180 最終投票
それは、一瞬の出来事であった。
絶叫マシンを嫌がる芸人のように大暴れてしていたゼピュロスの身体が。
……ドッ!
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーンッ!!
邪神像とともに、天井に向かって射出されたのだ。
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ロケットの噴射音のような悲鳴を残しながら、第五の裁きの間から飛び立った勇者。
あっという間に第四の裁きの間を通過し、塔のように伸びる空間を上昇していく。
そして、
……ガッ!
シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
なにかに引っかかるようにして、ガクンと停止する。
アリーナのモニターには、どこかで見たことのあるような曇天をバックにする、勇者の姿が映っていた。
『「ぎゃっ!? ぎゃっ!? ぎゃっ!? ぎゃっ!? ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」』
その悲鳴は、ふたつ重なって聞こえた。
「あ……あれはっ!?」
とひとりの観客が指さす。
その先は、『不死王の国』の最頂点……。
不死王の国は、ピラミッドのような形状をしているのだが、そのいちばん上にある四角錐が、花びらのようにパカッと開いていて……。
まるで親指姫のような勇者の姿が、そこにあったのだ……!
といっても、邪神像に羽交い締め……いや磔のようにされているので、姫というよりも完全に死刑囚……!
『「ひぎゃっ!? ひぎゃっ!? ひぎゃぁぁぁぁぁ~!?!?! ここはどこなのしゃ!? どこなのしゃどこなのしゃどこなのしゃ!? どこなのしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?」』
立ち小便で極刑に処せられた人みたいに、困惑の悲鳴を響かせていた。
『荼毒の者よ……! 貴様に、最後の機会をやろう……! 不死王の国の外で、そなたを見ておった……千人もの者たち……! その者たちが、これから……ひとりでもそなたに石を投げなければ……! そなたの荼毒は特別に、許してやるとしよう……!』
空を震わせる不死王の声に、ゼピュロスはピタッ、と我に返った。
『ただし……! もし千人全員が、石を投げた場合……! 荼毒は執行され……そしてさらなる責苦がそなたを待っているぞ……! この機会を得ないというのであれば、すぐに荼毒は執行されよう……! さぁ、どうする……!?』
勇者は一も二もなく首を縦に振る。
先の最終審判では、516名の支持があった。
ひとりくらいの支持を得るのは、楽勝だと思っていたのだ。
しかし……彼は知らなかった。
最終審判は、暴力で勝ち得たものであることを……!
さらに彼の悪行は、ゴルドウルフの手によって、過去から現在にいたるまですべて、白日の元に晒されてしまっていることを……!
「や……やるのシャ! もちろんやるのシャ! 絶対やるのシャ! メスブ……い、いや! レディたちの支持を得るなんて、このゼピュロスの美貌を持ってすれば、息を吸うくらい簡単なのシャ!」
嗚呼……!
もうひとつ、知らないことがあった……!
もはや彼の美貌は面影もなく、ゾンビのように醜く崩れてしまっているというのに……!
ゼピュロスはまるでステージに立っているかのように、不死王の国の前の広場にいる、大勢の者たちに向かって叫んだ。
「レディたち! 今日はゼピュロスのために集まってくれたんだよね!? いい子だ……! さあっ、子猫ちゃんたちには! 特別にゼピュロスのウインクをプレゼントするのさ! せーのっ!」
……ガンッ!
しかし魅惑の片目閉じは、彼を縛り付けている邪神像の殴打によって遮られていた。
見ると、六本ある像の手のうち2本はゼピュロスの身体を拘束していて、残りの4本はフリー。
さらによく見て見ると、フリーの手にはソフトボール大の石が握られている。
『さっそく何者かが、ボタンを押したようだな! ボタンが押された回数分だけ、カオツルテクト様がそなたの顔面を殴る! たとえそなたが泣いても、殴るのを止めぬ! たとえ途中で絶命したとしても、止まることはない……! せいぜい、命乞いをすることだな! フハハハハハハハハハハハハハハ!!』
……ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!
