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109 野良犬のキャンペーン

 ゼピュロスからホーリードール三姉妹へと贈られた、特賞という名のプレミアムラブレター。


 これはさらなる話題づくりのためにゴージャスマートが仕掛けたことだったのだが、あえなく失敗。


 デイクロウラーによって煽動された記者たちは、マザーのファーストキスという特ダネにありつくどころか、へんなチケットの自慢話をさんざん聞かされただけで終わってしまった。


 結局、この一件は記事にはならず、闇から闇へと葬り去られる。


 しかしそれとは対照的に、『ゼピュロス様とキッス!』のキャンペーンは大成功。


 なにせ買えば買うほどゼピュロスとキスできる可能性があがるのだから、女性たちはこぞって装備を買いあさったのだ。


 自分では使わないものでもかまわずに、同じものをいくつもいくつも……。

 特賞はすでに紙ひこうきになって、どこかへ飛んでいってしまったとも知らずに……。


 そしてオッサンは決して、このウェーブには乗らなかった。



「すみません、おじさま、新製品の売り上げが大きく減っております。やはりわたしのデザインが良くなかったのだと思います」



「そんなことはないわ、プリムラちゃん! あっ、そうだゴルちゃん! 巻き返すためにこのお店でも、キャンペーンをやりましょうよ! 『ゴルちゃんとキッス!』キャンペーンを!」



「そ……それは素晴らしいアイデアです、お姉ちゃん! あっ、でもそうなると、おじさまのキ……唇が……」



「大丈夫よ、プリムラちゃん! ママにいい考えがあるわ、ちょっと耳をかして! ごにょごにょ……」



「そ、それは……! でもそんなことをしてしまっては、おじさまが……!」



 気づかうようにチラ見してくるプリムラに、オッサンは言った。



「うちでもキャンペーンは考えていますが、それは多く買っていただくためではありません。むしろ、ひとつのものを長く使っていただく、もしくはより良く使っていただくためのキャンペーンをやります」



 そして打ち出されたのは、『無料修理』キャンペーン。


 買った装備に愛着を持ってもらうため、破損してしまった装備を直すという無料サービスを始めたのだ。


 通常、装備というのは余程のレアものでなければ、修理して使うことはない。


 多少の手入れはするものの、ほとんどの冒険者には修繕できるスキルなどない。

 それに売った店としても新しいのを買ってほしいので、修理を頼まれてもふっかけるのだ。


 ようは世間の消費の流れとは真逆のことを、『スラムドッグマート』は提案した。


 オッサンにとっては武器というのはどんな物であっても、あくまで道具。

 木や棒などと同じ、便利な道具にすぎない。


 いざとなれば、愛用の品であっても平気で捨てていく。

 道具に固執して命を落とすのは、愚の骨頂だと思っているからだ。


 しかしそれは、あくまで取捨選択の話。

 命が掛かっているなどの特別な理由がない限りは、使いなれた道具に固執するほうが確実に生存率はあがる。


 武器や盾などであれば手になじむほうがいいし、鎧などであれば着慣れているほうが動きやすい。

 それらは命こそないものの、人間以上の『相棒』といっていいだろう。


 オッサンはその感覚を、冒険者たちの間に広めようとしたのだ。


 さらにこのキャンペーンは、期間中よりも前に買った製品も対象にした。

 なので、これによって見込める新たな儲けは、ほぼゼロといっていい。


 しかしオッサンは、あえてそうした。

 物を粗末にするようなキャンペーンに対抗し、物を大事にするキャンペーンに打って出る。


 ビッグウェーブに、さらなるジャイアントウェーブをぶつけるのではなく……。

 人々の興味を、静かなる海に導くようにしたのだ。


 これは非常に地味ではあったが、タダだったので多くの人が利用することとなる。


 ゴージャスマートの装備は、自分の身を飾るブランド……。

 もしくは、勇者のキスが目当てで消費され続け……。


 対してスラムドッグマートの装備は、ともに戦う仲間として、大事に扱われる……。


 同じ女性向けをターゲットにしているにも関わらず、両者はデザインだけでなく、さらに大きな違いが生まれるようになったのだ……!


 だが、スラムドッグマートの劣勢を覆せるほどのインパクトはない。


 しかしオッサンはあきらめなかった。

 撒いた種が芽吹くまで、ひたすら土のなかで雷雨が通り過ぎるのを待ち続けたのだ。


 しかしここで、霹靂のなかの晴天……。

 思いもよらぬ助け船がやって来た。


 なんと『大魔導女学園』で、スラムドッグマートの装備が正式採用となったのだ。


 かつて、グラスパリーンから子供たちの剣を発注して以来の教材依頼。

 しかも、かなりの大口……!


 これは、すべてが『ゴージャスマート』一色だった教材界に、大きなインパクトを与えた。


 なにせ動いたのがあの『大魔導女学園』。

 学長の娘であるミグレア・ダーディサッドをはじめとして、多くのカリスマ魔導女を輩出してきた名門女子校である。


 スラムドッグマートには聖女だけでなく、魔導女の御用達となったのだ。


 いちど曇天を突き破った太陽は、そう簡単には引っ込まない。

 話はトントン拍子に進んでいく。


 なんとなんと、『大魔導女学園』に通う、現役女子高生モデルである……。

 大魔導女『バーニング・ラヴ』と『ブリザード・ラヴ』が店にやってきたのだ……!



「へぇーっ! ここがあーしらのガッコの制服売ってる『スラムドッグマート』!? なんか『ゴージャスマート』に比べるとビンボくさくなくなくなくない!?」



「ふーん、チープじゃん」



 彼女たちのユニット名は、ふたりあわせて『ビッグバン・ラヴ』。


 知名度でいえば、ライドボーイ・ゼピュロスと比肩するほどの大人気コンビである……!

煽り虫様から、ソースカンのファンアートを頂きました、ありがとうございます!

第1章の後にある、ファンアート置き場にて掲載させていただきました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 方やとにかく物を売り付ける 『剛』 のキャンペーン 方や買ったものを大事にしてもらう 『柔』 のキャンペーン 柔よく剛を制すか? はたまた剛よく柔を断つか? ・・・そして霹靂のなかの青天…
[一言] ある程度店舗数が増えてきたとはいえ、世界中に展開してる店と張り合うよりも、その店が目をつけない場所をつく方が断然ええよな
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