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206 パーフェクト・ゲーム

 ハールバリー小国に害悪しか与えなかった、ポップコーンチェイサー。

 大国のボンボンである彼が、この国にもたらした、唯一の善行とは……?


 それは……。


 ゴルドウルフから贈られた、野良犬印のチョコレートを……。

 メイドたちに、投げつけたこと……!


 かつてオッサンはボンボンの元に呼ばれ、賄賂を要求されたことがあった。

 しかしオッサンは断り、かわりに板チョコを何枚か置いていった。


 チョコレートは最高級品しか口にしないボンボンは、もちろんそんな安チョコには、一切手を付けなかったのだが……。

 ある日、むしゃくしゃしたときに、それを掃除に来たメイドたちに投げつけていたのだ。


 そう……。

 野良犬印のチョコレートが、なぜ急に王城でブームになったのか……?


 その秘密は、こんな所に隠されていたのだ……!


 ボンボンから投げつけられたチョコは捨てられることはなく、もったいないからとメイドたちがオヤツとして食べた。

 そして……そのあまりの美味しさに、誰もが目をみはった。



「えっ……? 何これ……?」



「ね……ねぇねぇ、このチョコ、すっごく美味しくない!?」



「う……うんっ! ビックリした……! 普通の板チョコなのに、なんでこんなに美味しいの!?」



「普段食べてるチョコとは全然違う! それに、王族の方々にお出ししているチョコより、ずっとずっと美味しいわ!」



「これ、どこで売ってるの!?」



「えーっと……スラムドッグマートですって!」



「えっ、それってたしか、城下町にある冒険者のお店だよね?」



「なんで冒険者のお店が、チョコを売ってるんだろう……?」



「わかんないけど、とにかく明日、お使いのついでに買いに行きましょうよ!」



 ここでまず使用人たちが、野良犬印のチョコレートの虜になった。

 そうれなれば、あとは自然と……。



「ねえねえ、今日お見えになったお客様に、あのチョコレートを出したらすっごく喜ばれたわ!」



「ご婦人たち、普段はチョコレートはお気に召さないのに、ぜんぶ綺麗にお召し上がりになったの!」



「私も! どこのブランドのチョコレートか聞かれちゃった!」



「でもまさか、1粒1000(エンダー)どころか、1枚100(エンダー)のチョコだなんて、思ってもみないでしょうね……」



「普段は1万(エンダー)はするチョコレートを召し上がっている方々を唸らせるだなんて、やっぱりこのチョコレート、本当に美味しいんだ……」



「そう思って……私、やっちゃった」



「え? なにを?」



「バジリス様のおやつのチョコを、このチョコに変えてみたの」



「えええっ!? 何てことを!?」



「もしこんな安チョコレートを食べさせたなんて知ったら、バジリス様はたいそうお怒りになるわよ!?」



 ……バァーーーーーーーンッ!!



「わあっ!? バジリス様っ!!」



「ど、どうなされたのですか!? このような場所に姫様みずから、わざわざお出向きになられるだなんて……!?」



「……このチョコレートを作ったのは、誰なのだあっ!?」



 ……まさか……!?


 オッサンはこうなることを予想して、あのボンボンに、チョコを進呈していた……!?


 あのチョコは、ボンボンに対する、ただの皮肉ではなく……。

 裕福層を店に呼び込むための、撒き餌だった……!?


 それどころか、この国の王女までもを店に来させ……。

 働かせ、矯正するための、呼び水っ……!?


 それどころか、それどころかっ……!

 この国のガンともいえる、ボンボンを取り除くための……。


 抗ガン剤っ……!?!?


 まさか……!?

 まさかまさか、いくらなんでも……!!



 あ り え な い(イン・ポッシブル) っ …… !!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 『スラムドッグカフェ』でおこった大岡裁き、その次の日の朝……。

 バジリスは、王城へと戻ることになった。


 慣れ親しんだスラムドッグマートの前で、すっかりお姫様に戻った彼女は、ゴルドウルフを見上げていた。


 数週間前の、悪魔を呼ばわりした頃の、刺々しい口調はすっかり変わり……。

 今やともに戦った天使に接するかのように、穏やかで信頼に満ち満ちていた。



「世話になったな、ゴルドウルフ」



「こちらこそ、働いてくださってありがとうございます」



「うむ。ところでその方、家臣の職に興味はないか?」



「家臣……ですか?」



「うむ。家臣団でいうところ、家老であるな。それも、わらわの専属で」



 家臣の地位において、家老というのは最高位に位置する。

 しかもゆくゆくは女王となる、姫の専属ともなると、その権力は計り知れない。


 なにせ家老の権限というのは、国家の政治、経済、軍事にいたるまで、多岐にわたるからだ。


 仮にオッサンが就いたとしたら、この国におけるスラムドッグマートは絶対無敵のスターを手に入れたも同然。

 たとえゴージャスマートの再侵攻があったとしても、完全にはね除けられるであろう。



「今回のことで、わらわは目が覚めた。しかしわらわは、まだまだ幼い。これからも道を誤ることがあるやもしれぬ。だが、そなたが側におれば、きっとどんな時でも、正しき道を進めると思うのだ。……どうだ?」



 普通の人間であれば、もったいないお言葉……!

