194 決着
「「ガチャンッ!!」」
その音は、ふたつ同時に起こった。
ひとつは、悪魔の嗤いのように、魔導装置から……。
ひとつは、天使の咳払いのように、部屋の入り口から……。
「まさか……勇者サマが、魔王信奉者だったとはねぇ、っと」
「だ……誰だっ、ゴルァァァ!?」
その声に振り向いたジェノサイドファングは、部屋の戸口によりかかっている、黒いスーツの男を見た。
同じ色の帽子を深く被り、銀の短銃で、肩をポンポンと叩いている。
「おやおや、覚えておいででない? せっかく法廷でお知り合いになれたってのに……っと」
帽子のつばが、銃口でクイと持ち上げられ、次男は息を呑んだ。
「き、貴様は憲兵局の……!? なぜここが!?」
「そうですよ、っと……。最近は、いいタレコミが多くてねぇ。こちとらまるで、見えない鎖に引っ張られてて……。本当の猟犬になったような気分なんですよ。それに、これじゃ対魔王信奉者課じゃなくて、対勇者課だ……なんて思ってたんですが、ようやく本来の仕事ができそうですよ、っと」
「こっ……これは……! ち、違う! 違うんだっ、ゴルァァァァァ!! 俺は魔王信奉者なんかじゃねぇっ!!」
「その魔導装置を使っといて、他になにをするんですかい? いやはや、大胆ですねぇ、っと。保釈中の身だってのに、『儀式』をやるだなんて……。しかも肉親相手とは、恐れ入ったねぇ。弟サンの放火が、かわいく見えてくるほどですよ、っと」
「ぐううっ……!」と言葉に詰まるジェノサイドファング。
まさか本当の目的を言うわけにはいかなかった。
得意の暴言で乗り切ろうにも、現場を押さえられてしまった以上、どうにもできない。
真実を白状しても終わり、虚実を作り上げても終わり……!
抜き差しならぬ彼が、とった行動とは……!?
「くっ……!」
壁に掛けてある剣に飛びつき、つかみ取る。
「おっと、やめといたほうがいいぜ、っと。こっちはとうに、『唄う』準備はできてるんだ。それにアンタはもう、勇者じゃない……。魔王信奉者を射殺するのは、俺にとってはパンにバターを塗るようなもんなんだぜ、っと」
天使の唇が向けられると同時に、部屋に大勢の憲兵がなだれこんで来る。
ジェノサイドファングは、そのまま取り押さえられ……。
ジェノサイドダディは全身血まみれとなったが、一命はとりとめた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
このハールバリー小国において、ここ数日いちばん忙しかったのは誰か、と尋ねたら……。
誰もが口を揃えて「新聞屋」と答えたであろう。
それほどまでに特ダネには事欠かなかったのだ。
ライクボーイズたちの悪行の露呈と失墜、その熱が冷めやらぬうちに……。
それ以上、かつ、よりスキャンダラスな特ダネが、次々と出てきたのだから……!
『ジェノサイドナックル様が最果て支店に放火! 実の父親を狙った犯行か!?』
『ジェノサイドファング様は、魔王信奉者だった! しかも儀式の相手は、実の父親!』
『ジェノサイドロアー様が、行方不明に……! 失踪を見越しての、全店閉店!?』
皆殺し兄弟たちが、連日一面を飾るなか、特にセンセーショナルに扱われたのは……。
『ジェノサイドダディ様は、「伝説の販売員」ではなかった!?』
『当時の最果て支店の書類が流出! ジェノサイドダディ様は、パワハラ上司だった!?』
『「伝説の販売員」の正体は、なんと、「スラムドッグマート」の現オーナー……!』
ゴ ル ド ウ ル フ ・ ス ラ ム ド ッ グ …… !!
この事実は、ハールバリー小国をかつてないほどに激震させた。
なにせ、この国の教科書には、必ず載っているほどの人物の……。
この国の調勇者育成学校においては、ゴッドスマイル様と並んで、彫像になっているほどの……。
老若男女の誰もが知り、商売の神様とまで呼ばれた人物が……。
ただのハリボテだと、わかったからだ……!
