02 ゴミ扱いの駄犬
ハールバリー小国は、3つの領地で構成されている。
王都のある、ハールバリー領。
『不死王の国』や『火吹き山』のある、トルクルム領。
そしてアントレアの街がある、ルタンベスタ領。
ゴルドウルフが経営する『スラムドッグマート』は、この国のひとつの領地、さらにはその中にある街のひとつを征服した。
しかし、全世界に展開する調勇者たちの店、『ゴージャスマート』からすれば、数多に存在する個人商店のひとつに過ぎない。
対抗勢力を全部ひとまとめにしても、1%にも満たない市場占有率でしかなかったのだ。
比べるならば、巨人を前にした人間どころか、アリンコ……!
いや、微生物……! いまだに『ミジンコ』レベル……!
『スラムドッグスクール』の拡張も急務であると感じたオッサンは、ついに決意する。
さらなる市場に打って出ることに……!
そう……!
『スラムドッグマート』はアントレアの街を飛び出し、他地域への展開に乗り出すことにしたのだ……!
今まではひとつの街での戦いであったが、それが領地規模にまで拡大する。
そうなると、より階級の高い勇者との一騎打ちは避けられない。
今度はダイヤモンドリッチネルのような支部長ではなく、その上にいる方面部長を相手にしなくてはならないのだ……!
ではハールバリー小国にいる、上位の調勇者たちをひとりずつ、順を追って見てみよう。
まず、ルタンベスタ領を預かる方面部長は……。
『ジェノサイドナックル・ゴージャスティス』……!
つぎに、隣のトルクルム領の方面部長として……。
『ジェノサイドファング・ゴージャスティス』……!
さらに本丸ともいえる王都、ハールバリー領を預かるのは……。
『ジェノサイドロアー・ゴージャスティス』……!
最後に、彼らを束ねる者……!
ハールバリー小国の調勇者の首領……!
主天級調勇者、『ジェノサイドダディ・ゴージャスティス』……!
『皆殺し家族』と呼ばれる恐怖の調勇者たちが、一気参戦っ……!!
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
ディン・ディン・ディンギル
ブタフトッタ
ノーワンリヴズ・フォーエバー
マリーブラッドHQ
●熾天級(副社長)
キティーガイサー
●智天級(大国本部長)
●座天級(大国副部長)
●主天級(小国部長)
New:ジェノサイドダディ
●力天級(小国副部長)
●能天級(方面部長)
New:ジェノサイドロアー
New:ジェノサイドファング
New:ジェノサイドナックル
●権天級(支部長)
ゴルドウルフ
●大天級(店長)
●小天級(役職なし)
○堕天
ミッドナイトシャッフラー、ダイヤモンドリッチネル、クリムゾンティーガー
ライドボーイ・ランス、ジャベリン、スピア、オクスタン
名もなき戦勇者 86名
名もなき創勇者 52名
名もなき調勇者 101名
名もなき導勇者 145名
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この難敵の出現を、オッサンはいちはやく予見していた。
なぜならば、彼らのリーダーとは、やはり過去に因縁があったから……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
……これはオッサンが、オッサンになったばかりの頃の話。
そして、彼がトルクルム領にある田舎町、『ヤードホック』にある『ゴージャスマート』の店長に就任したばかりの頃。
直属の上司にあたる支部長に、あのジェノサイドダディがいたのだ。
ダディは苛立っていた。そして猛獣のように唸っていた。
ガルルル……! ゴミがっ……!
せっかく店長の空きを作ったってのに、上層部のヤツら……!
小汚い野良犬を、ホコリみたいに送り込んできやがって……!
あのゴミさえいなけりゃ、息子たちを全員、店長にできたってのによ……!
ダディの息子である、長男のジェノサイドロアーと、次男のジェノサイドファングはすでにヤードホックの街にある別の『ゴージャスマート』の店長に就任していた。
さらに店長の欠員を作り上げ、三男のジェノサイドナックルを就かせるつもりでいた。
彼はそうやって、自分の周囲を身内でかため、盤石なる体制を築こうとしていたのだ。
しかし……上層部の指示で、空席にゴルドウルフが送り込まれてしまう。
ダディにとっては、どこの馬の骨……いや、どこの犬の骨ともわからないオッサンを押し付けられてしまったというわけだ。
オッサンの仕事ぶりにケチをつけ、クビにしてしまうのは簡単。
だがそれは、『皆殺し親父』のポリシーに反する。
クビを言い渡すのは、彼にとっては負け……!
そして、自ら志願して退職させることも、負けであったのだ……!