 と額を地面にこすりつけて、恐悦至極にその身をうち震わせていたであろう。


 しかしオッサンは、いつもと変わらぬ様子で、立ったままバジリスを見下ろしていた。

 出会ったときと同じく、ひとりの少女と接するように。



「せっかくの申し出ですが、お断りします。私はもう、主人を持たないと決めたのです」



 周囲で片膝をつき、うつむいていた護衛の者たちは、えっ!? と顔をあげる。

 しかし当の姫様は、その答えを期待していたかのように、満足そうに頷いた。



「……そうか、わかった。では、またこの店に遊びに来てもよいか?」



「ええ、もちろん。お客様はいつでも歓迎です」



 バジリスは「うむ」と話を締めたあと、次はオッサンの足元で土下座していた、少年に声をかける。



「マトゥ。その方にも、世話になったな」



 しかし少年は、亀のように手足を引っ込め、小さくなって震えていた。



「ご、ごめんなさいっ!! まさかお姫様だったなんて……!! 無礼なことばかり言って、本当に、本当にごめんなさいっ!!」



「気にするでない。また、そなたの家に行ってもよいか?」



「そ……そんなっ!? お姫様があんな所に来るだなんて……!! とんでもありませんっ!! どうか、お許しくださいっ!!」



 ひたすら恐縮し、絶対に頭をあげようとしない少年。

 少女の顔に、一抹の淋しさがよぎる。



「そうか……では、弟妹によろしく伝えてくれ」



 その言葉を最後に、店の前で待っていた大きな馬車に乗り込むバジリス。



「じゃあママも、お城まで一緒についていくわね」



 そう言って、リインカーネーションも後に続いた。


 大聖女ともなると、王族と馬車をともにすることは珍しくない。

 長らく姫の身柄を預かっていた者としては、最後まで同行して、国王に無事を報告するのも当然であろう。


 『スラムドッグマート』の前を、馬車はゆったりと走り出す。

 その周囲には、多くの護衛の者たちが馬に乗って守りを固めている。


 店先に集まっていた者たちは、大通りを小さくなっていく馬車を、消えるまで見送っていた。

 その先頭に立っていたゴルドウルフは、しばらくして振り返ると、



「ではみなさん、今日も一日、がんばりましょう」



 後ろにいた店員たちに、いつもと変わらぬ声をかけた。


 ……このオッサンは、たった数枚のチョコをきっかけにして、裕福層を取り込んだ。

 それどころか、この国のトップとなる人物を呼び寄せ……その性根を、たたき直してみせたのだ。


 きっと彼女が跡継ぎになれば、今とはまた違う国に……。

 勇者に負けない強い国になるだろうと、オッサンは確信していた。


 国家の行く末まで見通し、コントロールした、このオッサン……。

 もはや全知全能なのであるが、それを知る者は、今はまだ誰もいない。


 そして……。

 そんなオッサンですら、まだ知らないことがあった。



「バジリスちゃん、ゴルちゃんに断られて残念だったわねぇ」



「うむ、でもわらわはあきらめぬぞ! 何としてもあのゴルドウルフを、わらわの側に置いてみせる!」



「だったら、逆に考えてみたらどう? ゴルちゃんを側に呼ぶんじゃなくて、バジリスちゃんがゴルちゃんの側に行くの。そしたら断られることもないと思うわ」



「わらわが、ゴルドウルフの元に……?」



「ええ、それだけゴルちゃんのことが、好きなんでしょう?」



「それは、そうであるが……。わらわに王女の座を、捨てろというのか……?」



「ううん、そうじゃないの。お姫様のまま、ゴルちゃんの側にいられる方法があるのよ」



「それはまことか!? その方法を教えるのだ、リインカーネーション!」



「うふふ、それはね……」



 嗚呼(ああ)……!

 まさか、まさか……!


 自分のあずかり知らぬ、自分のハーレムに……!

 白い大天使のような少女の、悪魔のささやきによって……!


 齢6歳の、いたいけな幼子が……!

 しかもこの国の、王女が……!


 101人目の嫁として……。

 今まさに、引きずり込まれようとしているとは……!


 否、それどころか……!



「ゴルドウルフのハーレムに、わらわは入るぞ!」



 まるで海賊王を目指すかのように、興奮気味に、自ら名乗りを上げていることなど……!


 あのオッサンとて、知る由もないのであった……!

野良犬印のチョコレートが大ヒットする要因となった、ポップコーンチェイサーがメイドにチョコレートを投げつけるシーンは、今章の82話にあります。


そして……これにて今章、すべて終了となります!

閑話も合わせて206話の大長編……ここまで読んでくださった方には、感謝の気持ちしかありません!


書ききった、自分に対しては……。

前章の最後のあとがきを見返してみたら、こんな一文がありました


『個人的に第2章はこってりしていたと思うので、次はあっさり目でいくかもしれません。』


タイムマシンがあったら、この時の自分をどつきたい気持ちでいっぱいです!


さて、このあとは何日かお休みを頂いたあと、いつものように登場人物のまとめを挟んで次章にまいりたいと思います。

せっかくの区切りですので、これまでの感想や評価を頂けると嬉しいです!


例によって感想や評価が多いほどやる気が出ます!


そして宣伝なのですが、私がもうひとつ書いているお話、


『6歳からの賢者学園ライフ 賢者の石を持っていますが、賢者には興味ナシ!』


こちらも第1章のクライマックスに到達し、ますます盛り上がっておりますので、この機に読んでみていただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] ハイ! え~これにて、自分 「あー」 による 『駄犬~金狼』 の振り返り感想は終了でございます!! 約半年・・・長いような短いような・・・しかし確実に楽しい期間でした!! 自分がこのお話…
[一言] ・・・タイムマシンがあったら・・・とのことですが、とんでもない!! これほどのお話なら、これくらいの尺は必要経費だと思います!! だって個人的にはこのお話で一番好きな章は、この第3章ですから…
[良い点] この短期間ですっかり大人になった御幼公♪ ・・・もう子供扱い出来ませんね。 これでハールバリー王国は安泰ですな♪ >「私はもう飼い主を持たないと決めたのです」 ・・・それでこそオッサン…
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