08 ひさびさの昇進
ゴルドウルフは憲兵局の役人に目を付けられてしまったが、これは勇者たちと戦う上では避けては通れない道だろうと、彼はすでに覚悟を決めていた。
憲兵ガンハウンドは、これまで起こった勇者たちの変死、および行方不明を一連の出来事だと関連づけ、それを『魔王信奉者』の仕業だろうと睨んでいたのだ。
『魔王信奉者』……魔王を神と崇め、モンスターに加担する人間のことを指す。
彼らは「世界はすべて魔物たちのものである」と主張し、人間に仇なす破壊活動を行う。
ようはテロリストのような人種である。
この世界では絶対善として君臨する『勇者』は、人間以上の扱いを受けている。
そんな彼らに密かに牙を剥くゴルドウルフは、人類全体の害悪……最凶テロリストだと目されてもおかしくはないだろう。
しかし……それらの間に決定的な違いがあることは、まだ誰も知らない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ゴルドウルフはガンハウンドが店に訪れた次の日から、本格的に『スラムドッグマート』の地域拡大に着手した。
まず手始めは、ルタンベスタ領のみにターゲットを絞る。
アントレアの街からスタートし、隣接した街や村から順次、『スラムドッグマート』の新店舗を開店したのだ。
それは売上の見込めそうな地域からではなく、あくまで道路を整備するように、レールを敷設していくように……本陣を中心に、陣を広げていくような店舗展開を心がけた。
これには、ふたつの理由があった。
まず、ルタンベスタ領に絞ったのは、『小学生対抗剣術大会 ルタンベスタ代表選抜』で獲得した知名度があったため。
並み居る勇者学校を打倒し、下級職小学校の子供たちが優勝をかざったあの出来事は、領内の人々の間で今なお語り草となっている。
彼の地で快哉を叫んだ人々にとって、『スラムドッグマート』はもはや知らぬ店ではない。
近所にオープンすれば、真っ先に贔屓にしてくれることだろう。
そのプラスイメージを狙ったうえでの出店計画であった。
そしてアントレアの街を中心に展開していったのは、いくつかの効率化のためである。
店舗どうしがひとつの地域に集中していれば、店で扱う品物の配送時間が短縮でき、しかも在庫切れの場合は店舗間での融通も容易になる。
さらに、オーナーであるゴルドウルフ自身の巡回効率もアップする。
展開の最初期には各店舗をまわり、細やかな指示を出す必要があるのだが、その移動にかかる時間を短縮できるのだ。
これらの手法は『ドミナント戦略』といって、優勢な地域から攻め、支配を強めていく手法である。
ゴルドウルフにとって、このルタンベスタ領は庭のようなものだったので、街や村などの立地は把握できている。
どこに出店すれば効果的かという情報も、長年の店員経験で培われていた。
彼は会議室の机いっぱいにアントレア全域の地図を広げ、神の一手を打つように赤いピンを突き刺し、部下に出店を指示する。
そして同時に、それぞれの街の責任者である支部長の育成を行った。
まずは、最初に店長としてスカウトしたクーララカと、『ゴージャスマート』時代でも頼りにしていたウォントレアという店長を支部長に格上げ。
彼らに『スラムドッグ』イズムを伝授したあと、アントレアの街にある本部で、店長候補たちを教育させた。
具体的には、徹底したマニュアル主義。
ゴルドウルフはサービスの質を均一化するため、どんな些細なことでもマニュアルにまとめ、それを厳守させたのだ。
マニュアルは小辞典のようなコンパクトな厚さを持ち、『通常版』と『緊急版』のふたつに分けられていた。
そしてそれらを、全店員のエプロンのポケットに標準装備する。
『通常版』には、開店から閉店までの業務が事細かに書かれ、業務に不慣れな店員でも書いてあるとおりにすれば、ひとりでも勤務がこなせる。
『緊急版』には、災害時の処置や、クレームの対応方法などが多岐にわたってまとめられていた。
客と店員の安全を第一に考えられた、完璧な虎の巻……。
あとはそれを『厳守する』という心構えを教え込めば……。
野良犬の店を、遺伝子レベルで受け継いだパピーたちが、ドッグランに放たれたように世界にはばたく……!
ゴルドウルフの出店戦略は、面白いほどに功を奏ではじめる。
人々はむしろ『スラムドッグマート』を待ち望んでいたのだ。
どの街でも、舶来のおしゃれカフェが上陸したかのように、「ついにあのワンちゃんが来てくれた!」と大歓迎を受けた。
そうやって受け入れられた店舗たちは、アントレアの街にある1号店を心臓とし、毛細血管のように繋がる。
連携効果により、ルタンベスタ領での存在感がさらに高まり……!
領内でのシェアを、一気に20%にまで増大させたのだ……!
最初の勢力拡大を大成功させたオッサンは、久々の昇格を果たす……!
ついに、方面部長クラスに……!!
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
ディン・ディン・ディンギル
ブタフトッタ
ノーワンリヴズ・フォーエバー
マリーブラッドHQ
●熾天級(副社長)
キティーガイサー
●智天級(大国本部長)
●座天級(大国副部長)
●主天級(小国部長)
ジェノサイドダディ
●力天級(小国副部長)
●能天級(方面部長)
↑昇格:ゴルドウルフ
ジェノサイドロアー
ジェノサイドファング
ジェノサイドナックル
●権天級(支部長)
●大天級(店長)
●小天級(役職なし)
○堕天
ミッドナイトシャッフラー、ダイヤモンドリッチネル、クリムゾンティーガー
ライドボーイ・ランス、ジャベリン、スピア、オクスタン
名もなき戦勇者 100名
名もなき創勇者 52名
名もなき調勇者 101名
名もなき導勇者 145名
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ジェノサイド兄弟と同格となり、親父への王手に、また一歩近づいたのだ……!
次回はおまちかね、勇者ざまぁです。
といっても軽めなのですが、前菜としてお楽しみいただけると嬉しいです。