185 戦い終わって
さて……。
もはや説明不要かもしれないが、今回の一件はすべて、あのオッサンからの意趣返しである。
オッサンは、ジェノサイドロアーが企てた『スラムドッグマート壊滅作戦』のガワだけをそっくりそのまま利用し、『ゴージャスマート壊滅作戦』へと仕立てていたのだ。
まず、不死王バルルミンテに命令し、ゴージャスマートの施工者たちが『不死王の国』に様々なインチキを施すのを黙認させた。
しかし、まったく抵抗がないと怪しまれるので、そこそこ罠やモンスターなどで邪魔をさせる。
そして施工完成後に何度も繰り返された、ゼピュロスを交えたリハーサルも、密かに監視させていた。
最終リハーサルと、各種仕掛けの最終チェックを終えたゴージャスマートのスタッフたち。
彼らのショーの準備は整った。
あとは明日の本番を迎えるのを、待つだけとなったところで……。
そこからが、オッサンのターンであった。
ゴージャスマートの用意していた『壁画の不死王』はアフレコなのだが、それをバルルミンテ本人に命じる。
さらに夜を徹して、不死者を総動員しての改築作業。
野良犬サイドの仕掛けはそのままに、勇者サイドの仕掛けをことごとく改変したのだ……!
オッサンは自分に降りかかる罠も、事前に知っていた。
実のところ、ツアーに仕掛けられていた罠の数々は、煉獄を経験していたオッサンにとってはキッズコーナーレベルでしかなかった。
ぶっつけ本番であったとしても、すべての罠をかわすことができたのだが……それでは意味がない。
そこで考えられたのが、様々な機能を持った着ぐるみである。
これはゴルドくんマスクにかわるもので、オッサンにとっては想定外のものだったのだが、渡りに舟として活用。
罠を回避するのではなく、着ぐるみの能力で、罠をすべて受け止めるというシナリオを仕立てたのだ……!
なぜ罠を回避せず、わざわざ引っかかるようにしたかというと……
これには、ふたつの理由があった。
まずひとつめは、回避を繰り返すと、『罠の情報を事前に知り得ているのではないか?』とジェノサイドロアーに疑われてしまうためである。
オッサンは不死王の国の影のオーナーなのだが、それを悟られるヒントを与えるわけにはいかなかったのだ。
そしてふたつめは、演出効果。
回避してしまうと、罠の脅威は視聴者には伝わらない。
車を直前でよけるスタントよりも、轢かれるスタントほうがより数字を取れると判断したのである。
しかも幾度か行なわれた『裁き』では、ゴルドくんは明らかに勇者よりも酷い目に遭っていた。
そのハンデを乗り越えていたからこそ、ゼピュロス一色だった観客のハートを掴むことができたのだ。
ちなみに今回の仕掛けとして最大だったのは、2000人をハメた落とし穴と、ヘタレ打ち上げ花火である。
落とし穴については、実はあの観客席には数カ所仕掛けられていて、最悪の事態の場合はステージごと没シュート可能な作りになっていた。
なお穴の行き先は、生者を捕らえて収容するときの施設へと繋がっている。
穴に落ちていった2000人ものゴージャスマートスタッフは今、順次バルルミンテのお白州を受けていることだろう。
そして、ヘタレ花火……。
黒雲天に打ち上げられたこの一発は、逆転満塁サヨナラホームランどころの騒ぎではなかった。
例えるなら、今まさに球場を襲撃しようとしていたテロリストたちが乗ったヘリに当たり……。
それが彼らの本拠地に墜落し、爆発炎上……。
偶然その本拠地では決起集会が行なわれていて、国じゅうからテロリストたちが集まっていたせいで、一掃されて……。
国を脅かすテロリストが全滅してしまったほどの、一大掃討に発展していた。
無理もない。
今をときめくトップアイドルであった『ライクボーイズ』のリーダーである、ライドボーイ・ゼピュロスが、過去幾人もの女性を手にかけていたことを自白した後……。
「勇者……ライドボーイ・ゼピュロスは……ヘタレでしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーっ!!!!!!!!!!」
などと、伝映を通して国じゅうに叫んだあと……。
『勇者ライドボーイ・ゼピュロスはヘタレでしゅ』
さらに念押しするような、仕掛け花火を打ち上げたのだから……!
これにはマスコミも、こぞって新聞で書き立てた。
『トップアイドルの乱心……!? ゼピュロス様は、自他共に認めるヘタレ!?』
『仕掛け花火はゴージャスマートのもの!? ジェノサイドロアー様との不仲説が浮上!』
『ゼピュロス様は、連続殺人鬼のヘタレ…! 不死王はすべて見通していた…!? 』
論調は主に、この3つであった。
狂人になってしまったゼピュロスが、自らのあの花火を用意、常軌を逸した方法で罪を告白したというもの。
ツアーはゴージャスマート主催だったので、ジェノサイドロアーが仕組んだというもの。
そして、最後……この説がいちばん多く受け入れられていたのだが……。
不死王バルルミンテの裁きによって、ゼピュロスは狂い、そして罪を告白したというもの。
新聞には、オッサンの『オ』の字もなかった。
もちろん記者たちは、スラムドッグマートにもインタビューに訪れていたのだが、
「まさかゼピュロスさんが、多くの女性を手にかけていただなんて……信じられません」
「ゼピュロス様は、このスラムドッグマートにもいちどお越しになったことがあります。おひとりでブツブツと、何かおっしゃっておりました」
「ゼピュロスちゃん? それ、だあれ? それよりも見て見て! ついに『ゴルちゃんがなんでも言うことを聞く券』を手に入れたのよ!」
特にこれといって記事になることもなかった。
そして……。
この問題は、勇者のかつての仲間たちにも飛び火する。
『ライクボーイズ』のメンバーである、
ライドボーイ・ギザルム
ライドボーイ・ハルバード
ライドボーイ・パルチザン
は、緊急記者会見を開いた。
そこで涙ながらに、リーダーの無実を訴えたのだ。
あの伝映は不死王が作った、幻であると……!
そしてゼピュロスは度重なる拷問で、無実の罪を告白させられたのだと……!
そして、さらに彼らは……。
リーダーに濡れ衣をきせた、不死王を倒すため……。
まだ地下迷宮内にあるかもしれない、リーダーの遺体を回収するため……。
『不死王の国』へ殴り込み、バルルミンテ討伐を宣言したのだ……!
次回、ゼピュロス編のラストです!