50 新たなる仲間
『不死王の国』で下される、バルルミンテの裁きの度合いを覚えているだろうか。
一、無罪放免。すぐに昇降機に乗って地上へ戻ること。
二、生者のまま、この地で指定期間の強制労働。
三、最下級の不死者となり、この地で永遠の強制労働。
そして、最大級の裁きである『四』は何であったかというと……。
四、不死者となり、人間たちの教材として永遠を過ごす……!
そう……!
ゴルドウルフが考えた、『スラムドッグスクール』を世に知らしめる秘策……!
それは不死者たちを、『教材』として全国の学校に貸し与えるというものであった……!
アンデッドモンスターは強力な自己再生能力によって、受けた傷を修復することができる。
いや、『できる』というよりも、『してしまう』のだ。
剣で肉を斬り刻まれようとも、棍棒で骨を砕かれようとも、矢で頭を撃ち抜かれようとも死なない。
いや、『死なない』というよりも、『死ねない』……!
したがって、教材にはうってつけ……!
受刑者の身体の目立つところに、『スラムドッグスクール貸与』の焼印を押し……!
首輪に繋いで、檻に入れて……近隣の冒険者学校へ、出荷……!
プレゼントを受け取った、学校関係者は色めき立つ。
なにせ教育史上でも類を見ない、革新的な教材が送られてきたのだから。
これぞまさに、生きている教材……! いや、死んでいる教材……!
いままでは真剣を使った剣術授業といえば、藁でできた人形、良くてゴーレム相手が関の山であった。
しかしアンデッドモンスターを使えば、より実戦に近い授業ができるようになる。
生徒である子供たちも大喜び。
自分と同じくらいの背丈で、醜いアンデッドモンスターは、彼らにとっては刺激的なオモチャに映ったのだ。
言うなれば、『昆虫採集セット』で何をしても死なない、昆虫も同然……!
こんなすごい昆虫をくれる塾は、どこなんだろうと気になるのも当然……!
その時、『スラムドッグスクール』の焼印を目にする偶然……!
すると思い描く気持ちは、必然……!
よぉし! 帰ったら、パパやママに頼んでみよう……!
今の塾をやめて、「スラムドッグスクール」に行きたいって……!
ラップのようなリズムで、塾替えを決然……!
聖女学校の女生徒たちは、気持ちの悪いアンデッドを足蹴にしながら、こう思っていた。
『ライライ・ライト』のメンバーが行方不明になって、初の全国ツアーが中止になっちゃうなんて……!
もう、むしゃくしゃする……! このキモいのをいじめて、憂さ晴らししよっと……!
しかし、彼女たちは気づいていない……!
憧れの『ライライ・ライト』たちは、今まさに踏み砕かれながら、『地獄の全国ツアー』の真っ最中であることに……!
ゴルドウルフ……!
ライドボーイ一派の『切り込み隊』たちを……!
まとめて影縫&成敗……!
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
ディン・ディン・ディンギル
ブタフトッタ
ノーワンリヴズ・フォーエバー
マリーブラッドHQ
●熾天級(副社長)
キティーガイサー
●智天級(大国本部長)
●座天級(大国副部長)
●主天級(小国部長)
●力天級(小国副部長)
●能天級(方面部長)
●権天級(支部長)
ゴルドウルフ
●大天級(店長)
●小天級(役職なし)
ミッドナイトシャッフラー
○堕天
↓降格:ライドボーイ・ランス
↓降格:ライドボーイ・ジャベリン
↓降格:ライドボーイ・スピア
↓降格:ライドボーイ・オクスタン
ダイヤモンドリッチネル
クリムゾンティーガー
名もなき戦勇者 76名
名もなき創勇者 52名
名もなき調勇者 101名
名もなき導勇者 143名
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……ちなみにではあるが、名もなき勇者たちが急増しているのは、『勇者ホイホイ』の戦果である。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
プロモーションが功を奏し、『スラムドッグスクール』には入塾希望者が殺到した。
スクールは当初、『スラムドッグマート1号店』のみだったのだが、あっという間にキャパシティオーバー。
オッサンに予想以上の塾生をもたらすこととなる。
しかし、手放しでは喜べない。
面にこそ出さなかったものの、むしろ彼の内心は複雑であった。
なぜならば、今回の作戦で狙っていたのは……歪んだ勇者教育に特に毒されてしまった、一刻も早く矯正が必要な子供たちだったからだ。
死者とはいえ他者を喜んで傷つけるような子供たちこそ、この刺激的なプロモーションに反応する。
そこで入塾希望してきたところに、しっかりとした教育を施す……。
腐れきったミカンを生まれ変わらせれば、学校に戻ったときに、まわりのミカンをも瑞々しくする……そう考えていたのだ。
しかし皮肉なことに、ハコの中は腐れきったミカンだらけ……!
