━バトル・ライフ━
街は鉄と火薬の臭いで充満している。
建物には大きな損傷はないものの、地面はあちこち大きく抉られていた。
そうやってできたクレーターの中に、女性の姿がふたつ…レイニーズとリーフだ。クレーターの縁には、大量のロボットが取り囲んでいる。
「はぁ、はぁ…て、敵の数が多い…どれだけいるの…?」
「大丈夫ですか、レイニーズさん!もう少しで援軍が来ます!それまで…」
「わかっています、ですが…あれだけの数を指揮しているあのロボット、いったい…?」
レイニーズの視線の先にいるのは、大きな翼の生えた人型のロボット。
「何だ何だぁ?俺の事が知りてぇってかぁ?そうだな…冥土の土産って奴か、まぁいいぜ。俺様はなぁ、エンペラー軍団幹部の特攻隊長!FEATHER様よ!あの世でしっかり覚えなっ!野郎ども、遊びは終わりだ!殺っちまえ!」
フェザーの指示とともに、ロボット全員が銃口を一斉に向ける。
「くっ…」
レイニーズは眼を閉じた。
━「機械魔術『巨壁錬成』!」
ガキィンッ!
「!?」
突如として分厚い鉄の壁が二人の四方を囲む。
「な…何だ!くそっ、援軍か?」
「…この魔法、まさか!」
「レインお姉ちゃーん!」
「メタリカ!無事だったのね…でも、どうして来たの!」
「い、家から街が爆発するのが見えて…いてもたってもいられなくて…それで…」
「まさか…一人で?」
「ううん、違うよ。ラウドと…」
「おお、随分と面白そうな事やってんじゃねぇか!俺も混ぜろ!」
「彼は…確か…」
「メタル姉さんを探すのに協力してくれた人だよ」
「そう…だったわね。ちゃんと見つけてくれた…」
「姉さん、今はその話をしてる場合じゃないよ」
「…そうね」
「お前ら!さっきから俺達を無視しやがって━…ん?あの男…」
フェザーはブラックに視線を向けた。
「何だ?お前…俺とやるつもりか?上等だ、いつでも来やがれ」
ブラックは構える。
「あの身体…あの力…間違いねぇ、アイツは…」
「さっきから何をブツブツ言ってやがる?来るなら来いっての」
「…野郎ども!退くぞ!」
「えっ?フェザー様…」
「見てわからねぇか?あの男…」
「!まさか…」
「いいか、俺達はアイツを生かしておく訳にはいかねぇ。今は退いて、エンペラー様に今後の事を図る」
「わ、わかりました!では…」
「おい、そこのお前!」
「何だよ?退くならさっさと失せろ!」
「お前は俺達が総力挙げてでも…殺す」
「…ほう?言ってくれる」
「お前は俺達にとって生きてちゃ困る存在なんでな…覚悟しとけよ!」
そう言い残すと、フェザーと大量のロボットは一斉に姿を消した。
「消えちまった…逃げ足の速ぇ奴だ。しかし…俺が生きてちゃ困る存在…ねぇ。よっぽどこの力が怖いと見える。だったら…この力で好き勝手暴れるしかねぇよなぁ?やったろうじゃねぇか!」
「ブラック!」
メタリカ達が声をかける。
「そっちは大丈夫か?結構やられてたみてぇだけど」
「うん…お姉ちゃん、ひどいケガしてて…これから警察の病院に行くんだって」
「そうか…ちょっと俺に診せてみろ」
「えっ?」
「前に…人を癒す力の使い方を教わったことがあってな、応急処置レベルだけどよ」
ブラックはレイニーズのもとへ向かう。
「大丈夫か?」
「かなりやられはしましたけど…あ、あの」
「なんだ?」
「妹を見つけてくれて…ありがとうございます」
「アイツを見つけたのは俺達じゃあない。シードとかいうロボットだよ」
「シードが…?」
「ああそうだ。感謝ならアイツにしてやりな。もっとも、今ここにはいないが」
「どこに?」
「お前の家だよ。俺の仲間がちょっと気絶しててな、見てもらってるんだ」
「そう…ですか。わかりました、後でお礼を言っておきます」
「そうしてやれ。あと…ちょっとじっとしててくれるか」
「?ええ…」
ブラックは胸の前で両掌を組み、目を閉じた。
「すううぅぅ…」
深く息を吸い込み、掌を解放する。
手の間には淡い光を放つ球体が現れ、その球体から指先まで半透明な、シャボンのようなものが伸びる。
ブラックはもう一度掌を強く打ち合わせ、レイニーズの方へ両手を伸ばした。
半透明なそれは、レイニーズの身体を包みこんだ。
「これは…?」
「まぁ、簡単な回復魔法みてぇなもんかな」
「確かに…身体が楽になるのを感じます」
「だろう?俺の力は何も人を傷つけるやつばっかじゃねぇんだ。限度はあるけどな」
「…ありがとうございます」
「いいんだよ。それよりあのロボット…俺を名指しで警告とはな」
「ブラックの何がそんなに嫌なんだろう、あいつら」
「あたしにはちょっとわかんないよ」
「…もしかして、100年前の…」
「あ?」
「いえ、貴方には以前お話しましたね?100年前にも同じような事があったという話…」
「ああ」
「どこまで貴方に話したかは忘れましたが…あの時戦ったのはひとりの転移者でした。そして、彼の身体は…」
「まさか」
「…紅く、染まっていました。血のように…」