70 親父、ノックアウト…!?
ジェノサイドファミリーの次鋒にして暴言の雄、ジェノサイドファング。
かつて彼は、オッサンをハメようとした。
その流れで、50億¥もの大金が必要となった。
すでにご存じの通り、それはオッサンにハメられていただけのことだったのだが……。
とにもかくにも彼は金をかき集めるため、『禁断の金』に手を付けたうえに、さらに銀行から借金をする。
その担保として、彼はジェノサイド一家が所有している、ルタンベスタとトルクルムの土地を抵当に入れていた。
親や兄弟たちに、内緒で……!
その後、彼は起訴されて拘留の身となってしまった。
借金は1¥も返せぬまま、土地は競売へ。
もちろん彼はその事実を銀行から知らされていたが、親兄弟たちには秘密にしていた。
そう、これが……これこそが元凶。
今回ジェノサイドファミリーに最悪の大火をもたらした、火種なのだ……!
土地には元々『ゴージャスマート』が建っていたのだが、不祥事続きで廃屋と化していた。
事件は民衆の記憶にも新しく、イメージも悪すぎるということで、買い手が付かなかったのだが……。
あのオッサンが買い上げた。
代金は即金で、次男から名画の代金として受け取った50億¥の一部を切り崩して支払った。
もっと安く買い叩くこともできたのだが、この抵当売買で次男の借金が補填できなければ、銀行の取り立てはジェノサイド一家に向かうことになる。
すると借金の事実が発覚してしまい、一家に後の仕込みがバレてしまう。
そう考えたオッサンは、次男の借金がちょうど完済できる額で買い取った。
しかし、それでもじゅうぶんにお値打ち価格。
オッサンは投資効果の高い、150もの不動産を手に入れることに成功したのだ。
結局のところ……。
ジェノサイドファングは、あのオッサンを敵に回したばかりに……。
金だけではなく、土地まで根こそぎ奪われてしまっていたのだ……!
恐るべき、オッサン……!
恐るべき、狼……!
しかし……しかしであるっ!
狼の追撃は、これだけでは終わらなかった……!
オッサンはさらに、ある作戦を用いる。
大臣を通じてジェノサイド一家に不良在庫を押しつけさせ、彼らの中にいる『賢者』を刺激した。
『これらの在庫はハールバリーでは需要がないが、他の領地では見込めるであろう』という、優秀な商売人ならではの思考に……!
『それにルタンベスタやトルクルムで商売を再開すれば、オヤジを厄介払いできる』という、一挙両得の思考へと……!
そう……!
賢者ジェノサイドロアーを、誘導したのだ……!
かくして皆殺し一家は、他人の土地にある建物を嬉々として修繕しはじめる。
その光景を目にしていた、事情を知らぬ民衆は思った事だろう。
「あんな事をしでかして撤退したクセに、舌の根も乾かぬうちに『ゴージャスマート』を再開するつもりなのか」と。
そして事情を知る、スラムドッグマートや銀行の関係者は不思議に思ったことだろう。
「所有権を失った土地で、彼らは何をやっているんだろう?」と。
まず前提として、次男が借金しているという事実は、当然のようにオヤジは知っているだろうと彼らは思い込んでいる。
なぜならば、次男がこさえていたのは億をこえる借金……。
普通の家族ならば「事前に相談すること」だからだ。
なのにオヤジは、所有権がライバル店に移った土地で、店を再建しようとしている。
誰もが首を捻っていたが、とある誰かさんの一言でストンと腑に落ちた。
「ジェノサイドダディさんは、息子さんたちの罪を償おうとしているのでしょう。商売の不祥事は、商売で返す……。やることが規格外ですが、さすがです。あの精神は、我々も見習わなくてはなりませんね」
……これは、家族間の『情報の伝達』が不足していたばかりに、生まれてしまった悲劇……。
いや、皆殺し一家の特性を知り尽くしていたオッサンが、仕掛けた喜劇……。
そう、そうなのだ……!
次男が50億¥もの大金を集める際、一言でも家族に相談していれば……。
長男のアドバイスで、もしかしたらオッサンの罠に気づけたかもしれないのに……!
