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53 次男、ノックアウト…!?!?

 皆殺し一家ジェノサイドファミリーは敗訴した。

 真写(しんしゃ)にマスクという決定的な証拠を突きつけられ、積み重ねてきた金剛(ダイヤモンド)の真実が、石ころのような嘘だとバレてしまったからだ。


 陪審員の印象は一気に逆転、なまじ感情移入していたものだから、その反動はすさまじかった。



「あんなに平気な顔をして嘘をつき、相手を責め立てることができる人間がいるだなんて……信じられない!」



「いくら息子を守るためだからといって……同じ父親として軽蔑する!」



「口ではあんなことを言っておきながら、腹の底では我々のことをあざ笑っていたに違いありません!」



 陪審員たちは一致団結したかのように、原告を批難する。

 7つの海は『暴言王』に対して嵐のように牙を剥き、親子の乗る船を沈没させてしまったのだ……!


 しかし親父はあきらめなかった。

 バラバラになった甲板にしがみつきながらも、なおも息子の無罪を訴え続けた。


 それを証明するのは簡単なことである。

 ジェノサイドファングの血液を採取し、マスクに残っている血痕と照合すれば良いのだから。


 だが……その最も手っ取り早く、白黒ハッキリする方法に対して親父は、不良品の枕のように猛反発した。



「血を採るだなんて、とんでもねぇ! 勇者が血を流すのは、正義のためだけ……! そんなくだらねぇことのために、勇者の血をくれてやったんじゃ、勇者の始祖であるゴッドスマイル様に申し訳がたたねぇ!」



 勇者の権利問題にすりかえて、断固たる拒否を貫こうとした。


 理由は言うまでもないだろう。


 絶対なる『善の象徴』である勇者は、本来は悪事の疑惑すら持たれてはいけない。

 それなのに憲兵局に血液検査をされてしまうなど、絶対にありえないことだったからだ。


 天使に例えるなら、頭に乗せている輪っかを蛍光灯と疑われるも同然。

 血涙モノの耐え難き屈辱である。


 逆にそれで、身の潔白が証明できるのであればまだいい。

 天使を疑った罰として、神様(ゴッドスマイル)から裁きの雷が下されるのだから。


 ジェノサイドダディ自身、それは不可能であることは重々承知している。

 だからこそ、血液検査など認めるわけにはいかなかった。


 勇者が疑惑(ダウト)有罪(ギルティ)など、前代未聞の不祥事……!

 もはや息子どころではなく、一家の存続問題にまで発展してしまうからだ……!


 しかしこれは(はた)から見れば、自分を真っ黒だと喧伝しているのも等しい。

 血液検査を拒めば拒むほど、彼らの信頼は害虫の脂ぎった羽根のように、醜く光り輝く……!


 新聞社は自分たちの報道が正しかったとばかりに、紙面で連日ジェノサイドダディへのバッシングを繰り広げた。



『ジェノサイドダディ様、勇者の血筋を理由に、息子の血液検査を拒否!』



『勇者の血は尊く、それ以外の血はゴミ!? ジェノサイドダディ様の失言!』



『ジェノサイドダディ、親バカここに極まれり!』



 ついには呼び捨てにしはじめる新聞社も現れる。

 もちろんそれは、トルクルム領内の庶民たちにも広まり……。


 当然のようにその矛先は、『ゴージャスマート』へと向けられるっ……!


 例の『正義のクレーマー軍団』は勢いを増し、さらなる過激な行動に出る。

 もはや深夜に投石を行うだけでなく、白昼堂々押し入り、米騒動のように品物を持ち出し、店内を破壊する……!


 街の広場では、盗み出した商品を山と積み上げ、火を放つパフォーマンスが繰り広げられた。


 これには『伝説の販売員』への忠誠心で店に残っていた店員たちも、さすがに逃げ出す。

 ゴージャスマートはかつてのルタンベスタ領での絶滅をなぞるように、同じ運命を辿っていったのだ……!


 またしても全店舗、閉店ガラガラ……!

 対する『スラムドッグマート』のシェア、99%に到達……!


