表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/806

44 オッサン流ちゃぶ台返し

 天を衝くほどにそびえていたのは、紅のマントの山脈……!


 その頂きには、人々を惑わすために天が遣わした隕石のような、巨大なる黄金のドクロ……!


 金粉と、叫喚の浮かんだ魂を竜巻のように舞い上げ、闘気(オーラ)としてその身にまとう……!


 この『王の間』は、彼のためにあったのだと思わせるほどの、美しさと荘厳さ……!

 そして……どこまでも邪悪で、不吉なる存在感……!


 その場にいる命あるものはすべて、その偉躯に釘付けになっていた。

 首を外れんばかりに上に傾け、秘宝のような尊顔を拝んでいる。


 観客たちに少し遅れる形で、それを見上げたミッドナイトシャッフラー。

 指揮台にしがみついて起き上がった彼は、苦難のすえ天竺に辿り着いたかのように、しばしその景観に見とれていた。


 しかしすぐに悪徳坊主のような、生臭い歓喜をあげはじめる。



『すっ……素晴らしい……! 素晴らしいノンッ!! これぞ……これぞ「昇魂の秘術」……! ザコの不死者の魂を捧げることにより、より上位の不死者を呼び出す……! 大成功! 大成功だノンっ!!』



 全財産をはたいたガチャで、お目当て以上のカードが出てきたような狂喜乱舞。


 無理もない……!

 彼が引き当てたのは、まぎれもなく最上級の、激レアカード……!


 その名は、『不死王リッチ』……!


 『ゾンビ』や『マジック・スケルトン』をザコとするならば、まさしくボス……!

 それも、ラスボス級……!


 ……アンデッドモンスターの強さの目安のひとつとして、『増殖能力』というものがある。


 不死者というものは生殖機能がないので、一般的な生物とは異なる方法で仲間を増やしていく特性がある。

 たとえばゾンビであるならば、噛み付いた人間が死ねば、同じゾンビとなって蘇るように。


 しかし、リッチは増えない。

 不滅の王は、志を同じくする者など必要としないのだ。


 求めるのは、己が手足となって働く手下のみ。

 しかもその方法が、桁外れ。


 噛むどころか、身体に触れる必要すらない。

 王がその気になれば、命あるものを影で覆うだけで、忠実なる下僕(アンデッド)とすることができるのだ……!


 かつて、無限ともいえる不死者の増殖を防ごうと、とある不死の王が支配する地下迷宮(ダンジョン)に、人間の軍隊が攻め入ったことがあった。


 その後、帰還した彼らを人間の王や民衆が迎えたのだが、それは英雄たちの凱旋ではなかった。


 死者の葬列(パレード)……!


 そう……!

 『不死の王』というのは、名ばかりではない……!


 リッチに攻撃を仕掛けるというのは、一国の王への宣戦布告も同じ……!

 哀れ、その国の人間たちは滅ぼされ、国民全員が不死者となってしまったのだ……!


 そんな最凶最悪の存在が、この世に召喚されてしまった……!

 人間にとっては、厄災でしかない独立国家が誕生した瞬間である……!


 暴君や狂王のほうが、同じ人間であるぶん、まだマシ……!

 しかし、もう手遅れ……!


 禁断の秘術によって……不死王、爆誕……!

 その死爪(ひきがね)を引いたのは……他ならぬ、ナスビ……!


 すでに凶暴王と化している、勘違いナスビであった……!



『ノン! ノンノンノノンっ!! やったノンっ!! やったノンっ!! やったやったやったノンっ!! ついにやったノォォォォォォォーーーーーーーーーンッ!! 魂の盟約により、このリッチは私の思うがままノンっ!! ……さあっ、不死王リッチよ!! (あるじ)のものとに、ひれ伏すノンッ!!』



 再び指揮台に飛び乗ったナスビが、紅潮した顔で命ずると、



 ……ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ……!



 空気を震わせながら、不死の王は従者のように膝を折った。


 召喚の衝撃が冷めやらぬ観客たちは、瞳孔が開きっぱなし。

 そこに飼いならされたゾウのような動きを見せられ、人質のように怯えながら驚嘆する。



「お……おおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」



「す、すごい……! すごいですぞ! ミッドナイトシャッフラー様っ!」



「まさか、不死王と呼ばれるリッチを召喚するだけでなく、支配してしまうだなんて……!」



「やはり、最高の導勇者(どうゆうしゃ)は、ミッドナイトシャッフラー様をおいて、他にはおりませんな!」



「いやあ、まったく! もはや名誉能天(のうてん)級どころではない……! 準神(じゅんしん)級でもおかしくはありませんぞ!」



 観客たちをビビらせ、掌中に収めるのにも、成功……!

