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139 名人登場

 美しき勇者、ライドボーイ・ゼピュロス。

 『ゼピュロスライヴ』と称し、流麗なる必殺技を披露しようとしていたのだが、途中で心ない投石をくらい、ダウンしてしまった。


 勇者への投石というのは、それだけでもかなりの狼藉である。

 そしてそれどころか、倒れたところにもさらに石を投げつけるという、無礼千万ぶり……!


 その下克上ともいえる所業をしでかしていたのは、顔もわからないうえに、小学生くらいの小さな女の子。

 しかも当人には、革命への強い意志などまるでなさそうであった。


 核の発射ボタンにも等しいソレを、まるで使い方のわからないリモコンを確かめるように、



「青いボタンのほうは、わんちゃんの痛そうな声がしたから、もう押すのはやめとこうっと。こっちの赤いボタンは、押すとどうなるのかなぁ……?」



 無邪気に首を傾げながら、ゼロ思慮連打開始……!



 ドガガガガガガガガガガガガガガガ!



『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』



 ゼピュロスの甘ったるいキザ声が、装置から鳴ったあと、



 シュバババババババババババババババ!



 おびただしい数の石つぶてが、勇者の頭に無遠慮に叩き込まれた。



 ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!!



『ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんっ!? うぎゃああああんっ!?』



 倒れたまま、鞭打たれるようにビクンビクンとのけぞるゼピュロス。


 眼鏡少女のラピッド・ファイアぶりにいちはやく気付いたのは、近くにいた仲間たちであった。



「ちょ、団員3号っ!? なんでアンタ、ソレ持ってんのよっ!?」



「いまの連射は秒間16発はくだらなかったのん。意外な才能発覚のん」



 問い詰められて、びくうっ!? と身体を縮こませる眼鏡っ娘。



「ごっ、ごめんなさぁ~いっ! もっ、もうしませぇぇぇぇ~んっ!!」



「怒ってるんじゃないわよ! ソレをどこで手に入れたのかって聞いてんの!」



「白状しないとゴールデン・ゴリラの握力で、リンゴみたいに握り潰されてしまうのん」



「誰がゴールデン・ゴリラよ!? アンタを握り潰してやりましょうか!?」



「ひぃぃ……!? 私、クーララカさんたちの様子を見に行こうとしただけなんですぅ! でも、道に迷っちゃって……! まわりがよく見えなかったから、マスクを外して探してたら、スタッフの人に止められて、このアリーナからは出ちゃダメだって注意されて……! それでなぜか、この木箱を手渡されちゃったんですぅ……!」



 『不死王の国』に入ろうとした際、大きな鉄壁によって分断されてしまった後続の者たち。


 クーララカをはじめとする護衛たちは、鉄壁を破壊するグループと、別の入口がないか探すグループに分かれて行動していた。

 シャルルンロットたちも別の入口がないか探しまわっていたのだが、アリーナを見て興味が沸き、こっそり忍び込んでいたのだ。


 潜入は、『わんわん騎士団』にとって得意中の得意の任務(オペレーション)である。

 3人の少女たちはアリーナスタッフの目をかいくぐり、まんまと観客席にまぎれることに成功。


 そして最初の野良犬側の支持者となり、シャルルンロットの声量と、ミッドナイトシュガーの知力で野良犬を援護する。


 年長者のはずのグラスパリーンは、特にこれといった貢献もしなかったのだが……。

 ここにきて持ち前のドジっぷりで、勇者サイドの観客席に迷い込み、偶然にも魔導装置をゲット……!


 さらに、隠された意外なる特技で、勇者の見せ場を台無しにしてみせたのだ……!