 ……ジェノサイドダディの失敗は、息子に罪の意識というものを持たせなかったことにある。

 何をしても悪くないと思い込ませ、誰かになすりつけることを当然としてきた……。


 決して頭を下げず、アイツが悪いんだと叫び続ければ、自分は汚れることはない……。

 それこそが潔癖なる人間を作る唯一の方法だと、信じて疑わなかったのだ。


 『暴言の秘伝』を駆使し、偽りの高潔さを保てている間は、それでもよかった。

 何十年にもわたって築き上げてきた皆殺し(ジェノサイド)帝国は盤石で、不落であると思われた。


 しかし……たったひとりのオッサンの手によって、それは瓦解しつつある。

 しかも……恐ろしいことに、あの(●●)オッサンがしでかしているとは、誰も思っていない。


 ……だからこそ、今もジェノサイドダディは叫び続けている。


 本当の敵が誰なのかもわからずに、のべつまくなしに……。

 己が誇っていた声と信頼が、枯れつつあるのも知らず……。


 庶民の同情を得ようと、彼は冷たい風と視線に晒されながら今日も、トルクルムのどこかの街角で訴え続けているのだ。


 憲兵局に起訴された息子は、次の裁判では逆に被告になる。

 そうなると助けてやれないので、マスコミ以外の世論を味方につける必要がある。


 街ゆく民衆の誰かが陪審員になる可能性があるので、今のうちに丸め込んでおけば、まだ望みはある……。

 そう、思い込んでいたのだ……。



「みんな! 聞いてくれ! 息子は悪くない! 絶対に悪くないんだっ! だからこそ憲兵局は瀕死の息子に血液検査を持ちかけている! 血液検査に見せかけて、息子を事故死させ、口封じをしようとしているんだっ!」



 ジェノサイドダディは、得意の『論点のすり替え』で被害者になりかわり、事情を深く知らない街の人々の気を引こうとしていた。


 しかし……通じるはずもない。

 もはやこのトルクルム領内では悪評が広まりすぎていて、得意の暴言であっても誰の心も動かすことができなくなっていたのだ。



 ……ガツンッ!!

 どこからともなく飛んできた石が額に当たり、血が流れ出す。



「おい見ろよ! 勇者サマの血も赤いんだな! てっきり金色なのかと思ってたぜ!」



 続けざまのヤジに、聴衆が嘲笑する。



「ぐっ……ぐぐっ! くっそぉぉぉぉぉぉ~!! ゆ、勇者に怪我をさせるのは極刑だぞ!! わかっているのか!? わ……わかったぞ、これもきっと憲兵局のヤツだろう!? みんな見たか!? 善なる象徴である勇者に向かって、ドサクサまぎれに石を投げつける……! これが憲兵局の汚いやり口なんだ!!」



 何もかも憲兵局に結びつけ、反撃の糸口を掴もうと親父は躍起になっていた。



「おいおい、そのうち太陽が沈むのも憲兵局のせいだって言うんじゃねぇか!?」



「だよなぁ、だったらいっそのこと、お前の息子が大馬鹿なのも、憲兵局のせいにしちまえよ!」



「そりゃいい! ギャハハハハハハハハハ!!」「あっはっはっはっはっはっ!!」「きゃーっはっはっはっはっはっ!!」



 ジェノサイドダディがピエロのように笑われていた、その頃。

 ジェノサイドファングはどうしていたかというと……。



「お、お願いです! お願いです憲兵様! 俺は……俺は悪くないんですっ! ぜんぶ親父に……親父に言われてやったことなんです! 本当なんです! 信じてください!」



 ミイラのように包帯でグルグル巻きになった身体でベットから這いだし、担当憲兵の靴をベロベロと舐めていた。


 息子は絶賛、親父を売り渡していたのだ……!

 またしても親の心、子知らず……!



「みんなぁ……! 頼む! 頼むから目を醒ましてくれ! お前らは憲兵局に騙されているんだ! 俺のことは信じなくていい……だが、息子のことだけは、信じてやってくれぇ!」



 必死にかばうオヤジ、それとシンクロするかのように、



「俺は、親父に騙されてたんです! 言うとおりにすれば、副部長にしてやるって! そうやって、そそのかされ続けていたんですっ!」



 次男は、かばうオヤジの背中を蹴りまくる……!



「息子は、本当に素直でやさしい子なんだ! 俺は好きなだけ笑うがいい! 好きなだけ石を投げるがいい! だから……だから頼む! 息子だけは、信じてやってほしいんだ……!」




「親父は、本当に邪悪で恐ろしいヤツなんだ! 俺はそんな親父に育てられた、被害者なです! だから……だから頼む! 俺だけは、俺だけは信じてくださいっ……!」



「ああっ、お前らはなんもわかっちゃいねぇ……! いいか、よく聞けっ! 新聞屋と憲兵局の横暴を、このまま野放しにしてていいのか!? 明日は我が身なんだぞっ!?」



「ああっ、憲兵さま! よくお聞きくださいっ! 親父は衛兵局の大臣と裏で繋がっていて、お互い、いろいろと便宜を図りあっているんです! 親父は言ってました! その衛兵大臣が出世したら、次は憲兵局も支配できるって……! だから、明日は我が身なんですよっ!?」



「だからここでヤツらを止めないと、息子のような被害者が増え続けることになるんだ! みんなの息子もヤバいことになるぞっ! だから……だからお願いだ! 息子のために……! 息子のために、力を貸してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



 親父が地面に向かって五体投地をすると同時に、



「だから俺を捕まえるより、一刻も早く親父を捕まえないとヤバいことになるんですっ! 親父のことならなんでも話しますから! だから、だから……! 俺は起訴しないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



 次男は憲兵に向かって、司法取引を持ちかける……!


