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68 地雷原へ

 オッサンは、かつて『最果て支店』で自分が押しつけられた誤発注の、きっちり10倍の数をゴージャスマートにやり返していた。


 これには『10倍の意趣返し』という意味があったのだが、それよりもさらに重要な、他の3つの意図があった。



 一、『ある者』に向けての、『あるメッセージ』


 二、『ある者』を『ある考え』へと誘導


 三、ふたつめの、『ある考え』への誘導を、『ある者』に悟られないようにするための隠蔽



 オッサンは『ある者』の賢明さを利用し、彼だけに気づく形で『あるメッセージ』を送っていた。

 おそらくそれに気づいたであろう彼は、ある日、父親に向かってこう言った。



「……オヤジ、こうなったら、ルタンベスタとトルクルムでの営業を再開するしかない。賃貸だった店舗はもう無いが、我が家の土地だった店舗はまだ残ってるんだろう?」



「なんだと!? たしかに土地はまだあるが、建物のほうは火事と暴動の騒ぎでボロボロにされて、使いモノにならねぇんだぞ!?」



「残ってる土地だけで営業を再開するんだ。店舗のほうは修繕しよう」



「でも、悪評のほうはどうするんだ!? あの領地のヤツらは、いまだに息子たちを逆恨みしてやがるってのに!」



「大臣への上納金が元通りにならない限り、大臣からの商品の押しつけは続くだろう。そして上納金を元通りにするには、他の領地で商売を再開するしかないんだ。上納金はもともと3つの領地の売上から出ていたんだからな」



 ここで『ある者』は、「ふぅ」と吐息とともに言葉を区切った。

 溜息で一拍おくのは、彼のクセである。



「それに、いま大臣から押しつけられている商品を、このハールバリー領で捌くのは、もう限界……。いや、とうに限界を超えている。他の領地であれば、まだ需要があるはずなんだ」



 豹のようにスマートな彼は、ここで居住まいを正す。

 誰に対しても斜に構えて話す彼が、珍しく正対した姿勢で、大柄な父親を上目で睨み据える。


 これから述べることがいかに本気であるか、彼なりの前置きであった。



「ルタンベスタとトルクルムでの営業を再開してくれ。そしてそのふたつの領地は、オヤジが陣頭指揮を取るんだ」



「なにっ!? 俺が……!?」



「新しい方面部長を起用しているヒマなどないだろう。それに兄弟をふたりも失ってしまった今、俺たちふたり……残った『家族』だけで力をあわせて、この局面を乗り越えるしかないんだ。……頼む、オヤジ」



 彼の理論は、オヤジもぐうの音も出ないほどに、至極真っ当。

 そしていつも氷のような彼からは想像もつかないほど熱く、情熱的であった。


 これには、さすがのオヤジも折れないわけにはいかない。


 ……ジェノサイドロアーは、何者かからの『あるメッセージ』に気づいていた。

 その真偽のほどは彼にはまだ不明だったが、同時に『ある結論』にたどり着くこととなる。


 『オヤジの横暴を止めるためには、このハールバリー領から追い出すしかない』と……!


 ジェノサイドダディはオレ流の恐怖政治で、ロアーの配下の店員たちを支配し、大臣からの在庫を命がけで捌かせていた。

 しかし需要があるものならともかく、全くないものを売るのにも限界がある。


 与えられたノルマをこなすために、店員たちは消耗していく。

 とうとう親類縁者に頼り、自腹を切るまでになってしまった。


 このままでは、みんなオヤジに潰されてしまう……!

 そう考えた彼は、ひと芝居打ったのだ。


 オヤジがルタンベスタとトルクルムにかかりきりになれば、ハールバリーの指揮権は自分に戻り、店員たちを救うことができる。

 大臣から送りつけられてくる商品も、「ハールバリーよりも需要があるから」という理由でそのままオヤジに押しつけることができる。


 そして……何者かから送られてきた『あるメッセージ』の真偽も、同時に確かめることができる……!


 それは完璧な計画であった。

 ゴルドウルフの見えざる手、『内紛によるハールバリー領陥落』を、彼は実の父親を利用して、ヒラリと華麗に回避してみせたのだ。


 オヤジと共倒れにならなければ、ハールバリーにおけるゴージャスマートの優位は揺らぐことはない。

 大臣を利用してスラムドッグマートの営業許可は下りなくしてあるので、このまま悪評を振りまき続ければ、野良犬は田舎に退散するしかなくなる。


 そして、ハールバリー領さえ野良犬の手から守りきれば……。

 勇者上層部は方面部長である彼を、評価することだろう……!