本来は、死者の尊厳に対してもっとも敏感でなければいけない聖女の卵たちですら、教材を喜んで足蹴にする始末……!
世の中の学校は、ゴルドウルフが想像している以上のスクールウォーズっぷりだったのだ……!
だが彼はめげず、泣き虫先生のごとく奮起する。
開塾したばかりだというのに採算を度外視し、アントレアの街にある『スラムドッグマート』各店をつぎつぎに改築、受け入れ体制を整えたのだ。
そうなると教員不足の問題も出てくるのだが、それは昇進したばかりのグラスパリーンや、彼女から紹介してもらった教員仲間をアルバイトで雇うことで補った。
というか、グラスパリーンは昇進してもなお薄給だったので、積極的にアルバイトを申し出てきた。
ゴルドウルフが『スラムドッグマート1号店』で品出しをしていると、
「……うわあぁぁぁぁぁぁぁんっ! ゴルドウルフ先生っ! 今日も、今日もアルバイトをさせてくださぁぁぁぁいっ!!」
例の女教師が飛び込んできて、いきなり泣き崩れるのが月末の恒例行事となっている。
「グラスパリーン、アンタ『蟻塚』からいっぱい『勇者票』を持って帰ったじゃないの。それを換金すればいいじゃない」
今では筆頭塾生となったシャルルンロットが、呆れた様子で突っ込んだ。
「ううっ……勇者票はぜんぶ、メリーちゃんに食べられちゃったんですぅ……」
「なによ、そのメリーちゃんって」
「大家さんが飼ってるヤギです……あ、でも、メリーちゃんが喜んでくれたから、今月のお家賃はナシでいいって、言ってくれたんです!」
泣いたカラスがもう笑うように、涙の残る顔をにぱっと開花させるグラスパリーン。
「大富豪になれるだけの勇者票を、ボロアパートの家賃にしちゃうだなんて……アンタらしいわ。でもあの鼻持ちならないナスビの口座に、お金が残ってるのは気に入らないわね」
すると、背後から意外な、しかし懐かしい声がした。
「……父上の全財産は、のんが相続したのん。銀行口座もすでにのんの名義になっているのん」
店のスウィングドアを音ひとつ立てずにすり抜け、立っていたのは……。
かわいらしい赤ずきんに、冷めた寝ぼけ眼、老婆の腕のような樫の杖……!
「ミッドナイトシュガー……! よくこの店にノコノコ顔を出せたわねっ!? アンタのクソオヤジのせいで、アタシたちひどい目にあったんだから! いったい何しに来たのよっ!?」
「しっ!? ししし試験官様っ!? こっこここ、この度は、お日柄もよく……!」
対照的な表情を浮かべる少女たちの間をぬって、ゴルドウルフの前に立つ赤ずきんちゃん。
狼に向かって、羊皮紙をピッと差し出す。
そしての愛想のない顔を、扇風機のように規則正しく振りまきながら、左右に向かってふた言。
番犬のように唸るお嬢様に向かって「入塾しにきたのん」。
犬像のように硬直する女教師に向かって「もう試験官ではないのん。生徒なのん」。
「「えっ……ええええーーーーーっ!?!?」」
意外なるカウンターを食らい、少女たちは、喉彦をパンチングボールのように震わせて驚いていた。
狼は、赤ずきんの手から『入塾希望書』を受け取ると、変わらぬ笑顔で迎え入れる。
「……ミッドナイトシュガーさん、『スラムドッグスクール』へようこそ。塾長として歓迎いたします。これからみなさんと一緒に、楽しく勉強していきましょう」
「よろしくのん」
いつもと変わらぬその表情は、その時ばかりは少しはにかんだように見えた。
あれ? ミッドナイトシュガーは元に戻ったんじゃないの?
…その理由は、次回…! ファイナル勇者ざまぁ後編…!
最終話にて明らかに!