13 勇者の品格
この世界において、勇者としての階級をあげるためには、ふたつの要素が重要視される。
ひとつは、その勇者体系における成績。
戦勇者であれば、クエストの達成。
依頼者が高名な人物であり、難しいクエストであるほど評価は高くなる。
調勇者であれば、『ゴージャスマート』内での売上。
これは単純に、数字で表すことができる。顧客満足度などは考慮されない。
創勇者であれば、より良い武器や防具、道具の作成。
パラメーターの高いものか、または高額で取引できるものが良いとされる。
導勇者であれば、より良い勇者や冒険者の育成。
これは……単純にいうと、ゴッドスマイルの役に立つ人物を世に送り出すほど評価される。
そして、ふたつめは……これはどの勇者体系にも共通する要素……。
いかにゴッドスマイルに、気に入られるか……!
そのふたつを併せ持って、初めて高い評価を得られる。
成績がどんなに優れていても、ゴッドスマイルの靴を喜んで舐められなければ優れた勇者とはいえないのだ……!
しかし……しかしである。
それらの要素をすべて無視して、一気に出世街道を駆けのぼれるシステムがある。
歴代最高の営業成績も、伝説級の武器を作った功績も、懐で草履を温めるような大忠義も……すべて吹っ飛ばせる、いわば、ジョーカー!
それは……ゴルドウルフの追放……!
まず、彼の追放任務をゴッドスマイルから得るだけでも、かなりの難易度でもあるのだが……。
ともかく、『指定された方法』で彼を追放し、生死不明にすれば、フィーバータイム……!
勇者の階級の見直しのたびに、ゴッドスマイルの鶴の一声で、昇格、昇格、昇格……!
戦勇者の場合はクエストなど受けなくとも、調勇者の場合は出社すらしなくとも、特進、特進、特進……!
……しかしここで、疑問に思うことはないだろうか?
ゴッドスマイルがそこまでゴルドウルフのことを忌避しているのであれば、追放などせずとも、殺害してしまえばよいと……!
だがこれには、ゴッドスマイルの深いこだわりが隠されているのだ。
それが何なのか、何故なのかは気になるところだが……これについては、またの機会に話すとしよう。
とにもかくにも、ジョーカーを切ったあとは、すべきことはただひとつ……!
そう、なにもしない……!
ゴルドウルフが生死不明の間は、常に最高評価がもらえるのだから、なにもする必要がないのだ……!
しかしそれでは、怠慢を指摘されるのではないか、と思うかもしれないが……そうではない……!
むしろ下手になにかをして、失敗しようものなら逆効果……!
稀代の大金星が、小さな黒星によってフイになってしまうのだ……!
これでは、せっかく切ったジョーカーに、自らスペードの3を重ねるようなもの……!
そのことを理解している老獪な勇者は、ゴルドウルフを追放したあと、隠居老人のように何もしなかった。
かつて無人島にゴルドウルフを置き去りにしたある勇者などは、そのとき乗っていた豪華客船で、そのまま世界一周旅行に出発。
船旅を楽しんでいる間に、幹部にまで出世してしまったのだ。
しかし……まだ若く、血気盛んな勇者は履き違えることがある。
または……出世を妬んだライバル勇者に、そそのかされることがある。
ゴルドウルフを追放したあと、さらに活躍すれば、もう出世を邪魔するものはなくなると……!
実をいうと、クリムゾンティーガーとダイヤモンドリッチネルはこのパターンなのである。
クリムゾンティーガーは野心に燃え、ダイヤモンドリッチネルは遊び仲間の勇者たちにウェーイと乗せられて……禁断の一手を打ったのだ。
ダイヤモンドリッチネルがどうなるかはこの後に語るとして、クリムゾンティーガーにはすでにひとつ、黒星がついている。
しかし彼は、まだあきらめてはいなかった。
汚点を塗りつぶすために、退院してすぐ次のクエストを遂行したのだ。
そしてそれは言うに及ばず、限りなき愚行……!
彼は今も昔も、ゴルドウルフなしでは赤子同然なのだから……!
しかし……当人は気づいていない。
気球に空いた風穴を塞ごうとして、さらに大きな穴をあけ……墜落を早めてしまう喜劇のような、実に愚かで滑稽な光景を、これからご覧にいれよう……!
そして……ひとりの少女の身に起こった、遅すぎた目覚めを……!
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