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28 素人の罠5(ざまぁ回)

「第2班がやられたらしい。敵の罠に、3名が首をちぎられ、3名が股間をちぎられ、全滅だ。しかも全員、全裸のうえに身体じゅうに卑猥な落書きをされ……。その上から鞭のようなもので打たれ、さらに塩のようなものを塗り込まれ……。口や尻に木の枝や石、虫の死骸などの異物を詰め込まれ……。気に触れたような表情で、失禁しての死亡だという」



「いったいどんな罠にかかれば、そんな無様な死に方ができるのだ?」



「おおかた、油断したのだろう」



「1班と2班のヤツらは、第13番隊でも未熟者の寄せ集めだったからな」



「ああ、足を引っ張られ続けていたから、いなくなってせいせいしたわ」



「案外、ゴルゴン様もそうお考えになって、今回の作戦をお考えになったのかもしれんな」



「滅多なことを言うんじゃない。それよりも、我々3班の出番だ」



 (カラス)から伝書を受け取った班長は、マスクを口に引き上げながら言った。



「俺たちは今から、この世のものではなくなる。土の一部となり、葉の夜露となり、誰からも()られず、悟られず、煙のように山の頂上へとのぼる。再びこの世に還ってくるのは、野良犬と入れ違いになる時だ」



 その声すらもすでに、夜の風にまぎれるほどにさりげない。


 神尖組(しんせんぐみ)第13番隊の3班は、特に潜入の精鋭が揃っている。

 彼らは音をたてないわけではない、気配を出さないわけではない。


 あくまで自然とひとつとなり、環境への擬態を得意とするのだ。

 話し声は虫の音のように、移動の際に揺らす木々は鳥が過ぎ去るように。


 まるでアサガオのツタが、井戸に巻き付くように……。

 その家の者たちの誰もが、朝になるまで気付かないように……。


 死へのもらい水へと、誘うのだ……!


 ナメクジのようにゆっくりと這い進む3班の前に、山に住むオオカミの群れが現れた。

 しかし潜入のプロにかかれば、わずかに迂回するだけで、オオカミたちにも気付かれることはない。


 オオカミは夜行性なので、夜目もきく。

 しかしリヴォルヴの最新鋭の迷彩服(ギリースーツ)には、不可視(インビジブル)の魔法練成が施してあるため、肉眼などで捉えることは不可能。


 さらに3班は風下のコースを取っていたので、オオカミたちの嗅覚をも欺いていたのだ。


 彼らは伝書に書かれてあった、罠があるであろう地点に到着する。

 そこで、ある者が異変に気付く。



「……なんだ……?」



「どうかしたか?」



「いや、なんだか目が霞むんだ」



「お前もか、実は俺もなんだ」



「違和感や痛みはないのに……なんだか夜なのにサングラスをかけてる気分だぜ」



「もしかしたら、薬物が散布されているのかもしれん」



「よし、ゴーグルを着用するんだ。ポーションを使うのも忘れるなよ」



 緊急治療(ファーストエイド)用の、どんな負傷にも効くとされているポーションを点眼すると、霞み目はいくぶん和らいだ。


 再び移動を再開する第3班。

 人をも食らいそうな、巨大な食虫植物の花畑に行く手を阻まれたが、彼らは迂回せずに突っ切る。


 小鳥が上を取っただけでも大口が開き、パックリと飲み込むという食虫植物。

 口を開ければ簡単に食らいつけるほどの鼻先を、大好物の人間が通り過ぎているというのに、まるで反応がない。


 植物の察知能力すらも、彼らは欺けるのだ……!


 しかしここでまた、異変がおこる。



「……ちょっと待て」



「なんだ? 何を言っている?」



「ちょっと待て」



「あん? 声が小さいぞ、聞えない」



「いや、これ以上声を大きくしたら、擬態できない」



「えっ!? 何だって!?」



「しっ、静かに!」



 口頭によるやりとりが難しいと気付いた班員たちは、ハンドサインで意思疎通をはかる。



『異常あり 風が吹いている でも 音が ない』



『こちらも 同じ 状況』



『聴覚に 異常あり』



『おそらく』



『また 嗅覚に 異常あり』



『食虫植物 匂い ない』



『罠か?』



『考えられない』



『罠の可能性 低い』



 山への侵入者を撃退する目的で罠が仕掛けられているのであれば、五感を奪うよりも、引っかかった者にダメージを与えることを優先するのが普通である。


 五感を狂わせて、より大きな罠を悟らせないようにするという手もあるが……。

 経路が限定されている地下迷宮(ダンジョン)ならともかく、広大な山において、そんな手間のかかることをするとは考えにくい。


 ポーションを服用すると、聴覚も嗅覚もいくぶん戻った気がした。

 みたび移動を再開する第3班。


 彼らの頭上からは、天上の音楽のような楽しげな声が。

 それは肉声であったのだが、すでに彼らの耳には届いていない。



「ねーねー、ルク、この子たちなんで這いつくばってるの? お腹でも痛いの?」



「この方たちは、隠密を得意とする部隊のようですから」



「おんみつ? それならプル、あんこがいっぱい入ってるのが大好き!」



「それはあんみつですね。ルクはくずきりのほうが好きですけど……。それはさておき、隠密とは敵に気付かれないように移動することですよ。プルにもわかるように言うと『こそこそ』です」



「ああ、それなら知ってる! えっ? もしかしてこの子たち、これで『こそこそ』してるつもりなの?」



「人間は視覚から9割の情報を得ているといいますから、これでも隠れているつもりなのでしょう」



「ええっ!? これだったら、プルと煉獄でかくれんぼしてた子たちのほうが、よっぽど目立たないよ!?」



「次元と時空すらも超越する、煉獄の者たちといっしょにしてはいけません」



「で、なんでこの子たちはこんなに見え見えになってまで、こそこそしてるの?」



我が君(マイロード)を暗殺しようとしているのでしょうね」



「あんさつ? それならプル、あんこがいっぱい入ってるのが大好き!」



「……それはもしかして、あんドーナツのことですか? だいぶ遠いですが……いずれにせよ違います。こっそり敵を殺すことですよ」



「ああ、そっちはあんまり好きじゃないかなぁ」



「でも、いまプルはやっているではありませんか」



「えっ、この遊びって、あんさつなの?」



「ええ。『こっそり殺す』というのはあくまで人間の定義であって、ようは気付かれないように殺すことです。どんなに大胆に、派手に振る舞ったとしても、誰にもに気付かれなければ、それは『暗殺』です」



「ふぅーん。でもこの子たち、もう目も耳も鼻もほとんどダメになってるのに、気付かないなんて鈍いよねぇ」



「人間の神経を気付かれないように、痛みも伴わずに少しずつ切断していくと、脳が情報を補填しはじめるそうですから」



「手首と足首の腱も切られてるのにねぇ」



「それは立ち上がれろうとすれば気付くでしょうね。もう半身は不随になっているので、それ以前の問題だと思いますが。次は、プルの番ですよ」



「うーん、もう気付かれずに切れるとこなんてないよ-!」



「視神経の片方だけなら、まだ気付かないかもしれませんよ」



「そうかなぁ、それじゃあ……えいっ!」



 ……パツンッ!

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