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26 素人の罠3(ざまぁ回)

 野良犬狩りのため、シンイトムラウを夜襲した神尖組(しんせんぐみ)第13隊。


 第1班は作戦開始早々に全滅。

 続いて行動を開始した第2班も野良犬の罠にかかっていた。


 それは奇しくも、2人ひと組のペアになった3組が、同時に……。

 先頭を進んでいた者が、植物のツタを使った括り罠によって、逆さ吊りにあい……。


 後ろを進んでいた者が、食虫植物に食われる前にツタを掴み、ギリギリで助かったという状況。


 それはそれは奇しくも……彼らが襲った村で、捕らえた村人たちを使って余興がわりに行なっていた……。

 ギロチンの拷問、そのものであった……!


 しかし彼らはまだ、そのことに気付いていない。

 上司のドジをからかう余裕があるほどであった。



「班長、帰ったら一杯おごってくださいよ!」



「……わかった。だから冗談でも離すんじゃないぞ」



「こんな風にですか?」



「わあっ、やめるんだ! 下にはモンスターがいるんだぞっ!? ふざけるのもいい加減にしろっ!」



「……はいはい、わかりましたよ、班長どの」



「逆さ吊りになってそんなこと言われても、威厳ゼロですが……わかりましたよ」



「で、この状況、どうやって切り抜けましょうかねぇ?」



 ツタを引っ張っている隊員たちの態度が、急に大きくなる。

 命綱を持ってやっているという感覚が、彼らを増長させているのであろう。


 班長はコホン、と咳払いをひとつしたあと、揺れながら部下たちに指示を出す。



「まずは食虫植物を倒せ、近づいてひと突きしてやるんだ。もちろん死亡が確認されるまで、ツタは絶対に離すなよ。訓練場で何度もやった、ロープ降下時の戦闘の要領でやれば簡単だろう」



 部下たちは上司の醜態をもうちょっと楽しんでいたかったのだが、渋々ながらも命令に従う。

 そのまま食虫植物に向かって歩けばツタが緩んで、吊られている者が下がってしまうので、ツタを腕に巻き付けながら最初の一歩を踏み出す。


 そして足元の違和感に気付いた。



「おい、地面がぬかるんでるが、落ちねぇぞ?」



「ほんとだ、触手のモンスターがいるはずじゃなかったのかよ?」



「……どうやら、ただのぬかるみだったらしいな」



「なんだよ!? 俺たちはありもしねぇ触手にビクビクしながら進んでたってわけか!?」



「こんなだったら、ふつうに進んでりゃよかったじゃねぇか!」



「下手にぬかるみをよけて進んだりするから、まんまと罠に引っかかっちまうんだよ!」



 ……ちなみに彼らの言うとおり、この第2班が侵攻しているルートには『ドラウン・テンタクル』はいない。


 野良犬が侵入者用のベアトラップを仕掛けるついでに、現在の罠に誘いこむように、迷路状になるように地面を柔らかくしておいたのだ。


 しかしこれを罠として成立させるには、第1班が『ドラウン・テンタクル』で全滅し、その情報が第2班に伝えられるという前提がなくてはならない。


 まさか野良犬風情がそこまで見越しているなどとは、第2班の者たちは誰も気付いていない。

 そして仲間割れさせることが、地獄の野良犬の、次の狙いであることも……!



「……うるさい、班長である俺の決定に口答えするなっ!! いいからさっさと言われたとおりにしろっ!!」



 深夜の森に怒声が轟く。

 班長のカミナリが落ちると、いつもであれば部下たちは大人しくなるのだが……。


 今宵は違っていた。



「班長ぉ~。いまは隠密行動中ですよぉ? それなのに、そんな大きな声出しちゃっていいんですかぁ?」



「班長の怒鳴り声のせいで、野良犬に見つかっちゃいますよぉ?」



「そうしたら、任務は大失敗するかもしれませんねぇ~?」



「貴様らぁ、いい加減にしろっ! でないと職務不履行で処分するぞっ!」



「でもそのためには、生きて帰らないとダメだって、わかってますかぁ?」



 班長のツタを持っている隊員が、ふざけるようにツタを緩めると、



 ……ズズッ!



 と班長の身体が下がる。

 垂れた毛先の下には、



 ……ガパァァァァァァッ……!!



 サメのような口が、垂れ落ちる雫を待つように、大きく開く……!



「ぐっ……! ううっ! やめろっ、やめないかっ!」



「あ~あ、そうやってもがくと、もっと落ちちゃいますよぉ? ほーら」



 ……部下はさらにツタを緩める。

 すると、



 ……ぶちぶちぶちぃぃぃっ……!



 班長の頭頂部に、食虫植物の歯が引っかかり、髪がちぎられるような音とともハラハラと散った。



「ぎゃあっ!? うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!? 髪がっ!? 髪がぁぁぁぁーーーっ!?」



「ぎゃっはっはっはっはっ! 班長どの、任務中に散髪ですかっ!?」



「ずいぶんサッパリしましたねぇ! ハゲ散らかしてるじゃないっすか!」



「でも、そっちのヘアスタイルのほうがお似合いですよっ!!」



 部下たちは囃し立てるように笑った。


 彼らの均衡は、ふすまの紙のようであった。


 日を透かすように薄っぺらく、簡単に汚れ……。

 そして猫がじゃれつくように、ふとしたきっかけで、遊び半分にバリバリと破られてしまう。


 ……ではここで、少しばかり、想像してみてほしい。

 もしあなたの上司が同じような目に遭い、その命綱を、あなたが握っていたとしたら……。


 あなたは、どうするだろうか?


 救助に最善を尽くすのが普通。

 たとえその上司から虐げてられていて、殺したいほど憎たらしい相手だったとしてもだ。


 なぜならば、上司と部下の関係は、その後も続くからである。


 しかしこの第2班の部下たちは、今後の力関係をまったく考慮しない、大胆な行動に出た。

 それは、なぜか……?


 後先のことを考えられないほど、愚かなのではない。

 上司が助かったあとに、下されるであろう処分を怖れていないわけでもない。


 もはや彼らのなかでは、この関係性は、『終わってしまった』から……。

 たった一発の、カミナリによって……。


 彼らの心のシフトレバーは、


 『班長を助けなくては!』

 ↓

 『でも見た目が面白かったので、しばらく遊んでから助けよう』

 ↓

 『怒られたので渋々助けるか』

 ↓

 『班長のヘマが明らかになったのに、逆ギレされた』

 ↓

 『助けてもらう立場のクセに、なんかムカつく』

 ↓

 『よく考えたら、コイツがいなくなれば……』


 どんどんと、シフトダウン……いや、シフトアップしていき……。



 『コイツがいなくなれば、俺が班長になれるかも……』



 ついには、トップギアへ……!



 『……なら、殺せばよくね?』



 そして、禁断のニトロ・ブーストへの領域へと……!



 『でもそのまま殺すのはつまんないから、今までの鬱憤を晴らしてから殺そうっと! 泣かせて、命乞いさせて、ションベン漏らさせて……! さんざんおちょくって、嘲笑してから殺せば……スッキリするんじゃね!?』



 ゼロヨンのごとく短時間で、突入していったのだ……!

もしあなたが、憎い上司を吊っているツタを持つ立場になったら、どうしますか…?

今回のように、まわりに人目がある状態ではなく、ふたりっきりで…。

たとえ手を離しても、過失を問われない状況だとしたら…?

あなたは、どうしますか…?

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