━トラベル・ライフ━
ブライトが目を覚ます。辺りはすっかり明るくなっていた。
「あー…よく寝た」
「やっと起きたか。永遠に起きんかと思ったぞ」
「…それ、冗談のつもり?」
「半分くらいはな」
「なんか気にくわないけど、いっか。それより、さっさとこの森抜けちゃうわよ」
「ああ」
二人はまた歩き始めた。が、すぐに足を止める。
「…?」
「きゃ!」
ブラックの後ろを歩いていたブライトが、ブラックの背中にぶつかる。
「いたた…ちょっと、急に止まらないでよ!」
「見ろ、あそこ」
「何よ? って、あれは…人?」
二人の視線の先には、周りより少しだけ色の薄い緑色の人影。
「誰かしら?でもなんか、あの人…ホントに人間?」
「あれは…多分違うな。人間じゃない。もっと生物感の薄い…機械か?」
「機械って…つまり、ロボット?」
「だろうな。だが…なんでこんな所にいるんだか。そこまではわからん」
こちらに気付いたのか、緑色の人影がしだいに近づいてくる。
「━貴方達は、『転移者』ですか?」
そう言いながら近づいてきたのは、緑色の身体に緑色のヘルメット、水色のリボンに緑髪のポニーテール姿のオッドアイの少女だった。
「と、トラベラー?何よそれ」
「いろんな世界を旅してまわる奴らの事さ」
「もう一度聞きます。貴方達は『転移者』ですか?」
「ああ。間違いない」
「そうですか。であれば、貴方達にお話したい事があります。とても重要な案件です」
「は…はぁ。でも、そんな重要ってんなら、なんでそれを部外者であるあたしたちに話さなきゃいけない訳?」
「それは…今からお話します」
「その感じだと、相当急ぎの案件らしいな?」
「はい。実はですね…この世界では、最近ロボット達による犯罪が急激に増加しています。私は、その原因を調査していました。すると、ある事がわかったのです」
「ある事?」
「ここ数年で起きたロボット達の犯罪のうち、大多数を裏で動かしている組織がいる、という話です」
「ほう。で、その組織っつーのは?」
「それはまだよくわかっていないのですが、かなり大きな組織である事は間違いありません」
「でも、それとあたしたちに何の関係があるってのよ?」
「本来ならば、この世界の魔法使い達が我々ロボット達と協力して沈めるんですが、近年魔法の血が弱まっているのか、魔法使いがパッタリ産まれてこなくなってしまって…今いる魔法使い達も皆、魔力が殆ど無くなってしまっているのです」
「何で、そんな事に? ってか、今ロボットって…やっぱりお前、人間じゃなかったんだな?」
「申し遅れました。私はREAFと言います。お察しのとおり、私はロボットです。話を戻しますが、以前にも一度、現存する記録の中に同じような記述がありました」
「それは、いつの話なの?」
「だいたい100年前です。その時にも、同じように魔力が枯渇し、ロボットが人間に対し反乱を起こした…とありました。私は、今回の件に関して、この記述と何らかの関係性があるものと思っています。類似点が多いですし、偶然とは思えません」
「100年前…って、すげぇな、この世界の技術力ってのは」
「それだけ早く発展が進んでいた、という事です。ロボットは、今から約150年前に『心』を手に入れたと言われていますから」
「心!?」
「はい。研究熱心な人間は、私たちロボットに心を与えました。ロボットと絆を深め、共に生きていく為に…」
「なんだか気の遠くなる話だな…」
「話が逸れましたが、お二人には私に協力して頂きたいのです。その組織を瓦解させる為の戦いを…貴方達にはお願いしたいのです」
「戦い…」
「はい。100年前も、転移者がロボットと共に反乱を沈めた、と記録が残されています。あまりにも突然で理解も追い付いていないでしょうが…どうか、お願いします。魔法使いが殆どいなくなってしまった今、転移者のお二人だけが頼りなのです」
「…どうする?何だかいきなりすごい事に巻き込まれちゃったみたいだけど…」
「成り行きってのは恐ろしいもんだな。まぁ…断る訳にもいかんだろう。というより、お前も内心じゃ楽しんでるんだろう?この状況を」
「まぁね。こんな事初めてだし、何よりヒーローみたいじゃない?小さい頃に観てた漫画とかアニメの主人公になる、みたいな。今ちょうどそんな気分よ」
「幸せもんだな。まぁいい。俺たちしかいないってんなら、そりゃ引き受けてやるよ」
「ありがとうございます。では…私はここで失礼します。こちらでも調査を続けておきます。もしまたお会いする事がありましたら、その時までにわかった新しい情報をお伝えします」
そう言うと、リーフは姿を消した。
「…こういう流れになったらさ、正直バラバラになるより、一緒に行動した方がよくないかしら?」
「だろうな」
「じゃあ、これからよろしくね?」
「…気は進まねぇけど、しょうがねぇか。よろしく頼むぜ」
二人は握手を交わした。