次男が黙って借金をせずに、しかも内緒で一家の土地を担保に入れなければ……。
せめて、せめて質流れしてしまった事実だけでも内緒にせずに、家族に伝えていれば……。
さらなる追い銭を払って、敵の砦を強化するようなマネを、せずにすんだというのに……!
ではなぜ、次男は黙っていたのであろうか?
その理由は、単純明快である。
野良犬をハメた手柄を、独り占めしたかったから……!
しかしなぜ、失敗した後でも黙秘を貫いていたのだろうか?
その理由も、至極明快である。
ダディに怒られるのが、嫌だったから……!!
……これは例えるなら、『埋めた地雷の位置を敵だけに知らせる』行為に等しい。
敵は当然のように、何も知らないヤツらをその下に導くことだろう。
安全地帯だと思い込んでいた、マヌケなヤツらは……。
味方の地雷を踏んで、バラバラに吹っ飛ばされる……!
それは、あまりにも皮肉……。
そしてあまりにも、対照的であった
『野良犬軍』の総大将であるオッサンは、出費という出費は、ほぼゼロ。
チョコレート好きの敵側の援軍に、チョコ数枚。
あとは野良犬軍の従軍看護婦に、サービスチケット数枚を渡しただけである。
あとは全部、敵である『獣王軍』の資産と武器……!
それだけで彼らを、木っ端みじんに吹っ飛ばし……!
新たに占領した新天地ですら、獣王軍たちを働かせて、匠もびっくりの劇的アフターに生まれ変わらせていたのだ……!
恐るべき、オッサン……!
恐るべき、金狼……!
そして愚かなりは、『獣王軍』総大将。
オヤジはいまだに、ハメられたことに気づいてはいなかった。
「fgさおいうあsdlfkじゃsdふぉいじゃうぇrtぽいじゃsdfぽ;@ぷyとrtfyぐるじゅばっgfだ殺さおいj-2t-死なすおいvblk;りゃぐわぁぁっぁfぎゅあdsふぉいj-----------っ!!!!!!!」
開店セレモニーで集まった衆人たちの只中で、奇声とともに狂ったように暴れまわるばかり。
記念として建てられていた、『伝説の販売員』の像に頭突きを繰り返して破壊。
交換されようとしていた看板を奪い取り、丸太のようにブン回しはじめる。
「キャァァァァァァァァァァァーーーーーーーッ!!」
セール目当てで買い物に来ていた客たちは、悲鳴とともに逃げ去る。
妨害目当てで訪れていたクレーマーたちですら、その暴風のような暴れっぷりにビビってしまった。
これは特ダネだと取り囲み、真写を撮ろうとする記者たちが、次々と吹っ飛ばされる。
オヤジのする事は見逃せと命令を受けていた衛兵たちも、さすがに止めに入る。
しかし彼らもなぎ払われ、場はさらにパニックに陥った。
「mlk・4350p9-wtjgyふぎゅるくりゃピポツクリャぐらゅlkじゃdsfじゅれsふぉいうありば店ごうfずりゅは何かしら殴る蹴るdsふぉあいjfぎゅいえあrt-098りゅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
もはや狂戦士と化したオヤジを止められる者はいないかと思われた。
しかし店員や来客を避難させていた、灰色のローブ男……フードを深く被った何者かが、彼の背後を幽霊のように通り過ぎていくと……。
突然オヤジはバランスを崩し、たたらを踏むように店のショーウインドウへとよろめいていく。
そして、
……ガッ、シャァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!
ガラス片を爆散させながらの、ダイナミック入店を果たした。
……誰も想像しなかっただろう。
新しくオープンした『スラムドッグマート』……。
その最初の客が、まさかライバル店のお偉いさんになろうとは……。
彼自身、想像していなかっただろう。
暴徒を取り押さえるために呼んでおいた衛兵たちに、まさか自分が取り押さえられるハメになろうとは……。
そしてかつて『スラムドッグマート』で暴れた息子と同じように、身体じゅうを逆ハリネズミにさせられるとは……。
……皮肉というのは、つくづく皮肉なものである。
次話は閑話になります。
オッサンを襲う、イレギュラーな出来事とは!?