 まさに、まさに彼は……。

 皆殺し一家、随一のキレ者であった……!


 キレ者であった……!


 ……であった……!


 …………あった……!


 ………………った……!


 ……………………た……!


 ………………………………!


 ……勘のいい方なら、そろそろお気づきであろう。

 むしろそれこそが、あの(●●)オッサンの狙いであることに……!


 オッサンは大臣を焚きつけ、かつて自分がやられた誤発注を、10倍にした発注リストを大臣に託した。

 このリストは『あるメッセージ』となっており、それに気づくのは、『ある者』……ジェノサイドロアーだけであることも計算済。



 一、『ある者』に向けての、『あるメッセージ』



 メッセージに気づいた『ある者』……ジェノサイドロアーは、当然のようにその真偽を確かめようとするだろう。

 そして同時に、『ある考え』に至る。



 『オヤジの暴走を止めるためには、このハールバリー領から追い出すしかない』



 それはさも自分で考えた名案のようであったが、彼は気づいていない。

 その考えに至らせることこそが、オッサンの真の狙いであることに……!



 二、『ある者』を『ある考え』へと誘導



 ……人は、ある違和感に気づいた時、その原因を探ろうとする。

 そしてその原因を突き止めたとき、それが確たるものであればあるほど、その違和感に対して、他にも原因がないかどうかを考えることをやめてしまう。


 原因はすでにわかっているのだから、『原因を考える』モードから、『原因を潰す』モードへと意識が変わってしまうのだ。



 三、ふたつめの、『ある考え』への誘導を、『ある者』に悟られないようにするための隠蔽



 もし彼が、いま一度立ち止まり、違和感の原因が他にも無いかを考えていたとしたら、気づいていたかもしれない。


 何者かが自分の掌中にある、『伝説の販売員』という大駒を、ズタボロにするだけではすまさず……。

 爆弾まで持ち出して、バラバラにしようとしていることに。


 そう……!

 皆殺し一家ジェノサイド・ファミリーの敗残兵たちは、いつの間にか地雷原へと追い詰められていたのだ……!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 息子の口車に乗せられたオヤジは、若さを取り戻したかのように張り切った。

 ハールバリーではいまだ健在の『伝説の販売員』のブランドで人手を集め、ルタンベスタとトルクルムの店を再建した。


 それはハールバリー小国の同店においては、前代未聞の一大プロジェクトとなる。

 かなり大きな出費を強いられてしまったが、軌道に乗ればすぐ取り戻すことができる……関係者たちはみな、そう考えていた。


 準備は夜を徹しての急ピッチで進められ、わずか数週間で新生『ゴージャスマート』の誕生にこぎつける。

 そして開店セレモニーは、ライバル店をあざ笑うほどの大規模で行われた。


 なにせいちどきに、150店近い店舗が再オープンするのだ。

 『伝説の販売員』が本格的な再始動を果たすという話題性も相まって、マスコミもこぞって取り上げた。


 そして……ハールバリーの街にある、真新しいゴージャスマートの前で……。

 喜色満面のダディが、テープカットを行った瞬間……。


 地雷は、炸裂したっ……!!

前話において、マザーが営業許可の取り消しを国王に訴えかけようとしていたくだりがありましたが、それについて補足したいと思います。

さらっと書いてあったのと、マザーなら普通にやりそうなので違和感ゼロでしたが、大聖女が国王に直訴するなどありえないことです。

(聖女三姉妹はオッサンにゾッコンですが、世間からはいまだに、オッサンは彼女たちの下働きだと思われています)

なので、次男もその可能性を考慮していませんでした。

(前話の最後のあたりに、ちょっとだけ書き足しをしておきました)


そして今話につきましては、『ある』ばっかりで申し訳ありません。

オッサンが仕組んでいた地雷の内容は、次回明らかになります。

もちろんざまぁに繋がっておりますので、ご期待ください。


そしてもうひとつポイントとなっているのは、

『ジェノサイドロアーが受け取った、オッサンからのメッセージの内容』

となりますが、こちらは大オチに繋がっておりますので、今章の終盤で明らかになる予定です。


地雷の内容と、メッセージの内容…気になる方は予想しながら、このあとの展開をお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 普段は冷静に、斜に構えて、ため息を吐き、ここぞという時に熱さを見せることで同情を買う。 これぞ、ジェノサイド・ロアー流・暴言の秘伝!! ダディといえども魅せられる・・・今、弟子は、師を超え…
[一言] ロアーなら、やられるばかりじゃなく、一矢報いれる
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