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149 裁き決行

『審判の結果は……勇者の支持、701名! 野良犬の支持、329名!』



 再審により、野良犬側はさらに100以上、増加……!

 勇者の涙の訴えも、実らなかった……!


 しかし被害はかなり軽微であるといえた。

 野良犬支持を決めたファンは、実際にはもっと多かったのだが、行動に移せたのがその100名程度だけだったのだ。


 あとはディープなファンに阻まれた者、この期に及んでもハーレム入りに望みを託してしまった者……様々であった。


 いずれにせよゼピュロスは、裁きを避けることはできずに終わる。

 しかもお仕置きを軽減させるどころか、より重篤なほうへと、追いやられてしまったのだ……!



『それでは両者に、支持者の数に応じた裁きを下すとしよう……! まずは、勇者からだぁ!』



 一切の憐憫を感じさせない声が、裁きの間に鳴りわたる。

 同時に、



 ……ズゥン……!



 巨人が大地を踏みしめているかのような、重苦しい振動が起こった。



「キャアッ!?」



 悲鳴とともに後ずさる、複数の足音。


 ゼピュロスは裁きが始まったことに気付いていなかった。

 300名近いファン離れにショックを受け、いじける子供のように壁に張り付き、泣きじゃくっていたからだ。



「うっ……ぐうっ……! ぐすっ……! なぜ、なぜなのさ、なぜなのさぁぁぁ~! ゼピュロスは、生まれてからただの一度も、お願いしたことなどなかったのに……! その必要すらなかったのに……! メスブタどもを動かすのは、花を摘むよりも簡単なことだったのに……! 初めての、初めてのお願いだったのに……! なぜ……なぜなぜなぜ、なぜっ!? メスブタはただゼピュロスの言うことに、ブヒブヒと鳴き返していればいいのにさぁ~!!」



 ……ズズゥン……!



 ビリビリと震えるような振動を、背中で感じたゼピュロス。

 しゃくりあげながら、振り返ってみると……。


 動きだした、邪神像が……!

 黒い影がさし、さらに不気味になった見目で、佇んでいたのだ……!



「ひっ!? ひいいいいいいいいいいーーーーーーーっ!?!?」



 ゼピュロスはクローゼットに隠れていたら、殺人鬼に見つかってしまった子供のように顔をぐにゃりと歪める。

 反射的に逃げだそうとしたが、



 ……ズウゥゥゥーーーンッ!!



 邪神像は石で出来ているとは思えないほどの敏捷さで両腕を伸ばし、壁に手をついて行く手を塞いだ。



「いっ!? いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?!?」



 変態に襲われる女の子のような絶叫。


 観客はこれからの惨劇に、誰もが言葉を失っていた。

 が、MCのジャンジャンバリバリだけは、なんとか良いように演出しようと、知恵と声を振り絞る。



『あ……あれは! 邪神像がしているアレは! ゼピュロス様のスケコマシ奥義のひとつ……! 「永遠なる愛の檻エターナル・ラブ・ケージ~ゼピュロスゾーン~」じゃぁーーーんっ!?!? ということは、あの邪神像、ゼピュロス様に心を奪われてしまったということじゃぁーーーんっ!! 神すら虜にするとは、さすがゼピュロス様……』



 ……ガンッ!



 空気の読めない実況を張り飛ばすかのような、鈍い衝撃音がモニターから聞こえてくる。



『あ……愛のささやき……! アレはきっと、愛のささやきじゃんっ!? 邪神像はゼピュロス様に熱烈なラブコールを送っているんじゃぁぁぁーーーーーーんっ!!』



 見当違いは百も承知だった。しかしもう後には引けない。


 法玉は彼らを背中のアングルから捉えていた。

 モニターからは像とゼピュロスが、壁ドンしてイチャイチャするカップルのようにも見えなくもなかったので、全力でそっちに持って行こうとするジャンジャンバリバリ。


 パルヌゴルヌの像には手が四本あり、右手には石の印章、左手には石槌をそれぞれ持っている。

 二本の両腕は壁ドンに使われており、フリーのほうの左手に持っている石槌を、ゼピュロスめがけて振り下ろしていた。



 ……ガンッ! ……ゴンッ! ……ガンッ! ……ゴンッ!



