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175 最終決戦

『勇者と野良犬、支持者は同数となった! よって……両者による決闘(デュエル)で決着をつけようではないか!』



 不死王からなされた同点決勝の、決着方法……。

 それは、『決闘(デュエル)』……!



『勇者の同行者、そして野良犬の同行者たちがこの場で戦い、勝利したほうを無罪放免とする! 負けた陣営の者たちは全員、第五の裁きの間へと直行してもらおう!』



「わたしはそれで、かまいません」



 野良犬は、なおも悠然と、



「げふっ……! ゼピュロスもそれで、構わないのさ……!」



 黒焦げになった勇者は、口から煙を吹きながら承諾する。


 ゼピュロスはもうこれ以上、外野に振り回されるのはたくさんだと思っていた。


 ゴージャスマートの仕掛けは何一つマトモに作動せず、さんざん酷い目に遭わされてきた。

 しかも、ジェノサイドロアーとっておきのプランまでもが失敗に終わる。


 唯一、自分が骨を折って取り込んだ、シャオマオとビッグバン・ラヴのみが有効……。

 もうゼピュロスは、自分の力でなんとかするしかないと思っていたのだ。


 そして、他の同行者たちはというと……。



「そんな……! 人間どうしで争うだなんて! おやめくださいっ!」



「そうよ! ケンカはいけませんっ! ふたりともメッよ、メッ!」



 当然のように、ホーリードール姉妹は反対。



「あーしは、別にいいけど」



「ふーん、同感じゃん」



「シャオマオも、望むところね!」



 ビッグバン・ラヴとシャオマオは賛成の立場であった。



「そ……そんな!? みなさんまで!?」



「みんなもケンカなんてしちゃダメっ! ママが……ママが許しませんよ!?」



 半泣きで訴える聖女姉妹は、ゴルドくんの胸から飛び出していこうとする。

 しかしゴルドくんは、ここで初めて……彼女たちの腰をきつく抱きしめていた。



「お……おじさまっ!?」「ゴルちゃん!?」



「おふたりは、ここで待っていてください。もし負傷者が出た場合には、治療が必要となりますので」



「そ……そんな! 嫌ですっ!」「そうよ! ケンカもダメだし、置いてきぼりもイヤっ!」



「これは、私たちにとって、必要なことなのです」



「「必要な、こと……?」」



 いまにもこぼれ落ちそうなどに潤んだ瞳が、まん丸に見開かれる。

 性格は違えど、こういう仕草は姉妹そっくりであった。



「そうです。私と、シャオマオさんと、ビッグバン・ラヴさん……。そしてマオマオさんと、ミグレアさんの……過去を清算するために」



 ゴルドくんの口から意外な人物の名が告げられたので、シャオマオとビッグバン・ラヴのふたりはピクリと反応する。


 プリムラは何のことかわらかず、戸惑うばかりであったが、



「……わ、わかったわ」



 マザーは、反対していた息子の旅立ちを承諾するように、クスンと鼻を鳴らして頷いた。



「お姉ちゃん!?」



「ママはもう止めないし、何をするのかも聞かない……。でもゴルちゃん、これだけは約束してほしいの」



「なんですか?」



 瞼を閉じた拍子に、あふれ出る涙。

 ダイヤモンドのようにキラキラと光りを放ち、頬を伝った。


 再び開かれた瞳は、母なる惑星(ほし)のように、青く輝いていた。



「ママとプリムラちゃんの言うことを、なんでもひとつだけ聞いてほしいの……。絶対に私たちの元に、みんなで帰ってきて……お願いを叶えてくれるって、約束して……」



 これはマザーなりの、生還の願いであった。


 願い自体は、別に叶わなくても構わない……。

 ただそれを聞き届けるために、生きて帰ってほしい……。


 それこそがマザーの望んだ、たったひとつのことだったのだ。



「わかりました」



 ゴルドくんはいつもと変わらぬ様子で、ゆっくりと頷いた。


 もうプリムラも、止めることはしなかった。

 声を震わせながら、着ぐるみの胸に顔を埋めると、



「おじさま、おじさま……! 絶対に、絶対に帰ってきてくださいね……!」



 泣きはらした顔をあげ、未練を振り払うように、ゴルドくんから離れた。

 ふたりが部屋の隅まで移動したところで、



 ……ガコオンッ!!