「でかしたわ! グラスパリーン!」



「このアリーナで、どうやったら迷えるのか摩訶不思議のん。でもよくやったのん、自分自身を好きなだけナデナデしていいのん」



「へっ? 私がいったい何を……? ひゃあああっ!?」



 まだ事態が飲み込めていない顔で、仲間たちにもみくちゃにされるグラスパリーン。


 ゼピュロスはというと、ようやく立ち上がり、不屈の闘志で再び歌い出そうとする。



『♪Oh~! ゼピュロス! ♪この美しき槍は(ガンッ!)……はぐうっ!?』



 しかしまたしても、悪意のない投石によって遮られていた。


 ……剣技(スキル)というのは、発動前に特定の文言を、声に出す必要がある。


 原理としては魔法に近く、魔法を使うのに呪文詠唱が必要なのと同じ理由である。

 そして魔法と同じく、高威力のものになればなるほど、その口上は長くなる。


 ゼピュロスの大剣技、『ハートスラッシュ・ローリングダンサー』の場合は、歌がスキル発動に必要な口上となっているのだ。


 ゴルドウルフが尖兵(ポイントマン)を務めていた勇者は、ゴルドウルフが囮になってくれていたおかげで、モンスターからはほぼノーマーク。

 口上の時間を稼ぐことができ、まるで自分だけの手柄のように、一撃でモンスターを葬り去ることができていた。


 しかし……今のゼピュロスに、あのオッサンはいない。

 するとどだろうか、投石程度のダメージで、口上は中断させられてしまうではないか。


 ちなみに投石は、各陣営のリーダーとされる、ゼピュロスと野良犬だけを狙う仕組みとなっている。


 ゴージャスマートが予定していた仕掛けとしては、野良犬側は本物の石で、勇者側は当たっても痛くない作り物の石にしてあるはずであった。


 しかし、蓋を開けてみれば、



 ……ガンッ!



『ぎゃいんっ!?』



 マジ・ストーンっ!?


 ゼピュロスは転げまわって石から逃れようとするが、石は的確に頭部めがけて飛んでくる。


 しかし、こうなってしまうのには何ら不思議はなかった。

 なにせ、石はボウガンで撃ち出されたような速度で飛び、しかも死角から襲い来る場合もあるのだ。


 常人には、かわすことなど不可能。

 何の苦もなくそれをやってのけていた、あの(●●)着ぐるみが異常なだけ……!



「面白いわねぇ! コレ!」「のんにもやらせるのん」



 奪い合うようにしてボタンを押す、シャルルンロットとミッドナイトシュガー。



『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃん』『ふっ、やめるのさ、子猫ちゃ』『ふっ、やめ』『ふっ、やめ』『やめ』『やめ』『やめ』『やめ』



「グラスパリーンみたいにうまいこと連射できないわねぇ」



「きっと一定のタイミングで押さないと、連続で発射できない作りになってるのん」



「でも、これはこれで面白いわ!」



 無造作にボタンを押してスクラッチさせると、モニターの向こうの悲鳴とシンクロ。



『やっ、やめっ!(ガンガンッ!) やめやめ、やめっ!(ガガガンッ!) ぎゃっぎゃっ(ガンガンッ!)、ぎゃああっ!?(ガガガンッ!)』



 勇者の滑稽なハーモニーに、大喜びのシャルルンロットとミッドナイトシュガー。

 何が楽しいのか理解できず、ぽかーんとしているグラスパリーン。


 子供たちによってたかって石を投げつけられ、勇者はついに縮こまってしまう。

 それはさながら、海辺で亀をいじめているような光景であった。



『う……うううっ! れ、レディたち! なにボーッと突っ立っているのさ!? 早く、早く……! このゼピュロスを治すのさ! このゼピュロスを守るのさ!』



 亀は、いちばん頑丈そうな鎧を着ているとは思えないほど情けない声で叫んだ。

 いままではVIP席でライヴを鑑賞していた女たちは、急に駆り出されて参戦させられる。


 魔導女がマナシールドを張って、聖女が治癒の祈りを捧げた。

 相手はただの石なので、勇者はそれ以上、ファンを幻滅させる姿を晒すことはなくなる。


 これで、すべてが元通りになった。

 マナシールドを張ったまま唄えば、いくら投石されても妨害されることはない。


 かくして再び、ゼピュロスライヴが始まる……!



『♪Oh~! ゼピュロス! ♪この美しき槍は(カンッ!)、すべてを貫くぅ!』



 石をはじき返されて、地団駄を踏むシャルルンロット。

 カメラ目線で、ニヤリと笑い返すゼピュロス。


 しかしその笑顔も、長くは続かなかった。



『シャァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!』



 歌声をかき消すほどの怒りに満ちた、バックダンサーたちの雄叫びが轟く。

 怒髪天を衝くようなそれは、騙されていたことに気付いたかのようであった。


 メンリオンと大蛇は、突如として勇者たちに牙を剥きはじめたのだ……!

ちなみにグラスパリーンは道に迷っていて、ジャンジャンバリバリの魔導装置の説明を聞いていませんでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 地味ながらもナイスアシストだぜ先生!! [一言] オッサンが居なければ、勇者は石ころにすら屈する・・・(笑)
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