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変わり者達のささやかな日常。

僕と悩める彼女の感性。

作者: 久希ユウ

僕が想いを寄せる幼なじみの彼女は変わり者。いや、僕以外の他人から見てみれば彼女は至って普通の少女なのだろう。

容姿もモデルのように整っている訳でも無く、勉強も中の上。運動は苦手じゃないけれど、上手い訳でも無い。

至って平凡。特質した事は何も無い。しいて言うなら、笑った時に出来るえくぼが印象的。

そんな彼女を僕が変わり者だと思う理由。それはひとえに彼女の独特な感性のせいだと思う。


「ほら見て、あの雲。まるで、蛇に見えるわ!」


付き合っている訳でも無いのに家が隣同士の幼なじみという理由で一緒に帰る事が習慣とかしている学校の帰り道。彼女は唐突に空を見上げて歓声を上げた。

僕は彼女が指差す空を見上げる。けれど、夕暮れの空には幾つもの雲が漂っていて彼女の言う蛇がどれかなんて僕には分からない。


「どれ?」


眉をひそめて彼女に問う。


「ほら、あれよ。あのモコモコ綿飴みたいな雲の隣にある雲よ!」

「…………」

「見つかった?」


期待に満ちた表情の彼女が僕を見据える。

暫く空を見上げて思案していた僕は徐に「もしかして……」と真っ直ぐ伸びた雲を指差した。

夕日に照らされたその雲は若干、茜に染まっている何の変哲もない飛行機雲だ。

彼女の表情がパッと一際、明るくなる。どうやら、当たりだったようだ。


「ねっ、蛇みたいで今にも動き出しそうでしょ!」


弾んだ声で彼女が言う。

とぐろを巻いている訳でも三角の頭がある訳でも無く、真っ直ぐ伸びた飛行機雲は僕には到底、蛇になんか見えやしない。動き出しそうとか躍動感のあるものにも見えない。

せいぜい、毛糸の糸とかナメクジが通った後がいい所だ。

それでも、満面の笑みで蛇だという彼女に何となく否定の言葉を使いたくない僕は「うん、そうだね」と頷く。すると、同意を得た彼女は嬉しそうに再び、空を見上げた。


彼女の瞳に映る景色は僕のものと全然違う。


現在そうだが、他にも、真っ白な猫を見つければマシュマロみたいだと頭を撫で、夜空に浮かぶ満月を見上げれば楽器のシンバルみたいだと笑う。綺麗なビーズや波に磨かれたガラス等を集めるよりも、道端に落ちている小石や公園の団栗、落ち葉の方がキラキラしているからと幼い頃はそればかりチョコレートの缶箱製の宝箱に集めていた。

僕と彼女は幼い頃から一緒に色んなものを見てきた。けれど、僕は一つも彼女と同じに見えた事は無い。

猫は雪、満月はパンケーキ、石ころは団栗、落ち葉よりもビーズやガラスの方がキラキラしていて惹き付けられた。

同じ時を過ごした思い出はあるのに瞳に映る景色はまるで違う。勿論、今も。

だから、一緒に居ても時々思う。寂しいなと。


「…………」


僕はそっと隣に立って空を見上げている彼女の左手わを握った。細い、柔らかな手だ。すると、驚いた様子の彼女が直ぐに僕に振り向いた。

マジマジと握られた左手と僕を交互に見据えて、彼女の選んだ言葉は相変わらず、僕の予想の上を行く。


「どうしたの? 体調でも悪い?」

「…………」


たとえ、幼なじみでも僕はれっきとした男だ。何で、男にいきなり手を握られて体調が悪いと思うのか。もっと違う反応があるだろう。

思わず、苦笑いをする僕。

純粋に体調の心配をしているのだろう彼女はその笑みを肯定だと受け取ったらしく、僕の額に空いている右手を当てて熱を測ろうととして来る。

別に拒む必要も無いのでそのまま測ってもらえば「あれ、熱はなさそうね?」と小首を傾げた彼女が何とも可愛らしく、僕は更に苦笑を深くする。


「大丈夫。別に体調は悪くないよ」

「じゃあ、どうしたの?」


右手を下ろし、彼女は真っ直ぐ僕を見据える。

体調が悪くないと言った事を半分しか信じていないのだろう心配気に若干、眉をひそめている彼女に僕は暫く考える素振りを見せた。


「そうだな……しいて言うなら対策かな」


ようやく出た言葉はそれだった。


「対策? 何の?」

「さぁ、何だろうね」


絶対に教えない。

対策とか何だかカッコいい言葉を使ったけど、もしかしたら、変わった彼女の感性が僕に少しでも移って僕も彼女と同じ景色が見れるんじゃないか。そんな淡い夢みたいな期待と、寂しくて思わず握ったんだなんて子供っぽい理由。

ましてや、好きな子には恥ずかしくて言えやしない。


「とにかく、体調は問題ないから心配しないよ」


そっぽを向いてそう言い切った僕に彼女は不思議気に「ふーん」と鼻を鳴らす。


「変なの」


そう言いながらも、彼女は手を離そうとはしない。逆に「えい」と手に力を込めて来たので、お返しに僕もギュッと力を込める。勿論、彼女が痛がらないように細心の注意を払って。


「ふふっ。変なの」


楽しげに笑う彼女の頬にえくぼが浮かぶ。

その様子を僕は目を細めて見つめる。

変わり者の彼女。

残念ながら、この手から彼女の感性は移らないので、僕は今回も彼女と同じ景色を見ることは叶わない。けれど、それならばこの手から互いの体温が伝わるように僕の想いが彼女に少しでも伝わればいいと思う。


『君の事が愛しい』


僕が彼女に面と向かって言えないこの想いが少しでも伝わればいい。吹けば飛ぶような小さな欠片の想いでも彼女の心に残って欲しい。

いつの日か、彼女の瞳に映る僕はどんな風に映っているのか。

僕の事をどんな風に思っているのか。


恋に臆病で卑怯な僕が覚悟を決めてそう問う日まで。




如何でしょう。

拙くも精一杯、変わった感性を書いたつもりですが、変わってなかったらごめんなさい。

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