不死王の説明の間にも、すでに殴打の雨は降り注いでいた。
「ひっ……ひぎっ! ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃ! こ、子猫ちゃんたち……! い、いたずらは……!」
……ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!
「ぎゃはぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!?!? い、いだい! いだいのさぁ! ぜ、ゼピュロスをこ、困らせるなんて、い、いけない……いけない……こねっ……子……!」
……ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!
「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!?!? いだいいだいいだいだいだいいだいっ! いだいいいいいーーーーーーーーーーーっ!?!? やめるのシャッ! やめるのシャァァァァァァァァーーーーッ!!!!」
……ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!
「げふっ……! がはっ! み、耳が……耳があっ!? うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?!?」
……ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!
この手の殴打は彼にとっては二度目。
前回は邪神による『裁き』で、そもそも理不尽極まりないものであった。
今回も邪神ではあるのだが、そのキッカケを作っているのは、彼自身のファン。
こんな山奥にまで観に来てくれるような、熱烈の……!
しかし眼下にいる、千人ものファンであるはずの者たちは……。
悲しむどころか皆笑顔で、快哉すら叫びだす始末……!
まるで実演調理を楽しむかのように、変形していくゼピュロスを眺めていたのだ。
鉄板焼きステーキで、叩かれる肉のように……!
「はぐっ!? はぐぐぐぐっ! はぷぷぷっ……! げほっ! やめてっ! やめてぇぇぇ!! お……お願い……お願いなのシャァァァァァッ!!」
しかも言葉が通じる相手のはずなのに、いくらお願いしても止めてくれない。
ブタがいくら鳴いても、人間には届かないように……!
これはゼピュロスにとっては、計り知れないショックであった。
人間だと思っていた自分が、ブタで……。
ブタだと思っていた者たちが、自分の生殺与奪権を握った、人間だったかのような……!
「なんでも……なんでもする……からっ、ゆるひて……ゆるひてほしいのひゃあ! しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーんっ!!」
ついには股間から、黄色い液体を漏らし始める。
邪神像はフリーの腕を使って、小さい子の小用を手伝うように、脚を持ち上げた。
これはアークギアのオイルが漏れているだけなのだが、見た目は完全に、アレ……!
勇者は焦点の定まってない瞳で、鼻血と鼻水を噴出させながら……だらんと舌を、はみ出させ……!
じょばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
国じゅうに放尿姿を、大公開っ……!!
しかし彼に注がれるのは、もはや憐憫などではない。
嫌悪と憎悪、そして嘲笑……!
今まではまだ、地下迷宮という危険地帯だったので、ゼピュロスの非道も理解できなくもなかった。
見ようによっては、取り巻きが無能だったと責めることもできなくもない。
しかし……しかしっ……!
ただの快楽殺人のようなシーンを、続けざまに暴露され……。
本人はそれを認めるどころか、開き直るような態度をとってしまった以上……。
もはや彼の味方など、この世には存在するはずもない……!
観客たちすでに、投票開始と同時に全員が投石ボタンを押していた。
悩むどころか、むしろ殴打の順番待ちのような状態になっていたのだ……!!
……ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!
『おおーっとぉ! ヘタレ勇者へのお仕置きは、500発を突破してもなお、止まらないじゃぁぁぁぁーーーーんっ! このままみんなで、あの邪悪な勇者をやっつけるじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィィーーーーーッ!!』
実は勇者仲間であるジャンジャンバリバリもスイッチを持っていたので、彼ひとりだけでも押さなければ、ゼピュロスは助かったのだが……。
ジャンジャンバリバリは保身のために、ゼピュロスを見捨てていた。
むしろ開幕の1発を浴びせたのは、他でもない彼であったのだ。
今回も、バイオレンス度を抑えるのに苦労しました。
私の場合、痛さを表現しようとすると、どうしてもグロテスクな方向に行ってしまいます。
そして次回、最大風速のざまぁが、吹き荒れるっ…!