 しかし当のミッドナイトシャッフラーの顔には、翳りがさしていた。


 不死王を言いなりにして、跪かせたのはいいものの……背中を向けたままだったのだ。



『ノンっ! なにをやっているノンっ!? ひれ伏せと命令した場合、普通は(あるじ)のほうを向いてやるものだノンっ!? まさか不死者というのはザコだけでなく、どいつもこいつも間抜けなのかノンッ!?』



 否……!

 不死の王は、この場にいる誰よりも賢明であった……!


 むしろ生者よりも、聡明……!

 なぜならば、彼はたしかに盟主に向かって、深い敬意を表していたのだ……!



「……久闊(きゅうかつ)をお許しください。あなた様と再びこうして相まみえる事ができるとは……このバルルミンテ、恐悦至極にございます」



 彼よりも頭が下げられない事がもどかしいように、恐縮しきりで身体を丸める不死王。

 その燃える眼窩の先には、世界最小の犬のような、小さな存在が。



「お久しぶりです、バルルミンテ。『昇魂の秘術』が行われましたので、私のほうでも魔法陣に少し力を加えて、『煉獄』で名を馳せていたあなたを呼び出させていただきました」



 『プルもやったんだよ!』『ルクもお手伝いしました』とさらに小さな者たちが飛び出してきて、山のような身体はさらに縮こまる。



「おおっ……プル様……! それに、ルク様まで……!」



 再会の喜びを分かち合う背後で、まったく空気が読めていないキンキン声がする。



『ノン! ノン! ノーンッ!? なぜ無視をしているノンっ!? なぜ主の言うことを聞かないノンっ!? お前にはこれから、パーティの余興として死者を創り出してもらうノンっ! だからひれ伏すのは、もういいノンっ! さあ、立ち上がって、ここにいる4匹をいますぐ死者にするノンっ! ゾンビのような腐った死体ではなくて、剥製のような綺麗な死体にするノンっ!!』



 その命令がようやく通じたように、霊峰のような身体をふたたび隆起させるリッチ。

 しかし依然として振り向くことはなく、雷鳴のような声を轟かせた。



「よく、聞けい……!! 我が名はバルルミンテ……!! 現し世(うつしよ)に在りし不浄の魂を統べる、不死の王である……!! この『蟻塚』は、たった今から、余の支配下となった……!!」



 ごうごうと鳴り渡る喝破に、再び指揮台から転落するミッドナイトシャッフラー。



「のっ……!? ノォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーンッ!? どういうことだノンっ!? どういうことだノンっ!? 魂の盟約が、破られるだなんて……!? いったいどういうことだノォォォォォーーーーーーーーーーンッ!?!?」



 『魂の盟約』……それは生贄を捧げることにより、人間が魔界の者を意のままに操ることをいう。


 しかしこれは、『支配と隷属』の関係ではない。

 雇用主と、労働者の関係……いやもっと正確に表すならば、依頼人と殺し屋の関係。


 その繋がりは、対価のみ……!

 魂という対価を与えている間のみ、大人しく飼いならされているだけであって、強制力はない……!


 より強い繋がりの前には、逆に依頼人がターゲットになってしまうこともあるのだ……!


 そう……! 人間にとっては命よりも重い『盟約』だとしても……!

 魔族からすれば、金持ちの子に『ズッ友だょ』とメールするくらいの感覚……!


 しかしこれは、過去に前例のないことであった。

 なぜならば、魔族が心変わりをするほどの繋がりを持つ存在など、これまでの人間界には存在しなかったからだ。


 あっさりとした手のひら返しではあったものの、人間の歴史にとっては前代未聞の一大事……!

 まさに、空前絶後……! 驚天動地の心変わりであったのだ……!


 その仕掛け人であるオッサンは、立ち止まってから一歩もそこを動いていない。


 邪悪なる勇者が長年計画していた、大いなる野望を……!

 狂気の馳走に彩られた、悪魔のオードブルを……!


 寡黙な頑固オヤジのごとく、たったの一挙動(ワンアクション)……!

 たったの一言で、ひっくり返していたのだ……!



「バルルミンテ、ちょっと手伝ってもらえますか?」



 ちょっとそこの醤油取って、くらいの気軽さで……!

次回、大・逆・転…!!


ここからラストスパートです! お話はクライマックス中のクライマックスに入ります!

がんばって書かせていただきますので、どうか応援をお願いします!


応援の方法

 ・評価ポイントをつける(まだの方はぜひお願いします!)

 ・ブックマークする

 ・レビューを書く

 ・下の『小説家になろう 勝手にランキング』のリンクをクリックする

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >どうか応援をお願いします! ・・・微力ながら応援致します!! 「野良犬印のポーションで元気百倍!! さあ!! 夢を叶えるぞーーーーーーーー!!!」
[良い点] 既に先手を打っていた・・・! それでこそオッサン! それでこそ・・・『ゴルドウルフ ・ スラムドッグ』 よ!! 残念だったなあロリナスさんよ♪ 『ズッ友だょ』 程度の関係だとさ♪(爆笑!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