そしてその次に、着手したのは……。


 野良犬の、身元調査……!


 リヴォルヴは、野良犬マスクの単独犯説を捨てた。

 『八十裂(やそざ)き事件』までは懐疑的であったが、今回の『犬神事件』で確信した。


 野良犬マスクの背後(バック)には、大きな組織がついていると……!


 神尖組の本隊を単独で壊滅させるなど、単独では絶対に不可能(インポッシブル)

 そして死体を運びこむのも、単独では絶対に不可能(インポッシブル)


 ダブル・インポッシブルにより、野良犬マスクが立てこもる『シンイトムラウ』だけではなく、街中にも仲間がいるであろうと判断したのだ。


 しかし実のところリヴォルヴは、野良犬マスクの正体について、ひとりだけ心当たりがあった。

 しかし彼が知る()は、夢見がちな冴えないオッサンであり、そんな大それたことができるはずもない人物である。


 身元調査の手がかりはふたつ。


 ひとつめは、野良犬が被っているマスク。

 ふたつめは、野良犬と一緒に消えた、同行者とおぼしき女騎士。


 前者は、そのへんにあったマスクを被っただけかもしれないので、たいしたヒントにはならないかもしれない。

 しかし後者は有力な手がかりである。


 今までは、手配書をばら撒くだけであった。

 そして街中のパトロールに片手間で探させていただけだったのだが、リヴォルヴは本格的に女騎士捜索を指示したのだ。


 リヴォルヴの手番はまだまだ続く。


 次に彼は、『野良犬マスク信奉禁止』のお触れをワイルドテイルたちの集落に発令した。


 ワイルドテイルたちの中では、野良犬マスクは『へんなオッサン』という認識がいまだに根強い。

 しかし彼らが信奉する『シラノシンイ』と同じく禁止にしてしまったら、どうなるだろうか。


 押す気どころか、まったく気にも止めていなかったスイッチを、押してはダメだと言われると……。

 急に気になりはじめ、押してみたくなるのが人情というもの……!



「や……やっぱり……! あの野良犬マスク……! いや、野良犬マスク様は、シラノシンイ様が遣わされた、神の使いなんじゃ!」



「き……きっとそうじゃ! 勇者様たちが慌ててワシらにお触れを出したのが、何よりもの証拠……!」



「シンイトムラウで暮らしていても、あの野良犬マスク様とチェスナだけが無事な理由が、ようやくわかったぞ!」



「むしろ今までの天罰は、あの野良犬マスク様がなされていたんじゃ!」



「そうじゃそうじゃ! そうに違いねぇだっ!!」



 集落の者たちはとうとう、野良犬マスクのいる崖の上に向かって跪き、祈りを捧げ始めるようになった。


 これがもし『シラノシンイ』に対しての祈祷であるならば、異教信奉の行為として処刑される。

 しかしリヴォルヴは、野良犬マスクへの祈りに対してだけは、大目に見るよう神尖組に通達しておいた。


 なぜかというと、なるべく短時間で……。

 具体的には神尖組の入隊式の日までに、野良犬マスクを野良犬たちの虚像へと仕立て上げるためである。


 野良犬マスクが神にも等しい存在、または邪教の教祖ということにしておけば、神尖組本隊を潰された面目も立つ。


 そして入隊式典の時に、捕らえた野良犬マスクを磔にすれば……。

 巫女どころか神そのものを処刑することになり、ワイルドテイルたちはかつてない絶望に突き落とされるであろう。


 泣き叫ぶ邪教徒たちの悲鳴は、式典をこれでもかと盛り上げ……。

 その模様を、勇者上層部にアピールすれば……。


 いままでの失点など、すべて帳消し(チャラ)にっ……!


 リヴォルヴは最後の戦い(●●●●●)に向けての準備を、着々と進めていく。


 次に打った手は、『島への入港禁止』。

 彼はなんと、出港に加えて入港までもを制限してしまったのだ。


 当初は、入港まで制限するとなると、島に入れなかった観光客たちが悪い噂を持って帰り、島の観光業にダメージを受けるということで、入港だけは自由にしていた。


 しかし今回は事情が異なる。

 野良犬マスクは、ただの野良犬マスクではなくなってしまった。


 なにせその気になれば、一夜にして水死体の山を島じゅうに設置できるほどの組織力を持ち合わせた、手強い相手だというがわかったのだ。


 幸い、今のグレイスカイ島にはリヴォルヴより格上の勇者や王族たちはいない。

 下手に招き入れて彼らにストレスを与えるよりも、今は危険なテロリストがいると帰ってもらったほうが、背負うリスクは少ない。


 しかし制限できるのにもタイムリミットはある。

 そう、神尖組の入隊式典の1週間前までである。


 そこから先は、式典に参列するため、多くの勇者や王族たちが島に訪れる。

 その来島ラッシュが始まる前までには、すべてを終わらせておく必要があるのだ。


 式典までには日数の余裕がまだあるが、油断はならない。


 リヴォルヴは最後に控えた『大一番』の前に、もうひとつのカードを切った。

 外海からの出入りをすべて断ち、島を完全に孤島にするという、大胆なカードを。


 しかもカードを切ったうえに、その絵札(ピクチャー)の向きを逆転させるという、禁断の一手まで……!


 『勇者たちの楽園』と呼ばれたこの島を、タロットのように逆位置(リバース)させ……。

 『殺しの楽園』に変えてしまったのだ……!

次回…! いよいよ次回、「あの人」が登場します!

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