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55 ジャストムーン2019 後編

 この世界には、人間たちに祀られる5つの女神たちがいる。


 主神であり、聖女たちの力の源である『ルナリリス』。

 戦いと壮健の女神にして、戦勇者たちが崇拝する『キュルヴァリー』。

 創造と幸運の女神にして、創勇者たちが崇拝する『ティンルマット』。

 豊穣と調和の女神にして、調勇者たちが崇拝する『メルタリオン』。

 導きと知識の女神にして、導勇者たちが崇拝する『レクティルク』。


 ちなみに魔王信奉者(サニタスト)たちは魔物たちの女神を崇めている。


 女神たちは干支のように、その力が特に強くなるとされる年があり、今年は商売の神様である『メルタリオン』である。


 本土決戦に臨む『スラムドッグマート』にとってはまたとない年。

 御利益をいただくために、ゴルドウルフと10人の美少女たちは、メルタリオンが祀られている聖堂へと『初詣(ハツモウデ)』に向かっていた。


 東の国シブカミでは、正月(ジャストムーン)に聖堂に行くのは一般的なのだが、このハールバリー小国ではその習慣はない。


 アントレアの街の聖堂では、大聖女が参拝に来ると事前に連絡を受けていたので、わざわざシブカミ風の礼拝堂を作ってくれていた。


 リインカーネーションは特設された木組みの前に皆を並ばせると、お手本を示す。



「はぁい、じゃあみなさん、一列にならんでねぇ。これからママが、シブカミ風のお参り(オマイリ)のやり方を、教えちゃいまぁ~す。まずはお財布からお金を出して、目の前にある、おっきな箱の中に入れましょ~」



「なんで金払わなきゃいけないのよ? 女神ってそんなに貧乏なの?」



 さっそく食ってかかるお嬢様。

 彼女は相手が大聖女どころか、神でも容赦しない。


 あまりに無礼な物言いに、隣で聞いていた聖堂主は仰天していたが、リインカーネーションは聖母のように微笑み返す。



「うふふ、そういうわけじゃないと思うけど、シブカミでは礼拝のときに神様にお願いごとをするの。メルタリオン様は商売の神様だから、その感謝の気持ちがお金というわけなの」



「うーん。なんか詐欺にあってるような気分だけど、しょうがないわねぇ」



 しぶしぶと『ゴルドくんガマグチ財布』から紙幣を取り出すシャルルンロット。

 他のメンバーもそれに続く。


 一斉に舞った紙吹雪が、『賽銭箱』と書かれた大きな木箱の中に吸い込まれていった。

 その直後、



「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!? 間違って、さっきもらった『デート券』を入れちゃいましたぁぁぁ!?!?」



 青い顔をしたグラスパリーンが、牢屋に閉じ込められたかのように、木組みの格子にへばりついた。



「あらグラスパリーン、ずいぶんと奮発したわねぇ」



「きっと女神も大喜びのん」



 教え子たちから煽られ、大泣きする女教師。



「ひゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーんっ!? そんなぁ!? ゴルドウルフ先生とお出かけするの、楽しみだったのにぃ!? うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーんっ!!」



「まぁまぁ、落ち着いてくださいグラスパリーン先生。券のほうはあとで再発行しますから……」



 見かねたゴルドウルフが先生を助け起こし、ようやくその場はおさまった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 大聖女の参拝講座は続く。



