━シスター・ライフ━
レイニーズは、ひとり椅子に腰かけ、マグカップになみなみと注がれたココアをあおり、深くため息を吐いた。
「メタリカ…無事かしら」
ぽつりとそう呟いたのち、またココアをあおる。表情は暗く、俯いたまま目を閉じる。
この近辺の森は、3姉妹にとっては庭といえるほどよく知っているし、だからこそ彼女は心配していた。この森で迷子になるなど、普通ならまず有り得ないことだ。何か大事に巻き込まれたに違いない。
だが、家に誰もいなくなるのもまずい。もう少しすれば、いちばん下の妹が帰ってくる。そうなったら、自分も探しに行こう。そう思っていたが、時間が経つにつれて不安が増してくる。もう二日も帰ってきていないのだ。様々な考えが頭をよぎる。そのすべてが、自分の心に重くのしかかる。
(ガチャ)
━「レイン姉さん?」
玄関扉が開き、少女の声。
「…ラウド?」
「ただいま。━それで、メタル姉さんは?」
「まだ見つかってないわ。ラウドが帰ってきたら私も探しに行こうって思っていた所なんだけど…」
「勿論、ボクも連れていってくれるんだよね?」
「…家に誰もいなくなるのは…」
「もう。心配性だなぁ、レイン姉さんは。別にこの家、盗られて困るものなんかないでしょ?それより、早いとこメタル姉さんを探して、また3人でご飯食べたいんだよね。だから、レイン姉さんが駄目だって言っても、ボクはついてくからね。こればかりはレイン姉さんに悪いけど、勝手にさせてもらうよ」
「…わかったわ。あ、そういえば…」
「そういえば、何?」
「少し前に、二人組の男の子と女の子が家を訪ねてきたの」
「…詳しく聞かせて、レイン姉さん」
「ええ」
「━痛ってえ…ブライト、大丈夫か?」
「な、何とかね…」
ブラックとブライトは、何故か木に引っ掛かっていた。
「しっかし、飛び立ってすぐ落ちるとは思ってなかったぜ…下が森だったからまだよかったけどよ」
「だから言ったじゃない、マジで言ってるの、って…」
「そりゃああんだけでかい翼なら飛べると思うじゃんよ?とりあえず俺が先に降りるから、お前は後から来い」
「わかったわ」
「んじゃ…よっ、と」
ブラックは身体を支えていた枝を折り、まっすぐ着地した。
「いいぜ、降りてこい」
「ちょっと待って…って、あ!?」
「きゃあああああ!」
「うわっ!?」
ブライトが、木からまっさかさまに落ちてくる。ブラックもろとも巻き込んで、思いきり地面に叩きつけられる。
「い…痛ったぁ…ブラック、大丈夫?」
ブラックからの返事はない。
「ブラック?」
周囲を見回していると、何かが背中をバンバンと叩いてきた。
「え?」
ブライトは内心「まさか」と思いながら、ゆっくりと身体を起こす。
「━ぶはっ!…はぁ、はぁ…」
「ブラック!」
胸の下から、ブラックの顔が現れる。
「し、死ぬかと思った…」
「ご、ごめんっ!」
「…いや、事故なんだから謝られてもこっちが困る…それより久方ぶりに河を渡りかけたぞ…」
「ホントにごめん…」
「そう思ってるなら、さっさと退いてくれねぇか」
「あ、そっか」
ブライトはすっくと立ち上がり、ブラックに手を貸す。
「…生きてるって、いい事なんだな…」