23 死のナンバー
それから数日後、グレイスカイ島。
島を恐怖に陥れた、八十裂き事件の馬たちは結局1匹も捕まらず、シンイトムラウに逃げ帰っていった。
しかし脅威の去った街は、ようやく観光地として顔を取り戻しつつあった。
出港制限はまだ解除されていなかったが、ホテルに閉じこもっていた観光客たちは外に飛び出し、再びバカンスを楽しみはじめたからだ。
この島の主であるリヴォルヴは、ひとまず大損害を免れた形となったが……。
まだシンイトムラウには野良犬が潜んでいるので、油断はならない。
惨事がふたたび起こる前に秘密裏に処理すべく、ついにある者たちを呼び寄せたのだ。
しかし屋敷の門戸を叩いたのは隊長ではなく、部下のひとりであった。
「ナんだ、ゴルゴンはどうした?」
「ハッ! 我らが隊長ゴルゴン様は、同じ依頼人とは二度と会わないポリシーであります! ですから副隊長である自分が出頭いたしました!」
「そういうことか……。アイツも偉くなって、変わっちまったナァ……。まぁ、いいやナ」
リヴォルヴは、これまであったことを副隊長に話して聞かせた。
「へんなオッサンが、シンイトムラウに立てこもってるんだ。どこの馬の骨……いや、どこの犬の骨ともわからナい野郎がナ。ソイツはふざけた野良犬のマスクを被ってやがるんだ」
「野良犬のマスク……ですか?」
「ああ。アレだ」
書斎の壁には、島の見取り図が貼り出されていた。
シンイトムラウのある場所に、『ストロングタニシ画』と記された、子供が描いたような絵が貼ってある。
「……コレ、ですか……?」
それは、どう見ても神尖組が出張るような相手には見えず、副隊長は眉をひそめていた。
「ああ。チンドン屋ならほっといてもいいんだが、野良犬どもの巫女をさらっちまったから、そういうわけにもいかねぇんだナ。お前さんたちが来るちょっと前に、サイ・クロップスの部隊を差し向けたんだが……全滅しちまった」
「神尖組の部隊が全滅!? いったい、何人派遣したんですか!?」
「30人ほど部下が同行していたんだが、うち15人は高所からの落下で、残りの15人は喉を切られていた」
「まさかサイ・クロップス様まで、やられたなんてことは……」
「その、まさかナんだナ。パズルみたいにバラバラにされちまった」
「……嘘でしょう!? あの御方は千人規模の軍隊を殲滅したこともある剣豪ですよ!? それも、たったひとりの野良犬相手にだなんて……! ありえませんっ!」
「サイ・クロップスが死んだのは事実だが、マトモにやりあったわけじゃねぇだろうナ。なにか卑怯な罠にでもハメられたんだろう」
「……なるほど、だから神尖組の中でも暗殺部隊である、我々13番隊が招集されたのですね」
「そういうことだナ。13は静かなる死を意味する……。狭間を感じさせる余裕もなく殺しちまうから、あんまり好みじゃねぇんだがナ……。背に腹はかえられないってワケだ」
リヴォルヴは背後に立てかけてあった、巨大な鉄のカタマリを親指で示す。
「スパイナーの所から取り寄せた、最新式の銃だ。コイツがなきゃ、お前さんとこの隊長は引き受けてくれないんだろう? もちろんそのままじゃなくて、俺が少しいじって改造してある」
この世界に存在する『銃』という武器は、それほど一般的なものではなく、一部の憲兵や軍人などが使う程度である。
そしていまだに火打ち石式のものが主流。
リヴォルヴが愛用しているようなカートリッジ式の銃はまだ流通していない。
製造方法を、デスディーラー一族で独占しているためだ。
ちなみにスパイナーというのは、デスディーラー・スパイナーのことである。
同じ一族なので、武器の融通をしあうことがあるのだが、送られてきたものをそのまま使うことはない。
かならず改造を施してから配備する。
創勇者としてのプライドがあるので、手を入れているわけではなく……。
暴発を引き起こすような、『毒』が仕込まれている可能性があるからである。
『毒』のある武器をそのまま大事な任務に用いてしまえば、大失敗を引き起こす可能性がある。
そうなれば、配備した創勇者が責任を問われることととなる……。
そう……!
