どこの話かって
これは、とある川に生息する勇敢な亀と、亀の腹心の友であるタケシ少年、それに彼らを取り巻く愉快な同胞達が織りなす感動と希望の銀河系スペクタル、ニュートリノ系フロンティア、グリコーゲン系ミネラル抜群に栄養素の高いベリベリスペシャル、ソービューティフル、ワンダフル、アンダーシャツな物語なのである…そこでだ、ここで彼らの紹介をしておかなければいけないが、日本の礼儀としては、まず何と言っても自己紹介から始めるのが常識と言うものだそうな。そこで改めて、私の自己紹介を先んじて行なう事にする。私の名前は著者、他に名はない。よって当物語は、以上をもって目出度く完結とする。あぁー目出度し目出度し、ガンバレ日本チャチャのチャ、日本よいとこヨサコイノサ、あっぱれさっぱり立派なり 終 (笑い)…なんて事でいいわけない、まだ勇敢な石亀トータスの話も、クソぼけタケシの話もしていないではないか。でも本当に私には名はない。
何で名がないかと言えば、実は大きな理由がある。亀とタケシ少年、それに彼らを取り巻く同胞達の生活域が大きく違い、生活スタイルも慣習も全く違うからだ。ある者は地上で暮らし、ある者は水中で暮らす特殊潜行能力を持ち、ある者は大空高く舞い上がる飛行能力を持ち、ある者は地中に深く潜り込む潜行能力を持っている。要するに彼らは皆、特殊能力を有するスーパー生き物なのである。よって著者が、彼らの生活域まで踏み込んでキャストをしようとすれば、ヘリコプターで空を飛んだり、潜水艦で水中に潜ったり、トンネルをズンズン掘って突き進む能力を要するだろう。だから、これは普通の人間では出来ない事であり、著者のような超能力を持った人間でなければ務まらない、しかも超能力者に名などない。
さて前置きは長くなったが、いよいよ大いなる感動と希望に溢れた話を始めようではないか。本州最西端に山口県と言う未開のへき地がある。ここで一発アホの読者諸氏のために、山口県の位置と日本の相関関係をタネ明かししておこうではないか。まず日本地図を拡げてみたまえ。右上に北海道と言う大きな離れ小島と、本州と言う長いだけが取り得の島と、九州と言う未開の僻地と、四国と言う絶海の孤島があり、これが主な日本列島と言うものだ。だが、こんな事で驚いてはいけない。これに沖縄や佐渡島、それに淡路島や壱岐対馬などの大きな島に始まり、人の住まないノミの額くらいしかない小さな島が沢山ある。日本列島の端から端まで約三千キロ。これは勿論、沖縄県の西表島から北海道稚内までの距離だが、どうも日本には変わり者が多くて困る。
変わり者の言うには『日本列島の長さとは、北海道の末端から九州鹿児島の末端までを言うのだ』…だそうな。(笑い)離れ小島は日本じゃないのだろうか、北本九四だって島だろうに、非常に理解に苦しむ。山口県は本州最西端、つまり九州の右上に当たり、四国の上にあると言うお笑いみたいな県だ。山口県の人口は、約百四十五万人だそうな。でも、これは嘘だろう。著者の住んでいる所だって、人間より猿の方が随分多い。(笑い)おそらく国土地理院が数え間違えたか、山口県の役人が酔っ払って数え間違えたに違いない。著者の臆測で言えば、三十万人くらいのものだろう…嘘だがバハハ。山口県と言う人間離れした県の、ほぼ中央に位置する寒村が山口市なのである。でも寒村と言っても、一応県庁所在市であり、人口だって二十万人くらい居るらしいので大したものではないか。トータスを始めとした多くの同胞らが、生息する椹野川は、山口市の中央を流れる山口市一の大河なのだ。大河と言っても大した事はない、トータス達が暮らす淋洸堰の川幅だって、百三十七メートルしかない二級河川なのである。二級河川と言えば、いかにも二流河川みたいで聞こえが悪いが、これには深い意味があるわけではない。要するに国交省(国)が管理するのが一級河川であり、県(地方自治体)が管理するのが二級河川と呼ぶそうな。どうでもいいような話だが、人間が勝手に等級付けをして勝手に管理しているだけの事で、可哀そうなのは川君である。やれ一級だの、二級だのと、まるで上下関係でもあるような言い方をされるのは、川君もすこぶる不本意とするところだろう。
