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05 集結、皆殺し家族

 ジェノサイドダディの駄犬追放は、成功とは言い難かった。

 しかしながら彼はある功績を認められ、ハールバリー小国の『ゴージャスマート』を束ねる小国部長にまで出世していた。


--------------------

主天(しゅてん)級(小国部長)

 ↑昇格:ジェノサイドダディ


力天(りきてん)級(小国副部長)

能天(のうてん)級(方面部長)

権天(けんてん)級(支部長)


--------------------


 3ランクアップを果たした彼に、もはや怖いものなどない。

 今やこの国の『ゴージャスマート』は、すべて思いのままである。


 さらには、ついこの間まで方面部長を務めていた若者が失墜したので、ようやく三男をアントレアの方面部長に据えることができたのだ。


 彼は機嫌の良い時は、猫のように喉を鳴らす。



 ……グルルルル……!

 ずっと俺の下にいた店長、ダイヤモンドリッチネルとかいう若造が『捨て犬』に成功したときは、ヤバいかと思ったが……!


 ヤツが方面部長になった途端、勝手に自滅していきやがった……!

 おかげでこの国の方面部長3人を、ぜんぶ俺の息子で固めることができた……!


 これでもう、俺を脅かす者はいねぇ……!

 あとは、いまだ空席のポストである『小国副部長』をどうするかだ……!



 ジェノサイドダディは今や事務机でなく、黒光りする豪華な書斎机の前にふんぞり返って考えていた。


 彼の直属となる、小国副部長は今のところ不在。

 役職をひとつ飛び越えて、方面部長として息子たちがいる。


 小国副部長の選出は、彼の政権をさらに揺るぎなくするために必要不可欠。


 そのための名案を思いついたダディは、方面部長たちを緊急招集した。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ハールバリー小国の城下町にある、『ゴージャスマート ハールバリー小国本部』。


 いわばこの国における、ゴージャスマートの大本営である。

 その一室にある大会議室の中で、4人の男たちが顔を突き合わせていた。



「よぉく聞け、我が息子たちよ! 俺は、俺の実力だけで、裸一貫でここまでのしあがってきた! そしてこの国のトップとなったわけだが、まだまだだ! まだ、上を目指す! そのためには有能な右腕が必要なんだ! わかるか、ゴルアァァ!?」



 議長席から立ち上がり、金槌のような拳を振り回し、熱弁するジェノサイドダディ。


 彼はたてがみのような髪とヒゲ、いかつい鷲鼻と大口で、さながら百獣の王のような、人並み外れた魁偉(かいい)の持ち主である。


 並の人間なら一視されるだけで射すくめられ、咆哮のような怒声で間違いなく縮み上がる。


 『パワー系パワハラ上司』という重ね言葉すら違和感のない、恐るべき男……!

 いや、(オス)であった……!


 この方面部長会議には初参加であり、兄弟の末っ子であるジェノサイドナックルが父親のマネをしながら同意する。



「みぎうで、だいじだ! みぎうでがなかったら、ちゃわんが持てねぇど!」



 スキンヘッドに膨れた赤ら顔。ボーリング球を乗せた雪だるまのような体型。

 アンバランスなほどに太い腕には、これが凶器であることを示すような、物騒なタトゥーが入っている。


 外見そして発言、どちらも商売人には程遠い……!


 父親から腕っぷしだけが遺伝したような男……!

 いや、彼もただのオスであった……!


 長テーブルの上に足を投げ出していた次男のジェノサイドファングが、うんざりした様子で三男の言葉を訂正する。



「右腕ってそういう意味じゃねーよ、この肉ダルマが! それにオメーは右利きだろうが! いい加減マジで幼稚園からやり直せや! ゴルァ! いや、もう死ねや! 午前と午後、二回に分けて死ねや、ゴルァァァッ!!」



 父親と同じ無造作ヘアーだが、ヒゲは生えていない。

 挑戦的に釣り上がった目つきに、裂けたようなタトゥーが入った大口。


 地声のでかさと、語彙の豊富さだけを父親から受け継いだような、舌先三十寸の男。

 いや、人間とオスの中間にいるような、言葉で相手に食らいつく半獣であった。


 いがみあう次男と三男には目もくれず、静かに息を漏らしたのは……彼らのリーダー的存在、ジェノサイドロアー。



「ふぅ。オヤジ、持って回った言い方はよしてほしい。俺たち兄弟の誰かを、オヤジの直属である副部長にするつもりなのだろう?」



 キッチリと七三に分けられた髪型、主張しすぎない顔のパーツにスッキリと通った鼻筋。

 スリムな体系に、パリッとした貴族のジャケットとスラックス……。


 父親とは似ても似つかない、完全なる人類……今は亡き母親似の彼こそが、長男であるジェノサイドロアーであった。


 野獣だらけのこの空間で、彼がもっとも人間らしい……というか唯一、ビジネスマンに見えた。

 頭脳明晰さを表すような、こめかみに入ったタトゥーですらオシャレに映る。


 兄弟たちの父親は、正解のベルを打ち鳴らすように長机を拳で叩いた。

 いつも彼が同じ場所を叩いているので、とうとう限界がきて机は真っ二つになってしまう。



「その通りだ、ジェノサイドロアー! 今日お前たちを呼んだのは、副部長のポストに誰を就かせるかということ! これからその方法を発表する! 耳の穴ほじくり返して、しっかり頭に叩き込んどけよ、ゴルァァァ!!」



 慌てて耳の穴に指を突っ込み、耳垢を掻き出していたのは三男のみ。

 次男と長男は、相変わらずのポーズで耳を傾けていた。


 父親が彼らに伝えた、副部長の選出方法はこうだ。


 これから1年という期間で、このハールバリー小国の3つの領地を受け持つ兄弟たちの間で売上競争をせよ……!