勇者たちは同じ一族であるというのに、こんな事でも足を引っ張り合っているのだ……!
話を元に戻そう。
リヴォルヴはさらに、銃のとなりのマネキンに掛けてあった、緑色の衣装を指さす。
「そしてお前さんたちゴルゴンの部下には、最新式の迷彩服を用意した。シンイトムラウの森に適応するような迷彩にしてあるうえに、不可視の魔法練成が施してある。コイツを着ているヤツを見つけられるのは、ホンモノの野良犬だけだろうナ」
「ありがとうございます、リヴォルヴ様! リヴォルヴ様の迷彩服は、特に効果が高いと評判ですから……! これがあれば野良犬マスクの鼻先に近づいても、ヤツは気付かないでしょう!」
「だろうナ。それと、野良犬マスクのいる場所へは、案内犬が案内してくれる。ソイツは今頃、山の麓でお前さんたちが来るのを待ってるから、すぐに行ってくれるかナ?」
「……はっ! ですが、すぐにというわけにはまいりません!」
「ナんでだよ?」
「これから依頼の内容をゴルゴン様に報告し、そのうえで受諾するかどうか、ゴルゴン様が判断されますので……!」
……キィィィィィィィンッ……!!
鉄を貫くような風切音が、テラスから飛び込んできたかと思うと、
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
壁の野良犬マスクの似顔絵の眉間に、大穴が開いた。
書斎にいた部下はひっくり返り、リヴォルヴは口笛を吹く。
「……ヒューッ! どうやら、奴さんは『オーケー』のようだナ……!」
……とうとうリヴォルヴは、本気のカードを切った。
バカンスに来ていた隊曹などではなく、とうとう正規メンバーである、本隊を動員したのだ……!
本隊は上位ナンバーになればなるほど精鋭になっていく。
野良犬マスクに差し向けられたのは、死のナンバーと呼ばれる、13番隊……。
ひとつの小国の軍隊程度であれば、一夜にして誰からも気付かれることなく全滅させられという、暗殺のプロ集団であった……!
その中でも、隊長のゴルゴンはプロ中のプロ。
暗殺のオリンピックがあれば、金メダルを噛みすぎて、メッキで金歯になってしまうほどの……!
しかも、その姿を見た者は誰もいない。
いや、誰もいないことはないのだが、隊長に就任してからは、姿を人前に現さなくなった。
ちなみに13番隊はリヴォルヴに呼び出される前に、村を襲っていたが、その中には隊長だけいなかった。
彼は、部下に対しても伝書鳥を使って指示を出すという徹底ぶりで、副隊長ですら彼がどんな顔をしているのか知らないという。
決して誰も、見ることはできない……。
しかし彼は、いつも視ている……!
そして、その目に射すくめられたものに待つのは、死……!
誰も……逃れることなどできないのだ……!
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
ディン・ディン・ディンギル
ブタフトッタ
ノーワンリヴズ・フォーエバー
マリーブラッドHQ
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キティーガイサー
●智天級(大国本部長)
ライドボーイ・ロンギヌス
ライドボーイ・アメノサカホコ
ライドボーイ・トリシューラ
ライドボーイ・トリアイナ
●座天級(大国副部長)
デスディーラー・リヴォルヴ
New:ゴルゴン
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ゴルドウルフ
●力天級(小国副部長)
●能天級(方面部長)
●権天級(支部長)
ジャンジャンバリバリ
●大天級(店長)
●小天級(役職なし)
○堕天
サイ・クロップス
ジェノサイドダディ、ジェノサイドファング、ジェノサイドナックル
ミッドナイトシャッフラー、ダイヤモンドリッチネル、クリムゾンティーガー
ライドボーイ・ランス、ジャベリン、スピア、オクスタン、ゼピュロス、ギザルム、ハルバード、パルチザン
名もなき戦勇者 167名
名もなき創勇者 60名
名もなき調勇者 113名
名もなき導勇者 165名
ルウ様よりレビューを頂きました、ありがとうございます!
そして次回、さっそくざまぁ回です!