アホの読者諸氏は知らないだろうが、昔は日本酒だって一級と二級に分かれていたのだぞよ。これは、酒君達の人種差別撤廃運動で廃止されたのだが、内向的な川君達は、なかなか言い出す事が出来ない。椹野川は、山口市北部・宮野上の坂堂峠付近を源流とし、山口湾に注ぎ込む全長約三十キロの大河である。『SLやまぐち号』が走る路線として、全国的に有名なJR山口線に沿うようにして流れ、南西の山口湾に流れ込む。椹野川水系の支流は主なものとして、最大支流である仁保川、山口市街を流れて蛍や桜並木として有名な一の坂川、吉敷川、小郡を流れて合流する四十八瀬川などがある。
トータス達の棲む淋洸堰は、山口市小郡と言う所にある。小郡は、山口市北部と南部の中間地点に位置し、昔は小郡町と名乗っていたのだが、平成の大合併で山口氏と結婚した。淋洸堰は、小郡の柳井田と言う所にあり、四十八瀬川との合流地点の近くにある。主に農業用水の取水を主目的として設置された油圧可動堰で、農業用として三か所の取水口が設けられてある。可動堰は、普段は閉じられ(上げられ)、近隣地区の名田島の開作や、嘉川の開作へ農業用水として送られている。また大雨の時には、堰を下げて開放し、水の流を速やかにすると言う物だが、大雨時でもボタン一つで開閉できるとは、人間恐るべし…いかにも、猿知恵の人間様が考えそうな玩具ではないか、いかにもセコイ。そう言えば今、東京とか言う片田舎で、高さ六百三十四メ―トルにも及ぶ「東京スカイツリー)と言う恐ろしく高い玩具が造られているそうな。高さ六百三十四メ―トル…人間実に恐るべし、と言うより何て暇な生き物だろうか。それと天才の読者諸氏のために、一発マル秘情報を教えておこうではないか。山陽新幹線の中に『新山口駅』と言うホラーハウスみたいな駅があるが、ここは昔『小郡駅』と名乗っていたのだぞえ。おそらく、山陽新幹線駅で小郡駅と言う駅があったのを憶えているアホも少なくないと思うが、現在では新山口駅と名を変えている。
勿論SLやまぐち号も、この新山口駅から発車している。しかし、地名を変えたり駅名を変えたりするとは、いかにも暇な人間君達が考えそうな犬知恵ではないか。是非その暇力を多いに発揮して貰って、一級二級河川と言う呼び名も変えて貰いたいものだ。淋洸堰の可動堰下流には、人間がピョンピョン跳ね飛んで行けそうなコンクリート製の飛び石がお行儀よく並んで設置されてあり、その下流が深みになっているのだが、この深みこそがトータス達が安全に暮らして行けるホームなのだ。
ここは椹野川の『自慢党』と言う政権野党が保持する最後の砦なのである。実を言うと、この自慢党は三十年前までは、椹野川全域を制覇していたほどの一大与党だったのだが、外来同盟達が結成する『民酒党』と言う新勢力に押されて政権を完全に奪われ、現在では野党として、この淋洸堰に封じ込められている有り様なのである。一帯に、この外来種同盟として幅を利かせている『ブラックバス』とか『ブルーギル』と言う奴らは、さすが元ヤンキー、元ヒスパニックとだけあって恐ろしく凶暴、しかも体も大変に大きくて強者揃いだ。それに較べ、やれ鮠だの、鮒だの、メダカだの、鮎だのの、ほとんど漫画に近い非力で体の小さな在来種ではとても太刀打ちできるようなものではない。在来種は、体が大きくて獰猛かつ繁殖力もある外来種に、どんどん食い潰されている有り様なのだ。特に著者が小さい頃には、椹野川の支流や小川で小さなメダカ君と遊んだものだが、今では川に蓋がされ、外来種がのさばり歩いているものだから、腹心の『はらから 同胞』のメダカ君達にも、とんとお目にかかれなくなってしまった。




