69 地雷炸裂
『ゴージャスマート』、ルタンベスタ領とトルクルム領にて同時再開。
この話題をマスコミはこぞって取り上げ、そしてオープン当日も、『伝説の販売員』の復活を一目見ようと多くの人たちが詰めかけた。
かつてない、理想的なスタートとなった『ゴージャスマート』。
聴くものすべてを七転八倒させるようなダディの独唱のあと、開店のテープカットが行われる。
今まさに、多くの客が店内になだれこもうとした、その時……。
「……ありがとうございますっ! ジェノサイドダディ様っ!!」
大勢のエプロン姿の者たちが、人混みを押しのけ現れ、店の入口に壁のように立ち塞がった……!
カラフルな下地に、サムズアップする野良犬……!
ライバル店である『スラムドッグマート』の面々であった……!
「なんだぁ、テメェらっ!? 邪魔しに来やがったのか!? 不意を突いたつもりだろうが、テメーらみたいなのが出てくるのは、こちとらとっくの昔にお見通しよ! グワッハッハッハッハッ!!」
悪の親玉のように、高笑いするジェノサイドダディ。
『ゴージャスマート』はルタンベスタとトルクルムで不祥事を起こしており、民衆からの印象は最悪。
暴徒となった彼らが開店セレモニーの邪魔をしてくることを予測していたダディは、大臣とのコネクションで衛兵を大量配置していたのだ。
「しかしまさか、野良犬どもが引っかかるとはなぁ! おい衛兵、コイツラをしょっぴいて……!」
衛兵をけしかけられ、何がなにやらわからない様子のスラムドッグマートの店員たち。
その中から、ひとりの女性がダディに向かって歩み出た。
「あっ、はんっ。お待ちください、ジェノサイドダディ様。ご無礼をどうか、お許しください。私たちはどうしても、あなた様にお礼を申し上げたかったのです」
濡れ羽根のような黒髪に、黒目がちな瞳。
ぽってりとした唇から漏れるのは、梵天で耳穴をくすぐっているような、男なら誰もがゾクゾクする色っぽい声音。
エプロンに描かれた野良犬の、目玉が飛び出しているように盛り上がった胸。
キュッと引き締まった腰に、とあるお嬢様から『歩く尻』と称された、魅惑のヒップ……。
とある寝ぼけ眼の少女からは『フェロモン公害』と称された、匂い立つ全身……。
そう、佇まいだけで多くの男性を前屈みにし、多くの少年を目覚めさせてきた、彼女は……。
『みんなの未亡人』、ミスミセスであった……!
トロンとした上目遣いですがられ、ダディはドキリとする。
しかしすぐに「そうはいくか」と振り払った。
「なんだぁ、テメェは……!?」
濡れ光るような長いまつげを伏せながら、ミスミセスは答える。
「あんっ、すみません。申し遅れました。私はスラムドッグマートでルタンベスタ領の方面部長をしております、ミスミセスと申します。はふっ、この度は格別のご配慮をくださいまして、誠にありがとうございます」
揃って頭を下げる、野良犬の使徒たち。
「ご配慮、だとぉ!?」
大口をあけて威嚇する野獣。
しかし美女は臆するどころか惚れ直したかのように、うっとりと染めた頬に手を当てた。
「はぁん……競合店である私どもに、こんなにも素敵なプレゼントをくださっているのに……そうやって、ご謙遜されるだなんて……あはぁんっ……」
非常にまぎらわしい仕草であるが、彼女はダディに好意を寄せているわけではない。
ダディを『伝説の販売員』として尊敬していたことはあったが、それは昔の話。
そして色香で男を惑わせようなどとも、これっぽっちも思っていない。
大聖女のソレとはタイプが異なるものの、いずれにせよ男にとってはタチの悪い天然である。
しかし今回ばかりは本当に、彼女はダディを見直しているようだった。
身体をクネクネさせて、加湿器のように色香を振りまく美女から、よくよく話を聞いてみると……。
衝撃の事実が明らかとなる。
この土地はなんと、銀行の抵当に入っていて……。
すでに競売にかけられ、建物込みで『スラムドッグマート』のものになっているという……!
以下は、銀行の融資担当の弁である。
この度はどうも、ジェノサイドダディ様。
御社のジェノサイドファング様への融資で、担保に入っていた土地を当行にて扱わせていただきました。
建物はボロボロだったし、こう言っては失礼なのですが、領内における御社の評判があまり良くなくて、土地の買い手がつかずに困っていたんですよね。
でも『スラムドッグマート』さんが1件以外はぜんぶ買ってくださったおかげで、ご融資させていただいたお金のほうは、全額回収できました。
ですので、これで完済ということになりますので、ご安心ください。
しかし……私はジェノサイドダディ様を見直しました!
ジェノサイドファング様の不始末を、まさか、こんな形で償われるだなんて!
土地の買い手が『スラムドッグマート』さんだったから、こんなに立派なお店を作ってあげたんですよね!
しかも店舗だけでなく、売る商品や店員さんまで付けてあげるだなんて!
しかも、屋号の使用まで許可してあげたうえに、こんなに盛大なセレモニーを催してあげるだなんて!
さすがは『伝説の販売員』様!
受けた義理を、10倍……いや100倍にして返すのが、あなた様のやり方だったんですね……!
まさにあなた様こそ、真の勇者……!
並外れた男気に、同性である私ですら、惚れてしまいそうです……!
あ、でも、『スラムドッグマート』のオーナー様が、おっしゃっておりました。
さすがに勇者様の屋号を使わせていただくのは、恐れ多いと……。
まぁ、それもそうですよね。
一介の個人商店のオーナーが、偉大なる勇者様の看板を掲げて商売するだなんて、許されることではありませんよね。
ですので、看板だけは付け替えさせていただきますね。
あっ、その費用はこちらでサービスさせていただきます。
実を言いますと、ジェノサイドダディ様の男気に、感化されてしまいまして……。
『非情の回収屋』と呼ばれた私が、ガラにもなく心を動かされてしまったのです。
……おや? どうされましたか?
うつむかれて、そんなに震えて……。
感極まって、泣いてしまわれたのですか?
ジェノサイドダディ様? ジェノサイドダディ様?
……ジェノサイドダディ……様?
「ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!! ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!! アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!! ギャルゴギガルヴィアブフハバギュロイグゲジュオガオムジュレオウアギュハバジョロださほいどあいうjがvflkj;p-わえぽあwpそえじあwp@そいじゃ@pそいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいっぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!
オッサンのターンは、まだまだ続きます!