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113 キャンペーン合戦

 ゴージャスマートは、新たなるキャンペーンの開催を告知した。

 スラムドッグマートのキャンペーンに、カウンターを喰らわせる形となったそれは、なんと……!



 『ゼピュロス様と行く、不死王の国』キャンペーン

 ご好評につき、キャンペーン第2弾! いま新製品の『キッシング』シリーズの装備をお買い上げになると、1点につき抽選券を1枚差し上げます。


 特賞:ゼピュロス様に付き従える、不死王の国ツアー(30名様)


 1等:ゼピュロス様からのウインク(1,000名様)※1


 2等:ゼピュロス様の手形入り直筆サイン(10,000名様)


 3等:ゼピュロス様のスペシャルライヴ(100,000名様)※2


 残念賞:ゼピュロス男子とのディープキス(1,000,000名様)


 前回のキャンペーンから、当選者数を10倍に増やしました!

 この機会に是非、『キッシング』装備をお買い求めください!


 ※1 ゼピュロス様の判断により、『(まばた)き』になる場合があります。

 ※2 ハールバリー小国『グレープパレス』での開催となります。



 ……完全なる、丸パクリ(リップ・オフ)っ……!



 しかし後出しではあったものの、そのインパクトは超絶であった。


 なにせ規模は10倍。

 そのうえ最近はアイドル活動ばかりだったライドボーイ・ゼピュロスが、『不死王の国』という地下迷宮(ダンジョン)に出かける……!


 『不死王の国』といえば、彼の弟分であるアイドルグループ『ライトボーイズ』が消息を絶った地でもある。

 先輩であるゼピュロスがそこに乗り込むというのは、仇討ちに向かうも同然……!


 話題にならないわけがない……!


 これは、新聞各紙の片隅にあった『オヤジの最果て支店生活』を消し飛ばしてしまうほどのビッグニュースになった。


 そして、アルカトラズのように奪還される……!

 スラムドッグマートの女性客たちが、軒並み……!


 無理もない。

 あの力天(りきてん)級の戦勇者(せんゆうしゃ)である、ライドボーイ・ゼピュロスに従えられて、冒険ができるのだ。


 これは少女たちにとって、千載一遇のハーレム入りチャンス。

 いま風に言うなら、『ハー活』チャンスであろうか。


 彼女たちは米騒動のように、血眼になってゴージャスマートに押しかけた。

 そしてとうとう全財産を投げ打ち、それどころか借金までして、キャンペーン対象商品を爆買いしたのだ。


 スラムドッグマートの売り場は、再び閑古鳥(クックー・バード)に……!


 嗚呼、栄枯盛衰……!

 奢れる者、久しからずや……!


 プリムラをはじめとする店員たちは、みんな真っ青になった。

 彼らはなんとか客を呼び戻そうと、右往左往しはじめる。


 しかしオッサンは、顔色ひとつ変えなかった。

 そして彼らに向かって、こんな指示を出す。



「全店の買い取りカウンターを、一時的に増設します。同時に、中古装備の買い取りもはじめてください」



 スラムドッグマート各店にある買い取りカウンターを、会計カウンターを削ってまで増やした。

 そのうえ、今までは素材のみだった買い取り対象を、中古の装備にまで拡大したのだ。


 オッサンはかつて、ジェノサイドファング扮する骨董商に向かってこう言っていた。



「お客様からの希望もありまして、スラムドッグマートでも中古品の扱いを検討しているところでした。ですが、骨董品の扱いは予定にありません。鑑定が難しいためです」



 今回それを、解禁したというわけだ。

 しかしオッサンが狙っていたのは、歴史の荒波にもまれ、価値を高めていった伝説の武器などではない。


 おそらくは先週くらいに誕生し、昨日くらいに店先に並び……つい今しがた買われていったもの……。


 そう……!

 キャンペーンで無駄に買われてしまった、『ゴージャスマート』の装備を狙っていたのだ……!


 握手券を抜いたCDというのは、二束三文以下……カラスよけにぶら下げるくらいの価値しかない。

 その多くが、燃えないゴミとして破棄される。


 しかし装備品はそんなことはない。

 しかも既製品(プレタポルテ)とはいえ、良い素材を使っているブランド品なら、なおさら……!


 ここに、世にも不思議なループが誕生する。


 女性客たちは朝いちばんからゴージャスマートに並び、バーゲン会場で奪い合うようにして装備を購入。

 そして抽選券を抜き取ったあと、そのままスラムドッグマートへと走る。


 つい数分前に買ったばかりの装備をスラムドッグマートですべて売り払い、その金を握りしめて、ふたたびゴージャスマートへ……!


 その様は、地獄の亡者さながらであった。

 彼女たちは、ゼピュロスという名のお釈迦様が垂らす一本の細い糸を、必死になって求めたのだ。


 まるで自分だけが、人間に生まれ変われればいいと、いわんばかりに……。

 ゴージャスマートとスラムドッグマートという、輪廻の渦を、グルグル、グルグルと……!


 もちろんオッサンにとって、これは本意ではなかった。

 しかし狼としての彼はずっと、したたかだったのだ。


 ライバル店の装備とはいえ、良質の材質……。

 燃えないゴミになるのであれば、自分がもらっていくと……!


 三途の河原にいたのは、装備という名の石を積み上げる女性たち。

 そしてもっと買えとせき立てる、ゼピュロスという名の鬼。


 その様子を眺め、積み上がった頃に、すべてをかすめ取っていくのは……。

 川のほとりにいる、懸衣翁(けんえおう)のオッサン……!


 だがそれすらも、彼の仮の姿でしかないのだ。

 しかして、その正体とは……!?


 そう……!

 川を渡った先におすわす獄天、閻魔大王……!


 しかし鬼たちは、まだ知らない。


 いまリングで、再び追い詰めたと思っていた相手が、閻王だということに……!


 なおもクールな表情で、猛ラッシュを繰り広げるジェノサイドロアー。

 セコンドであるゼピュロスは、勝利を確信したのかもはや試合を見てすらいない。


 詰めかけた女性客の声援に対して、優雅に手を振り返すばかり……。


 しかし……! しかしであるっ……!

 これこそが、オッサンの狙い……!


 挑戦者であるオッサンが、チャンピオンめがけて放った新必殺パンチあたらしいキャンペーン……。

 その正体は、トリプルクロスカウンターという、超高等テクニック。


 『ゼピュロス様とキッス』へのカウンターとして、『マザー&ビッグバン・ラヴと行く、不死王の国』というパンチを放ち……。

 さらに相手が『ゼピュロス様と行く、不死王の国』というダブルクロスカウンターを放ってくるのを、誘ったものだったのだ……!


 そう……!

 これはあの(●●)ゼピュロスを、『不死王の国』へと追いやるための……。


 完全なる、陽動作戦(ダイバージェンス)っ……!!


 しかもそのフィニッシュとなる一撃は、対戦相手であるジェノサイドロアーだけでなく、セコンドのゼピュロスまでもを……!

 マウスピースとともに、天高く舞い上がらせるための、恐るべきアッパーカット……!


 しかも……しかもである。

 その拳を放つのは、オッサンではないのだ……!


 それは誰かというと……。

 なななっ、なんと……!

着々とざまぁの準備が整っております!

そして次回、また一歩…! ご期待ください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴージャスマートのキャンペーン!!!(笑) ・・・なんちゅう地獄絵図・・・(ドン引き) ・・・しかし流石は我らがオッサン!!! こんなときでも慌てず騒がず冷静に・・・それでこそよ!! ・…
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