 まさに石で頭蓋を打ち据えるような音が、邪神像の背中ごしから一定のリズムで鳴っている。



「ぐっ!? がふっ!? うぐっ!? ぎゃあ!」



 あわせて、勇者の悲鳴も。

 時折、どす赤い液体がピュッと吹き出してきて、壁や床に飛び散っていた。



『じょ、情熱的! 真っ赤な赤い……エキスが迸るほどの、かつてない情熱的なキッスじゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!!』



 ……ガンッ! ……ゴンッ! ……ガンッ! ……ゴンッ!



「も、もうっ……ぎゃあん!? や、やめっ……ふぎゃあっ!? お、お願い、ひぎいっ!? た、助け、ぎゃあっ!?」



 工場の機械のような規則的な打撃音と、その機械に巻き込まれてしまった工員のような悲鳴が交互に続く。

 いわば女子社員ともいえる仲間たちは、遠巻きに見守るばかりで、誰も助けに入ろうとはしない。


 下手に手を出すと大爆発してしまうし、力で敵いそうな相手でもない。

 いや、それ以上に……もうそんな義理もないと思われていたのだ。



 ガンッ! ゴンッ! ガツ! ゴォンッ!



「げふっ! ごぶっ! ぐふっ! がはあっ!」



 勇者の顔面に刻まれるビートが、少しずつ早くなっていく。

 彼は最後の力を使って、悲鳴以外の言葉を、その口から迸らせた。


 もう、どうにもならない状態なのは、明白である。

 恋人どころか自分が死にかけているような時に、彼は……世界の中心で、なにを叫ぶのか……!?



「……なん、なんでなのしゃぁぁぁぁっ!? なんでなんで、なんでゼピュロスばっかりなのしゃぁぁぁあっ!? あ、あそこにいるメスブタどもも、メスブタどもぉぉぉぉっ! かわりに殴ってほしいのしゃぁっ!! 不死王しゃま! 神しゃま! パルヌゴルヌしゃまぁぁぁ! ゼピュロスを……! ゼピュロスを助けてほしいのしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



 ……それは世界でいちばんみっともない、愛の雄叫びであった。


 勇者は自分だけが助かりたいあまり、臆面もなくファンを売り渡す。

 いままではわざとらしさ全開ではあったものの、あくまで事故という(テイ)は崩さなかった。


 しかし、今回は堂々と犯行表明をしたも同然である。


 しかも、よりにもよって邪神にすがるという、勇者にとって……。

 いや、人間にとってあるまじき行為……!


 勇者、闇落ちっ……!?


 もちろん、そんな格好良いものでもなかった。

 彼は願いが聞き届けられないとわかるなり、



「……せ、せめてせめてせめて! か、顔は、顔はやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! せ、せめて、せめて身体にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! おにぇがい! おにぇぎゃいしましゅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



 新しい祈願を、邪神に捧げはじめる始末……!

 しかしそれすらも、聞き届けられなかった……!



 ガァンッ! ガツッ! グシッ! ゴスッ!



 邪神、なおも執拗に、勇者の顔面めがけて、殴打の雨を降らし続けるっ……!



「はっ、はにゃが! はにゃがもう、なくなって……! めっ、目が、目がぁぁぁぁぁっ!?」



 足元に広がった血だまりが、もがき苦しみバタつかせる足によって、パシャパシャと音をたてる。

 あたり一面はペンキを缶ごとぶちまけたかのように、赤く赤く染まっていた。

次回、さらにちょっとだけ暴力的になります。

抑えめにして書いたつもりではあるのですが、苦手な方は読み飛ばすことをお勧めします。

飛ばしても話はわかるようにしてあります。

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