なぜならばどちらの場合も、辞めた後に競合相手となる可能性があるから……!
店員をしていて手の内を知られている相手なら、なおさら脅威……!
では彼は、辞めさせたい店員がいる場合は、どうしていたかというと……。
それは、嫌がらせ……!
過酷な勤務を言い渡し、過労による失敗を狙い、罵倒……! さらには暴力を振るう……!
心身ともにズタボロにし、自殺に追い込んでいたのだ……!
長男と次男を店長に就任させるにあたって、すでに屍の山が築かれていた。
その仕上げとして、てっぺんに……あのオッサンを墓標のごとく、突き刺そうとしていたのだ。
早急に成果を欲していた、ダディの嫌がらせは熾烈であった。
支部長の店舗視察として、ゴルドウルフが店長を務める店に連日のように押しかける。
入店するまえに、店のショーウインドウにヒビを入れ、
「おぉい!? ゴミ野郎っ! テメー! 大事なショーウインドウが割れかけてんじゃねぇーか! ゴルァァァ! 店の顔になんてことしやがるんだ! さっさと業者を呼んで直さねぇか! これはテメーのミスだから、修理代はテメーの給料から引いとくからな! ゴルァァァ!!」
言われなき罵倒と、弁済をひっかぶせ……!
「お客様、お見苦しいところをお見せして申し訳ありません! コイツは本当にどうしようもないヤツで……ほら、テメーは土下座して謝るんだよ! ゴルァァァ!!」
戸惑っているところに蹴りを浴びせ、強制土下座……!
「テメーは満足に謝ることすらできねぇのか! 本当に、本当にどうしようもねぇヤツだな……このゴミケツ野郎が! 見てくださいよ、お客さん! コイツのケツ、粗大ゴミみたいでしょ!? 店にあっても邪魔なだけなんで、1発ずつ蹴ってやってもらえませんか!? そうすれば、コイツも自分のことがゴミだって、ようやく理解できると思うんで!」
客の前で馬鹿にし、嘲笑のターゲットにする……!
店じゅうの客に蹴られ、うずくまっている所に、さらなる追い打ち……!
「おい! いつまで寝てやがんだ! テメーに比べたら、ビールを小便に変える魔法のほうが、よっぽど役に立つぜ! 寝てるヒマなんてねえぞ! なんたってこれから、薬草が五百セット納品されるんだからな! 早くしねえと店の前がお花畑になっちまうぞ!」
直前まで、大事な情報を与えず……!
「頼んだ覚えはない? 知らねぇよそんなの! テメーが発注したんだろうが! 薬草は消費期限があるんだ! 売りきれずにダメにしたら、テメーが弁償しろよな! わかったか、ゴルァァァ!!」
過発注をしておいて、責任を押し付ける……!
これはジェノサイドダディにとっての、必殺の五連コンボである。
数回受けるだけで、どんな者でも身体を壊して入院するか、はたまた生きるのをあきらめるか……そのどちらかであった。
もちろん辞めたいと泣きついてきたり、逃げ出す者もいた。
が、許さない……!
その時にはすでに、度重なる過発注で莫大な借金を背負わされている者を、逃がすはずもない……!
命をもって精算する以外の道を、すべて断つ……!
それが彼のやり方であった。
そしてそれはキングコブラの神経毒のように、食らいつかれたら最後。
逃れられる者は誰もいない……そう思われていた。
しかし……しかしである。
あのオッサンはだけは、例外であった。
そう……!
怖いもの知らずとしてギネス認定されているイタチ、『ラーテル』のように、どんな猛毒にも耐えていたのだ……!
当初、ジェノサイドダディの支部長仲間の間では、賭けが行われていた。
標的となったゴルドウルフが何日持つかを。
その賭けは毎度のことであったが、今回だけは成立しなかった。
いつまで経ってもオッサンは自殺するどころか、入院すらしなかったから……!
しかしそれが、ジェノサイドダディのプライドを大きく刺激することになる。
俺が目を付けて、自殺しなかったヤツぁ、いねぇんだ……!
絶対に、自殺す……! それも最大級に、惨めなやり方で……!
ゴミ犬野郎が……覚悟しろよ、ゴルァァァァァァ!!
狂気に駆り立てられた彼は、最後の手段へと打って出た。
そう……!
かつて多くの勇者たちが手を染め、その効き目に酔いしれ、そして堕落した……!
『禁断の麻薬』と呼ぶにふさわしい、例の手段である……!
次回、ゴルドウルフに前代未聞の『追放』が襲いかかる…!