表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

278/806

168 狙われた無垢

「どーすんだよっ!? 勇者様が、あんな着ぐるみのチンドン屋にひれ伏してる姿が、いまこの国じゅうに流れてるんだぞっ!? もう客はドン引きだよっ!」



 『不死王の国』は、この国では田舎と呼ばれるトルクルム領、しかも山奥に存在する。

 しかしこんな僻地にいても、彼らはハッキリと感じていた。


 いまこの国じゅうにあるゴージャスマートでは、勇者の痴態が絶賛公開中。

 それを目の当たりにしている女性客たちが、潮のように引いているであろうことを……!


 各店舗は大変なパニックになっているであろうことは、容易に想像できた。


 しかしどうすることもできない。


 ゼピュロスは同行の約束を取り付けるまで、人間に戻るつもりはなさそうだった。

 となると、あとはゴルドくんが同行を承諾してくれるのを祈るしかない。


 裏方たちは、モニターに向かって拝みはじめる。



「早く、早くあの野良犬が、首を縦に振ってくれますように」



 と……!

 そうすれば、この悪夢のようなショーも終わる……!


 ゴルドくんが何者なのかは謎だが、今までの活躍ぶりから優秀な尖兵(ポイントマン)であることは明白。

 この、歯車をかけ違えてしまったような狂気の地下迷宮(ダンジョン)から、勇者様を救いだしてくれるであろうと……!


 しかし野良犬は無言のまま、足元で転がる勇者を見つめるばかり。

 まるで勇者のさらなる醜態を、引きだそうとしているかのように……!



「ああんあんあん! 野良犬しゃま! どうして、どうしてウンと言ってくれないのしゃぁぁぁ~! このゼピュロスは野良犬のしゃまの犬になったのしゃぁぁぁ~! だから野良犬しゃまのためなら、こんな事だって……!」



「あの、ゴルドくんっ!」



 突然ふたりの背後から、声がかかる。

 ゴルドくんが振り向くと、そこには……廊下から秘密の通路を覗き込む、シャオマオがいた。



「も、もしその人が、あの勇者様の……ライドボーイ・ゼピュロス様なのであれば、一緒につれて行ってあげてほしいね!」



 「……それは、なぜですか?」と静かに問い返すゴルドくん。



「シャオマオ、ゼピュロス様を訪ねてこのハールバリーの国に来たね! 『ライクボーイズ』のライブに行って、控え室を訪ねたこともあったね! でも、ボディガードの人に追い返されてしまって……。一度でいいからゼピュロス様とお話がしたかったのね! ……お願だから、この通りね!」



 今度はシャオマオが土下座せんばかりに頭を下げはじめる。


 気付くとゼピュロスは立ち上がっていた。

 それどころか、かっこいい腕組みポーズで壁に寄りかかり、フッとニヒルな表情。



「そこまでお願いされてしまっては、ウンと言わないわけにはいかないのさ。特別に、野良犬の灰色ツアーに花を添えてあげるのさ」



 先ほどまでの泣きつきっぷりはどこへやら、完全に上から目線である。


 ゴルドくんは悔しがることも残念がることもしない。

 いつもと変わらぬ様子で、おどけた顔を縦に振っていた。



「……わかりました。シャオマオさんがそうおっしゃるなら、ゼピュロスさんに同行してもらいましょう」



「ありがとうね、ゴルドくん!」



 もうすっかり当たり前のように、ゴルドくんにもふっと飛び込んでいくシャオマオ。

 そしておねだりするような上目遣いを向ける。



「それで、あの……。なるべく早く、ゼピュロス様とお話がしたいね。できれば、ふたりっきりで」



「わかりました、それなら今ここでどうぞ。私はみなさんのいる部屋に戻って、後片付けの続きをしていますから」



「あ……ありがとうね、ゴルドくん!」



 ゴルドくんは「何かあったら大声を出してくださいね」とだけ言い残して、秘密の通路をあとにした。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ゴルドくんが去ったあと、シャオマオは念のために廊下を確認する。

 誰もいないことを確かめると、壁に寄りかかった勇者に向かって切り出した。



「……あの、ゼピュロス様……ちょっと、お聞きしたいことがあるね」



 勇者は流し目でシャオマオを見つめ、こう返す。



「本来はボーイの言葉など、ゼピュロスにとっては馬の唱える説法のように、右から左なのさ。でも今日だけは特別に、左の耳に栓をしておいてあげるのさ」



 持って回った言いっぷりであったが、そんなことよりもシャオマオは『ボーイ』と言われたことに驚いていた。



「ええっ!? シャオマオが男の子だって、なぜわかったのね!?」



「ボーイは食料と排泄物を区別するときに、口に入れてするのかい? ゼピュロスにとってレディとメンズは、それと同じものなのさ」



 目をまんまるにするシャオマオ。

 その愛らしい顔は、どう見ても女の子そのもの。


 今まで少年は、男の子だと見られたことは一度もなかった。

 そして彼は姉と同じように、見抜いた勇者に大いなる衝撃と、信頼のようなものを感じてしまう。



「す、すごいね! や、やっぱりあなた様は、ゼピュロス様ね! マオマオを女の子だと見抜いたように、シャオマオの性別も見抜いてみせたね! 話というのは、そのマオマオのことなのね!」



 シャオマオは()ききって、勇者に話しはじめる。


 姉のマオマオも、ゼピュロス様に女の子扱いされて嬉しくて、ファンになったこと。

 そしてゼピュリストになるために、故郷のヘンリーハオチーからハールバリー小国に来たこと。


 しかし……何者かの手にかかり、志なかばで倒れてしまったこと。

 弟であるシャオマオは、姉の仇を討つために、このハールバリー小国を訪ねたこと……。


 熱心に話す少年は、姉のことを思い出しているのか、ときおり言葉を詰まらせていた。

 しかし瞳を充血させながらも、なんとか事情を話しきる。


 ゼピュロスは小鳥のさえずりに耳を傾けるように、瞼を閉じて聴いていた。


 そして……。

 心の中で、ほくそ笑んでいた……!



 ――これは……。

 またとないチャンスが転がり込んできたのシャッ!


 この、ブタ以下のドブガキを利用すれば……。

 ゼピュロスはまた、返り咲けるに違いないのシャァァァ……!



 悪徳勇者は壁から離れると、少年の前まで歩いて行く。

 そしてしゃがみこんで、目線を合わせて語りかけた。



「ボーイ。キミはゼピュロス以外のメンズにしては、とても立派なのさ。ゼピュロスはボーイの姉君であるマオマオのことも、もちろん知っているのさ。だからこそ、こうやって助けに来たのさ」



「えっ? シャオマオを、助けにきた……?」



 キョトン、と目を丸くするシャオマオ。

 いま目の前にいる勇者の、スカーフによって隠された口元が、裂けんばかりに歪んでいるとも知らず……!



「あの、ゴルドくんの正体は……とんでもない○○○(ピー)なのさ……!」

次回、意外な真実が明らかに…!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ・・・割とチョロいな少年・・・(汗) ・・・そしてヘタレ勇者よ、今更取り繕ってももう手遅れだぜ?(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