「はぁい、『お賽銭(オサイセン)』を入れたあとは、次はママのやるとおり、マネっこしましょうねぇ」



 まずは二礼。

 ……ばいんっ、ばいんっ。


 そして二拍手。

 ……ぽよんっ、ぽよんっ。



「じゃあ、まずはここまで、みんなでやってみましょ~」



 すると何を思ったのか、女性陣は自分の胸を持ち上げ、二回ほど弾ませた。

 ……ぽいん、ぽいん。


 そして脇を締めて胸を強調させるポーズをとる。

 ……むにゅん、むにゅん。


 ゴルドウルフ以外全員、リインカーネーションの着物の襟からはみ出しそうなデカメロンに目を奪われていたせいで、明らかに間違ったやり方をしてしまう。

 しかし講師は、100点満点の笑みを浮かべると、



「はぁい、よくできまちたぁ~! みんなに花マルあげちゃいまぁ~す!」



 メロンが更にまろび出るのも構わず、頭上で大きなマルを作った。


 「えっ? 本当にいいんですか?」とゴルドウルフ。



「うん、ゴルちゃん。お参りは手順よりも、気持ちがこもっているほうが大切だと思うの。みんなの気持ちがこもってるってママは思ったから、満点でぇす!」



 何よりも『心』を重んじる。

 それは大聖女という立場にありながら童女のように振る舞う、奔放な彼女らしい考え方である。


 ともすれば神への冒涜ともとられかねない、『いたいのいたいのとんでいけ~』などのオリジナルの祈りの言葉にも、彼女の生き様が表れているといえよう。


 オッサンはそれをよく理解していたので、深く頷き返した。



「はい、たしかにその通りですね。では、続きを教えてください」



「はぁい、じゃあ次は、おててのシワとシワをあわせて、目をつぶって……心の中だけで、お願いごとをしましょ~」



 オッサンと少女たちは一斉に、シブカミ風の祈りを捧げる。

 そして、心の中でつぶやいた。



『……ゴルちゃんが、ママのことをママと呼んでくれますように……』


『ゴルドウルフをアタシのパートナーにしなさい、千(エンダー)も入れたんだから、叶えないと承知しないわよ!』


『立派な導勇者(どうゆうしゃ)になるのん』


『ゴルドウルフさんと、もう少し仲良く……。あっ、わ、私ではなくて、娘がそう言っているので……。ゴルドウルフさんだったら、パパにピッタリだって。あの子が男の人を認めるだなんて、初めてのことですので、どうか……』


『今年こそは、カードで全勝! サイコロで全勝!』


『ルクが女神様にお祈りするだなんて、なんかヘーン』


『プルこそ。でもフリだけで、この場の空気に合わせているだけです』


『あの……。厚かましいお願いだというのは、重々承知しております、女神メルタリオン様……。今年こそは、どうか、どうか……。……おじさまと手が、繋げます、ように……』



『……私は、もはや神には祈りません。ですから加護も願いごとも望みません。でももしその分、願いごとが余っているのであれば……ここにいるみなさんの願いを、叶えてあげてください……』



 ゴルドウルフは瞼を開け、横を見やる。

 すると、ずらり並んだ少女たち全員と、視線がぶつかった。


 彼女たちも、オッサンを見ていたのだ。



「……みなさんの願いごとが、叶うといいですね」



 オッサンはそう微笑み返した。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 初詣を終えた一同は、ホーリードール家の屋敷に戻る。

 シブカミ仕様に飾り付けした大食堂で、女性陣の手作りの『オセチ』に舌鼓を打った。



「ああっ、ゴルちゃんいけまちぇん。タイノオカシラには骨があってあぶないでちゅから、ママが食べさせてあげまちゅよぉ。骨をないないして……はい、あーん」



「ごりゅたん、おまめあげゆー! もういっこあげゆー!」



「お、おじさま、お口にあいますか、どうか……。これはカズノコといって、子孫繁栄の食べ物だそうです。おじさまは、赤ちゃんのほうは何人くらい……あ、い、いえっ、なんでもありません!」



「ちょっとぉ、ゴルドウルフ! コレ、アタシが作ったんだから残したら承知しないわよ!」



「それはカマボコをただ切っただけのん。のんはダテマキという卵焼きの上位互換を作ってみたのん」



「そういうアンタのは、ぜんぜん巻けてないじゃないの! どうすれば卵焼きがそんなにピーンってなるのよ!? そんなのダテマキじゃないわ! ただのダテよダテ!」



「ブフォッ!? これ、塩辛いぃ!? す、すみませぇぇぇん! 砂糖と塩、間違えちゃいましたぁ! それなのに、ゴルドウルフ先生……ぜんぶ食べてくださって……! うわぁぁぁぁぁんっ!!」



「あんっ。ではせっかくですから、ゴルドウルフさん、私からも……。はい、あーん。うふふ、こうしてると、新婚さんみたいですね」



「言っておくが、私はしないぞ。……しょうがないなぁ、今日だけだぞ。ほら、口を開けろ」



 などと、ひっきりなしに料理が口に運ばれてくるので、オッサンはおなかいっぱいになってしまった。


 そのせいで、気づくのが遅れてしまう。

 彼女たちがいつも以上に、グイグイ来ている理由に……。



「ふわぁいゴルちゃん、おひとつどーぞ」



「それはお屠蘇(とそ)ですね。いただきます」



 リインカーネーションが漆器の銚子を差し出してきたが、盃がどこにもない。

 しかし彼女は何を思ったのか、匂い立つ肌を押し当ててくると、ほっそりした喉仏めがけて、


 ……どばばばば!


