48 野良犬の塾
『蟻塚』はバルルミンテと名乗るリッチの手によって陥落し、その名を『不死王の国』と改めた。
この事実はビッグニュースとして、しばらくのあいだ世間を騒がせることとなる。
無理もない。
『拡張記念パーティ』に招待された多くの勇者や貴族たちが、最下層である『王の間』に幽閉され、ある者は人間のまま、ある者は死者となって、強制労働をさせられているのだ。
当然、地下迷宮の持ち主であるミッドナイトシャッフラーの責任問題へと発展する。
しかし当人はいまだ行方不明。
おそらく『王の間』で囚われの身になっているのだろうということで、一時的に二階級特退の措置がなされた。
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
ディン・ディン・ディンギル
ブタフトッタ
ノーワンリヴズ・フォーエバー
マリーブラッドHQ
●熾天級(副社長)
キティーガイサー
●智天級(大国本部長)
●座天級(大国副部長)
●主天級(小国部長)
●力天級(小国副部長)
●能天級(方面部長)
●権天級(支部長)
ゴルドウルフ
ライドボーイ・ランス
ライドボーイ・ジャベリン
ライドボーイ・スピア
ライドボーイ・オクスタン
●大天級(店長)
●小天級(役職なし)
↓降格:ミッドナイトシャッフラー
○堕天
ダイヤモンドリッチネル
クリムゾンティーガー
名もなき調勇者 7名
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名誉能天級導勇者は、その名誉を回復することなく、最底辺へと叩き落とされてしまった……!
その後、幾多もの『不死王討伐クエスト』が発令され、多くの勇者や冒険者たちが、連日『不死王の国』に挑んだ。
しかしすべて、最下層にたどり着くことすらできずに、返り討ち……!
これも、無理からぬことであった。
なぜならば、『不死王の国』の影のプロデューサーは、あのオッサン……!
幾多の地下迷宮を知り尽くした彼が刷新した仕掛けは、巧妙かつ的確……!
往年のコントのような鮮やかさと滑稽さで、訪れる者たちを一網打尽にしたのだ……!
それは地下迷宮研究者たちから、高難易度どころか、『ヘル・モード』と評されるほどの、鬼畜っぷり……!
特に恐ろしいのは股間を強打する罠で、「少子化に繋がる」と専門家が警鐘を発するほどであった……!
しかもそのクセ、財宝の類は一切無いというシブチンぶり……!
しかしそんなものがなくても、挑む者たちは後をたたない……!
なにせ、最下層に囚われた者たちを救出できれば、莫大な報酬が支払われるのだ……!
そしてそれこそが、オッサンの狙いでもあった。
オッサンは、かねてから考えていたのだ。
自分ひとりで勇者一族の相手をするのは、いささか骨が折れると。
そして思いついたのが、勇者を効率的に排除できる仕掛け。
自分は直接手を下すどころか、その不快な姿を目にする必要すらない、始末の自動化である。
そう……!
『勇者ホイホイ』の実用化を目指していたのだ……!
オッサンにとって、グラスパリーンの昇進試験は渡りに船どころか、渡りに豪華客船であった。
『王の間』でのミッドナイトシャッフラーの余興に少し手を加えただけで、『勇者ホイホイ』という絶大なるリターンを得たのだから……!
『勇者ホイホイ』……またの名を『不死王の国』。
そこで捕らえられた者たちは、すべてバルルミンテの審判にかけられる。
それで『罪なき冒険者』とわかれば、多少の労働力を提供するだけで解放した。
しかし、『百害を有した勇者』とわかれば、即不死者に……!
ミイラ取りがミイラになる裁きを、容赦なく下したのだ……!
そのため、不死者の王国は仲間が急増。
建国からわずかしか経っていないというのに、一大勢力となりつつあった。
しかしそうなってくると、新たなる問題が浮上する。
それは、封印……!
人間では手が付けられなくなった地下迷宮には、『煉獄』のように、女神の封印が施されてしまう事があるのだ……!
しかしオッサンは、この対策も万全であった。
まず最初に、『王の間』に多くの人質を有するようにしたこと。
封印してしまえば、人質の救出は不可能となる。
従って人質の家族たちは、封印に猛反対した。
勇者や貴族の家族ともなれば、少数でも発言力が大きいのを利用したのだ。
そして次に、専守防衛をバルルミンテに指示していた。
モンスターというのは勢力拡大を目論み、近隣の街や村などを襲うものだが、それを禁止したのだ。
これはどういうことかというと、世論を刺激しないためである。
『煉獄』はアントレアの街を脅かしていたので、封印には多くの世論の後押しがあった。
しかし、『不死王の国』からはモンスターが飛び出してくることはない。
こちらから飛び込んでいかない限り、無害という印象を与えるようにした。
近隣への被害がなければ、数の力で反対派を封殺することもできない……!
やがて死者たちの楽園は、永世中立国のような立場を得るに至ったのだ……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
……オッサンにはもうひとつ、考えていたことがあった。
導勇者に対抗するため、新たに私塾の設立を決意したのだ……!
その理由は明白である。
ミッドナイトシャッフラーを始めとして、この世界の教師たちは腐りきっている……!
勇者に憧れる子供たちの気持ちを利用し、自分の欲望を満たす彼らを、これ以上野放しにはできないと奮い立ったのだ。
そして立ち上げた私塾の名前は、『スラムドッグスクール』……!
アカデミックになったゴルドくんが目印……!
一般的に私塾というのは、『勇者教育委員会』の教育規定に則った運営がなされる。
たとえば、『教室内には必ずゴッドスマイル様の肖像画を飾ること』などである。
それらを遵守しない場合、委員会から塾として推薦されず、塾生が誰も来なくなるのだ。
だがゴルドウルフは敢えて『勇者教育委員会』とは距離を置き、独自の教育理論を掲げた。
そして立地的には『スラムドッグマート』の2階を改築し、教室にした。
店で定期的に開催している剣術指南などで、呼び寄せた子供たちをスムーズに塾に促せるからだ。
ところがこれだけでは、集客能力に欠ける……。
『勇者教育委員会』という大いなる傘の外では、草の根を分けるにも限度があった。
しかしゴルドウルフは、それすらも見越していた。
彼が用意していた、さらなる秘策、それは……。
まさに、阿修羅のごとき荒業……!
敵である『勇者』には一片の憐憫を与えぬ、永遠なる悪道だったのだ……!
次回、ファイナル勇者ざまぁの前編になります!
グロテスクなシーンがありますので、苦手なかたは読み飛ばしてください。
読み飛ばしても話の内容は理解できるようになっています。
バイオレンス描写はかなりマイルドにしてあるので、大丈夫だとは思うのですが…。
…読む場合は、引かないでくださいね?