この事実に、ハールバリー小国の国民たちは、驚天動地のパニックに陥った。
この国すべてのゴージャスマートは閉店していたにもかかわらず、押し寄せた人々に蹂躙され、野良犬のように駆逐された。
ジェノサイドロアーの演説に心酔していた店員たちも、即日辞職を申し入れ……。
暴徒と一緒になって、次なる目的地へと殺到したのだ。
そう、そこは……。
野良犬印の、あのお店……。
ス ラ ム ド ッ グ マ ー ト …… !!
人々はオッサンをひと目見ようと、そして新たなる商売の神様にあやかろうとした。
実をいうとオッサンは、ツアーを終えて新たに増えた女性客たちに、連日追い回されていたのだが……。
この国の王様以上に警護されていなくては、日常生活も送れないほどになってしまっていた。
王様と、野良犬……。
ふたつのチェーン店はこの国での地位を、確固たるものにした。
王様のようにもてはやされる、野良犬と……。
野良犬のように忌み嫌われる、王様……。
真逆の扱いが、民衆の間では当たり前となってしまったのだ……!
同時に勇者への不信感も、少しずつ高まっていった。
オッサンは、ついに成し遂げたのだ。
まだ完全ではないものの、人々から……。
『勇者は絶対善』という価値観を、ブッ壊し……!
『勇者は大正義』という幻想を、ブチ殺してみせたのだ……!
さらには『伝説の販売員』の地位まで、ついに奪還……!
……しかし当人にとっては、そんな肩書きなどはどうでもよかった。
チャンピオンベルトを剥奪さえできれば、それが再び巻かれるのは、自分の腰ではなく……。
近所の子供に与えても、何ら構わないと思っていた。
肝心なのは、『オヤジを伝説のまま、終わらせない』ということ……!
彼にすべてを奪い尽くされた、多くの人々の無念を、晴らすことにあったのだ……!
ゴルドウルフ、調勇者ジェノサイドダディ・ゴージャスティスを……!
影縫&成敗……!
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
ディン・ディン・ディンギル
ブタフトッタ
ノーワンリヴズ・フォーエバー
マリーブラッドHQ
●熾天級(副社長)
キティーガイサー
●智天級(大国本部長)
ライドボーイ・ロンギヌス
ライドボーイ・アメノサカホコ
ライドボーイ・トリシューラ
ライドボーイ・トリアイナ
●座天級(大国副部長)
●主天級(小国部長)
●力天級(小国副部長)
ゴルドウルフ
●能天級(方面部長)
●権天級(支部長)
ジャンジャンバリバリ
●大天級(店長)
●小天級(役職なし)
○堕天
↓降格: ジェノサイドダディ(失点80)
ジェノサイドファング、ジェノサイドナックル
ミッドナイトシャッフラー、ダイヤモンドリッチネル、クリムゾンティーガー
ライドボーイ・ランス、ジャベリン、スピア、オクスタン、ゼピュロス、ギザルム、ハルバード、パルチザン
名もなき戦勇者 159名
名もなき創勇者 60名
名もなき調勇者 112名
名もなき導勇者 164名
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『皆殺し家族』との4連戦。
オッサンはついに、最後の対戦相手であった父親を、T・K・O……!
フィニッシュブローは、相手を大きく吹き飛ばすアッパーカット。
その威力はすさまじく、対戦相手をそのまま病院送りどころか、監獄送りにしてしまった……!
ちなみにではあるが、オヤジの後ろ盾が無くなり、そして勇者でもなくなったジェノサイドファングは、強制的に血液検査を受けさせられる。
本来ならば、これまた新聞の一面を飾ってもおかしくないほどの結果だったのだが……。
連日のスクープに埋もれてしまい、それは四コマ漫画の下のほうに、ひっそりと扱われるだけで終わった。
次回、ジェノサイド一家編のファイナルです!