 部屋の床がせり上がる。

 この部屋は中央のあたりが昇降するようになっていて、それが持ち上がったのだ。


 太い支柱が伸びてきて、昇降機のごとくどんどん押し上げていく。


 床の無くなった部分は、底がなくて空洞であった。

 階下が見えないほどに、どこまでも深い闇が広がっている。


 外周の床だけが取り残され、そこには聖女姉妹が。

 特設リングのように上昇していく床には、ゴルドウルフ、シャオマオ、ビッグバン・ラヴ……そして、ゼピュロス……!


 ……もし、リインカーネーションとプリムラが、戦いに赴く各人の心境を知っていたら、ここまですんなりと見送りはしなかっただろう。

 身体を張っててでも止めていただろうし、絶対についていったに違いない。


 彼女たちはまだ、知らなかったのだ……。

 シャオマオとビッグバン・ラヴが、勇者に取り込まれていることに……!


 チーム分けでいえば、野良犬サイド4人、勇者サイドひとりという、圧倒的有利な状況。

 しかし実情は、その逆……!


 野良犬はたったひとりで、勇者と、剣士と、大魔導女ふたりを相手にしなくてはならないのだ……!


 アリーナで一部始終を観ていた者たちは、声を張り上げていた。



「ご……ゴルドウルフゥゥゥゥゥーーーーーっ!! 行っちゃだめぇ! 行っちゃだめぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!! 全員、アンタを裏切るつもりなのよぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」



「勇者の剣技は、ひとりなら怖くないのん! でもシャオマオという前衛がいるうえに、マナシールドを持つビッグバン・ラヴがいるのん! 『ハートスラッシュ・ローリングダンサー』を発動できる条件が、揃いすぎてるのん! あの大剣技を受けてしまっては……たとえドラゴンの群れでも、ひとたまりもないのん!」



「いやあああああっ!! ゴルドウルフ先生っ!! に、逃げて! 逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」



 しかし、その声は届くはずもない。


 ジャンジャンバリバリはひとりになってしまったのだが、我が世の春を謳歌する蝶のように、手をひらひらさせてステージじゅうを舞っていた。



『ジャンジャン、バリバリィィィィィィーーーーーッ!! 勇者相手に、しかも4対1では、たとえ世界最強の戦士でも、絶対には勝ち目はないじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!! やっぱり正義は、最後の最後に勝つんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!! 悪はやっぱり、滅びる運命にあるんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーんっ!! いーやっほー! 一時はどうなることかと思ったけど、終わりよければすべてよしっ!! これでツアーも、このステージも、大・大・大成功じゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーっ!!!』



 モニターでは、すでにその4対1の図式ができあがっていた。


 勇者サイドは、最前列にシャオマオ、その後ろにバーニング・ラヴとブリザード・ラヴ。

 3人とも、不倶戴天の敵に相対しているかのように、ひとりぼっちの野良犬を視線で射貫いている。


 少年少女たちの背後には、笑いを堪えきれない様子で、クックックと肩を振るわせる、勇者ゼピュロス……!


 ゴルドくんは、この不死王の国に入ってからずっと、変わらなかった。

 とぼけた表情と、調子のはずれた甲高いおどけ声で、皆を和ませてきた。


 そして……今も変わらないかに見えた。

 両手はぶらり、脚は大股、おなかはぽっこり……。


 顔はうつむき、深い影がおちて、見えなかった。

 まるでこれから13階段に向かう死刑囚のように、静かに佇んでいる。



『では……決闘(デュエル)開始っ!!』



 時計塔の鐘が打ち鳴らされたような、不死王の声。



「♪Oh~! ゼピュロス! この美しき槍は、すべてを貫くぅ! モンスターの心臓も、レディのハートも!」



「紅蓮に眠る烈火の豪霊よ、爆炎を打ち鳴らし者よ、我の一臂(いっぴ)に……」



「蒼青に眠る絶対の零霊よ、閃氷を奏でし者よ、我の一臂(いっぴ)に……」



 若者たちは一斉に、己の持てる最大火力の準備を始めた。

 シャオマオは仲間たちを守ろうと、身体ほどもある曲刀を構えてゴルドくんの前に立ち塞がる。


 しかし、オッサンはなおも動かなかった。

やっと…やっとこれで、ざまぁへの準備が、すべて整いました…!

いよいよ…いよいよですっ!


すでに告知済ですが、明日の4/30、あさっての5/1のは、令和&ゴールデンウィークスペシャルとして、連日2話更新させていただきます!

一気にゼピュロス編のざまぁに突入したいと思いますので、ご期待ください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] オッサンのこの強い想い・・・。 そしてそれをうけて、涙ながらにオッサンを信じて送り出すマザーとプリムラさん・・・。 そしてヒーローの身を案じ、叫ぶ仲間たち・・・。 これでこそヒーロー・・・…
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