 酒を注いだのだ……!


 まるでシャワーを浴びているかのように、柔肌に玉の滴を残しつつ、量感のある隆起の裂け目に集まる。



「はぁい、めしあがれ。ママのおっぱい入り、特製ミルク酒でちゅよぉ! ママの味をいっぱい、チュッチュちまちょうねぇ~! ……ひっく!」



「まさかマザー、お屠蘇(とそ)を飲んで……」



 しかし問答無用とばかりに、波打つ乳白色がたぷんちゃぷんと顔に迫ってくる。


 オッサンは狂喜……いや狂気の盃から逃れるため、身体を引こうとした。

 が、すかさず耳元に熱いモノを吹きかけられ、動きを止められてしまう。


 その、とろけるような吐息(メルティ・ブレス)は、ミスミセスによるもの……!

 彼女はオッサンを柔らかサンドにするべく、しなだれかかってきていたのだ……!



「はぁぁぁんっ……あふぅぅぅぅんっ……。私、酔っちゃいましたぁ……。んふふふっ、今夜はどうにでもなっちゃいそうです……あっはぁぁぁぁん」



「ミスミセスさんまで……」



 鼻にかかった甘え声が、オッサンの鼓膜をくすぐる。


 彼の顔は逃げ場を失い、またとない窮地に陥っていた。

 が、不意にガッ! と掴まれ、強引に引きずり出される。


 そこには救いの女神である、プリムラが……!


 真面目な彼女は女性陣の暴走が過ぎると、いつも止めに入ってくれて、時にはたしなめてくれる。

 まさに良心ともいえる存在なのだが、今はどこか様相が違っていた。


 顔はオーバーヒートしたように赤く、目も据わりきっている。

 その怖いもの知らずの様相が、おでこと鼻先がくっつくくらいに、ずいと近づいてきたかと思うと、



「おいさま! いいかげん答えてくらはい! 赤ちゃんは何十人欲しいんれすか!? わらしはサッカーチームが作れるくらい欲しいれふ! おいさまは監督れ、わらしはマネーニャーれ……! みんなのユニフォームを手洗いしらり、山盛りのごはんを作ったりしらいんれす!」



 覚えのない不甲斐なさを一方的にまくしたてられ、オッサンは戦慄した。



「まさか、プリムラさんまで……!」



 場はもはや、しっちゃかめっちゃか……!



「ちょっとぉ! シャルルンロットさんっ! あなたなんでそんなに立派なんですかぁ!? 勉強も剣術も、わらしよりずっと上で……! わらしが教えることなんて、もう何もないんですよぉ!? わかってるんですか、そこのところぉ!?」



「うっ……ううっ! ぐすっ! ごめんなさい、ごめんなさい、グラスパリーン先生……! わたしもっと、いい子になります……! なりますから、怒らないでぇ……! くすんくすん……!」



 シャルルンロットの頬をつまんで引っ張り、餅のようにムニムニと伸ばしているグラスパリーン。

 いつもとは真逆の光景である。



「おらーっ! 矢でも鉄砲でも、持ってこぉーいっ!」



 ひとり大暴れしているクーララカ。



「……」「……」



 ミッドナイトシュガーとパインパックだけは、なぜか静かだった。

 なにか通じるものでもあるのか、向かい合ったまま無言で、差しつ差されつしている。



「……ちょっと、みなさんの酔いを、さましてあげてください……」



 オッサンはもみくちゃにされながらも、なんとか女体の森から手を伸ばし、最後の頼みの綱に助けを求めたが、



「いま食べてるからあとでー」



「この樽を飲み終えるまでお待ちください」



 天使と悪魔は、悪食(グラトニー)酒神(バッカス)と化している有様だった。

2019年も、『駄犬⇒金狼』をよろしくお願いします!


そして新連載、開始しました!


『胆石が賢者の石になったオッサン、少年に戻って賢者学園に入学して、等価交換も寿命も無視した気ままな学園生活!』


勇者が賢者になっただけのような…そしてのっけからマザーみたいな女神様が出てきておりますが…。

本作を面白いと思っていただけている方なら、こちらも楽しんでいただけると思いますので、ぜひ見てみてください!

この後書きの下のほうに、小説へのリンクがあります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] みんなオッサンが大好きなんやな~・・・(喜) ・・・だからと言ってこんな暴走は止めようね?(汗) 特にプリムラさん、アナタまで暴走したら誰が止めるのよ・・・(汗) ・・・やっぱり野良犬ガ…
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