 過去の各領地の売上も加味し、いちばん上昇幅の大きかった領地の者を、副部長に任命する、と……!


 さらに判定としては、『ゴージャスマート』での売上だけでなく、自殺させた店員の数も基準にするという。


 これはジェノサイドダディなりの、上に立つ者としての資質の見極め方法であった。


 邪魔な部下は辞めさせるのではなく、脅威を排除するために、自殺させる……!

 それこそが、彼が右腕に求めるもうひとつの手腕でもあったのだ……!



「今回はテストだから、有能なヤツでも無能なヤツでも、誰彼(だれかれ)かまわずブッ殺せ! ただし、あくまで自殺(●●)だ! 効率のいいやり方としては、店の倉庫の天井から、輪っかを作ったロープを常に垂らしておけ! そしてターゲットに絞った店員(ヤツ)に、さんざん嫌がらせをしたあと、倉庫の整理をさせるんだ、ひとりっきりでな! それを繰り返せば……数日後には干し柿のできあがりってワケよ!」



「なるほど! あっ、そうか……! 以前オヤジの店で、店員たちが倉庫で集団自殺したことがあったが、アレはそうやって成し遂げていたのか! さすがだぜ、オヤジ! グルルルルッ!!」



「その通りよ! あん時は店員の総入れ替えをしたかったら、ちょこっと本気を出しちまったんだ……! グルルルルルルルルルッ!!」



 武勇伝のように語るオヤジに、憧れのまなざしを向ける次男。

 親子ともども嬉しそうに喉を鳴らしている。


 三男は意味がわかっておらず、指を加えてキョトンとしていた。


 長男だけは憧れることも呆けることもせず、ただ吐息とともに、疑問を紡ぐ。



「ふぅ。……でも、そんなことをしていたら、『憲兵』が黙っちゃいないんじゃないか?」



 ……この国の平和を第一線で守っているのは、『衛兵』と『憲兵』と『軍兵』と呼ばれる3種類の兵科の人間たちである。


 『衛兵』は街の治安を守る、いわば警察官。

 『憲兵』は事件を捜査する、いわば検察官。

 『軍兵』は国の侵略や防衛などに関わる、いわば軍人。


 たとえば仮に『ゴージャスマート』の店員が、店内で自殺したとする。

 すると『衛兵』がやってきて、現場検証と事情聴取をし、調査書にまとめる。


 提出された書類を上層部が判断して、事件性ありと判断すれば『憲兵』が出動し、本格的な捜査を開始する……という仕組みになっている。


 ジェノサイドロアーは、たとえ自殺といえども多発すれば、『憲兵』の捜査を受けるのではないかと疑問に思っていた。

 それに対しての、父親の回答はこうだった。



「俺がこの国の『衛兵局大臣』と懇意なのは知ってるだろう!? だから大丈夫だ! 事件性ありの調査書をいくら下っ端どもが上げようとも、大臣のところで自殺で処理される!」



 そう……! 小国部長ともなると、国の大臣にも顔が効くのだ……!



「だがそれも『衛兵局』までだ! 『憲兵局』までは押さえられねぇ……! だから、あくまで自殺(●●)ということにするんだ! 見せかけだけでもな! それだけ守れば邪魔者は殺し放題って寸法よ! グルルルル……!」



 すっかり上機嫌になったオヤジは、さらに舌の調べに乗せる。



「おおっと! だが殺す前には、過発注を押し付けて、賠償まみれにしておくのを忘れるなよ! そうしておけば、殺したあとも旨味が得られる……! 『残された家族』ってのは金になるんだ! そこから取れた金は、売上に加算してやるから、しっかりと絞るんだ! いいな、ゴルァァ!!」



 狙った店員(エモノ)どころか、まわりの人間まで、骨までしゃぶり尽くす……!

 それこそが皆殺し(ジェノサイド)親父(ダディ)のやり方であった……!




「す、すげえ! すげえよオヤジ! 店員の家族も金に換えちまうだなんて! あっ、だけどそんなやり方を続けてたら、みんなビビって新しい店員(ヤツ)が入ってこなくなっちまうんじゃ……?」



「ふぅ。問題ないのは明白だ。なぜならばオヤジは『伝説の販売員』なのだからな。オヤジに憧れて『ゴージャスマート』で働きたがるヤツは、それこそ掃いて捨てるほどいる」



「そうか! そうだったよな! なんたってオヤジは、あの『ヤードホック最果て支店』にいた『伝説の販売員』だったんだよな! オヤジの有能さを妬んだ上司の嫌がらせにもめげず、あんな僻地で売上トップを叩き出すなんて……人間ワザじゃねぇよ! 商売の神様だって、あんな芸当は無理だぜ! たしかに、俺の所で働いている店員、みんなオヤジの伝説に憧れて入ってきたヤツだ!」



 そう……! そうなのだ……!

 ジェノサイドダディが『捨て犬』に失敗していながら、出世した理由……!


 かつてのゴルドウルフの功績を横取りし、『伝説の販売員』としての地位を確立していたからなのだ……!

次回、グラスパリーンに意外な変化が…!?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 改めて見ると本当に凄まじい親子ですな・・・(汗) 唯一の人間であるロアー君がせめてもの救い・・・。 [一言] 親がこんなだから子もこんな風になるんや・・・! ロアー君の存在は本当に奇跡や・…
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