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風雲急を告げる



 トコトン掘りの和やかで、牧歌的な風景、映える日輪、さんざめく川の流れに反射する陽の光、弾けるような叫声を上げて笑うミキオにツカサにテツオ。水に戯れ、残照にも負けじと跳ね回るアルフとペーとミケとタロウとクー、それにトータス。アルノーとモーリスは、嬉しそうに空をクルクル回る。だが…


 口から泡をゴボゴボ噴き出し、嘴をブルブル震わせながら仔細を語るカモメのミナサン。当然だが、皆は仰天した、わなないた、それに誰よりもトータスは悲嘆に暮れた。そりゃそうだろう、淋洸堰の仲間が全滅の憂き目に遭ったのだ。そして皆は恐れた、自衛隊でさえも恐怖のあまり逃げ出してしまうほどの恐ろしい敵なのだ…ピラニアにカミツキガメにワニにニシキヘビだなんて狂っている、あまりにも狂っている。だが、この軍団には、いくら相手の力が強大でも、たとえ適わぬ相手でも尻尾を巻いて逃げ出すような弱虫は一人も居ないのだ。


 まもなく淋洸堰軍団救出、及び外来猛獣軍団掃討のための征討軍が結成され、世にも雄々しく進撃して行った。まず男蛇と女蛇のタカ&エミは、トコトン掘りの最速集団であるハヤ部隊を引き連れて四十八瀬川を下り決戦地へ向かって行った。

 アルノーとモ―リス夫婦は、空路から決戦地へ向かって行った。本隊は、陸路から最終決戦地・八方原橋へ向かった。先陣に『日本一の桂が谷軍団』の旗差し物を背負い、肩にトータスをチョコンと乗せたアルフ、次ぎ備えに前髪垂らしで、肩に妖刀『物干し竿』を背負った長身の『佐々木小次郎』スタイルでカッチョいいミキオ、次ぎは右備えに緋おどしの甲冑に身を包んだ『真田幸村』スタイルでカッチョいいツカサ、左備えには『厭離穢土欣求浄土』の旗印を肩にかけた徳川家康スタイルのカッチョいいテツオ、勿論テツオの武器は金属バットだ…それにしてもこのバカら、闘いに行くのにいちいちこんな恰好をしなければいけないのか。可哀そうに、昔は皆こうではなかったのに…タケシのようなアホと付き合っているから、すっかりアホ菌に冒されているのだ。

 そして、これに続き後陣を固めるのが、ペーとミケとタロウとクーの四人の勇ましい猫軍団。ペーに続き、ミケ、タロウ、クーと並ぶが、幼いクーはちゃっかりタロウの背中に乗っている。だが、このマンガみたいな軍隊に非常な危機感を抱いたカブト虫の大魔王アレクは、すぐに援軍を求めて山へ飛び立った。

桂が谷の中山間地に、クロウが率いる最強カラス軍団が選挙する森がある。森閑と静まり返る森の中の木立を縫うようにして飛ぶアレク。やがてクロウの巣へ降り立った。


「おう、アレクじゃないカァ」全身真っ黒けのけクロウは言った。

「うむ、苦しゅうない。それにしても、相変わらずそちは色が黒いのう、大して働かんくせに偉そうに日焼けなどしおってからに」

「うるさいカァー、今日は何の用だカァー、人間なんカァー、助けんカァー、いつも言っとるように奴らは敵だカァー」そう言い捨ててクロウは、巣の奥へ潜り込んで行った。

 

 次にアレクが向かったのは、女王バッチ率いる最強スズメバチ帝国の巣だった。スズメバチ帝国は、トコトン掘りより百メートル上がった所に『お化けの林』と言う、クソぼけタケシが、赤毛のアンをパクッた名前の林があるが、帝国はこれより少し山に入った所にある。また人間に巣を潰されたバッチは、新城建設のために自らが陣頭指揮に立っていた。アレクは無遠慮に女王の前に降り立った。

「おう、アレクではないか、息災か」と女王は、大きな目をギョロギョロさせ、アゴ(キバ)をカチカチ鳴らせながら言った。

「うむ、苦しゅうない。それにしても、うぬは相変わらず顔が悪い」さらに、無遠慮な大魔王アレク。

「コホホホ、要らぬ事は言わずともよい。ところで、うぬは何をしにおじゃった。まさか、わらわに助けを乞いに来たのではあるまいな。それなら、いつも言うておるように駄目じゃぞ、人間は実に憎むべき敵じゃわ」


 一方、決戦地へ同時に着いた桂が谷軍団の本体と水中部隊だったが、淋洸堰のはらから達が好きなほど蹂躪されているのが、陸上からでもはっきり見極める事が出来、堪らなくなったトータスはコケシが止めるのも聞かずに地獄の川へ飛び込んだ。それにしても軍団は、どうやって闘うつもりなのだろうか。いま行なわれている戦闘は、全て水中の闘いである。陸で暮らす事を趣味とし、陸地でも銭にならない連中は、どうやって闘おうと言うのだろうか。

 でも彼らは、かねてからの作戦に速やかに取りかかった。ここには『鍛治畑川かじばたがわ』と言う小さな二級河川が支流として注ぎ込んでいる。川幅は、三メートルくらいしかなく日頃は水も大変に少ないが、やはり農業用水として利用されており、農繁期には取水用に水が溜め込まれる。よって椹野川との合流点には少し大袈裟にも見える水門が取設されてある。ゲートは、手動巻き上げ式ローラーゲートで、今のように農繁期以外にはゲートが開けられており、川底の小石をチョロチョロ舐めるように僅かな水が、如何にも頼りなげに流れているに過ぎない。


「ええぞーミキオ」ツカサはゲートの上に立って、ゲート開閉ハンドルを握って言った。それを確かめたミキオは、河原まで降りているテツオにGoサインを送った。

「テツオーッ、Goじゃー、行けやー」それを受けたテツオは、川の岸辺で群れを成して今や決戦の時と、待ち構えるトコトン掘り最速ハヤ精鋭部隊に、敢然と出撃命令を下した。

「今や決戦の時じゃ、者ども命を捨てて闘えやーっ」テツオの采配は下ろされ、かくして桂が谷軍団の猛攻は始まった。



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