 彼はすでに、気づいていた。

 勇者の上層部では、すでに極刑が下されているであろうことを。


 そして思い込んでいた。

 親父が起こした裁判に負けなければ、まだ挽回のチャンスはあったはずだと。


 だからこそ、親父を売ったのだ。

 司法取引によって親父の罪を明るみに出せば、勇者のブランドに泥を塗ったのは自分ではなく、親父にすり変えられるということを……。


 そうすれば、自分は再び方面部長に返り咲くことができる……。

 そう目論んでいたのだ。


 その地位があれば、また逆転できる……。

 あの野良犬にも、また復讐(リベンジ)ができる……。


 骨董武器と50億(エンダー)を取り戻し、それ以上の巨額詐欺にハメることができると信じていたのだ。


 しかし彼はまだ、知らない。


 彼のトドメとなった、あの裁判……。

 野良犬の姿形すらなかった、あの裁判……。


 それですら、あの(●●)オッサンの、掌中であったことを……!


 ゴルドウルフ、調勇者(ちょうゆうしゃ)ジェノサイドファング・ゴージャスティスを……!


 誰からも気づかれることなく、影縫(キャッチ)(・アンド・)成敗(イレース)……!


--------------------


御神(ごしん)級(会長)

 ゴッドスマイル


準神(じゅんしん)級(社長)

 ディン・ディン・ディンギル

 ブタフトッタ

 ノーワンリヴズ・フォーエバー

 マリーブラッドHQ(ハーレークイーン)


熾天(してん)級(副社長)

 キティーガイサー


智天(ちてん)級(大国本部長)

座天(ざてん)級(大国副部長)

主天(しゅてん)級(小国部長)

 ジェノサイドダディ(失点21)


力天(りきてん)級(小国副部長)

能天(のうてん)級(方面部長)

 ゴルドウルフ

 ジェノサイドロアー


権天(けんてん)級(支部長)


大天(だいてん)級(店長)

小天(しょうてん)級(役職なし)


堕天(だてん)

 ↓降格:ジェノサイドファング

 ジェノサイドナックル


 ミッドナイトシャッフラー、ダイヤモンドリッチネル、クリムゾンティーガー

 ライドボーイ・ランス、ジャベリン、スピア、オクスタン


 名もなき戦勇者(せんゆうしゃ) 118名

 名もなき創勇者(そうゆうしゃ) 55名

 名もなき調勇者(ちょうゆうしゃ) 103名

 名もなき導勇者(どうゆうしゃ) 152名


--------------------


 『皆殺し(ジェノサイド)家族(ファミリー)』との4連戦。

 その次鋒である次男は思いのほかタフであったが、彼とそのセコンドは終始、見えない敵と戦い続けていた。


 結果、スタミナ切れでスリップダウンのまま動けなくなるという、失笑モノの敗北を喫する。


 しかも対戦相手はとっくに控え室に帰っていったというのに、観客に笑われているとも知らず、今もなおリングでひとり拳闘を続けている。


 彼らの悲喜劇っぷりは、これからも続報でお伝えするとして……。

 ついに戦いの場は、最終ステージである王都ハールバリー領へ。


 智略の方面部長、長男ジェノサイドロアーとの一騎打ちへと、突入するっ……!

第3章の『ジェノサイドファング編』はこれにて終了となります。


特にざまぁが消化不良の感がありますが、今回はこのあとの『ジェノサイドロアー編』で、ざまぁが続く感じにしたいと思っております。

理由としては、読者様から「ざまぁがあっさりしている」というご意見をいただのと、私自身、これだけやっておいて1話で終わらせるのはなぁ、と思ったためです。


ですので、もうちょっとざまぁを長尺にするため、今回試験的にやってみることにしました。

今後は長男との戦いが繰り広げられつつ、ときおり次男(親父)のざまぁが挟まる…という展開になる予定です。

埋まったまま残っている、いくつかの爆弾が…これから次々と爆発していきますので、ご期待ください!


でもその前に数日お休みをいただいたあと、サイドストーリーを挟み、それから『ジェノサイドロアー編』に入りたいと思います。


ちょうどいい区切りですので、感想や評価をいただけると嬉しいです!

それが弾みとなって、さらにパワーアップした新展開をお届けできると思います!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 七つの海こと陪審員の方々! よくぞ暴言海賊団を沈めてくれた!! マスコミもやるねえ!! 報道をこうやって、ドン! ドン! ドン! ・・・という三拍子で表現するのは個人的に好きです♪ もし…
[良い点] 作者様は今回のザマァがあっさりしていたとおっしゃりますが、私としてはちょうどいいくらいかと思いました。 大きなザマァが続き過ぎると、その大きさに慣れてしまい後に続くザマァの感動(スッキリ感…
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