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絶対絶命



 さて、川の中を縦横無尽に駆け回るトコトン掘りのハヤ最速部隊、それを連なるようにして追いかけて来るピラニア極悪集団。その数たるや凄まじいもので、居るわ居るわ、もう少々の物ではなかった。ハヤ部隊も速いが、ピラニアも決して遅くはない。勇気ある最速ハヤ部隊は、次々に犠牲になって行った。こんな死のロードレースの周回を繰り返し、ピラニアが一匹残らず追いかけて来ている事を確かめた最速ハヤ部隊は、計画遂行のために鍛治畑川のゲート内に次々と飛び込んで行った。その後を何も知らずに、ゾロゾロと追いかけて飛び込むピラニア、ほとんど水のない川を元気に遡上して行くハヤ部隊。なおも深追いして行くピラニア達。

 見たら分かるが、ハヤの小型で流線形の体型と言うものは、少々の浅瀬でも構わず登って行けるスキル(技能)を持っているが、これに比してピラニアは縦平、つまりタイみたいな体型をしており、したがって浅瀬を泳げるようなスキルは持ち合わせていない。ピチャピチャするばかりで、前にも後ろにも左にも右にも動けないピラニア達。そんな事も知らずに、後から後からゲートをくぐって来るピラニア達、ハヤ部隊は悠然と上流に泳ぎ去って行った。そして、機すでに熟せりと見て取ったツカサは、ゲートを下ろして椹野川への帰還ルートを完全に封鎖した。そこへ一斉に襲いかかる桂が谷軍団。だが…


 そこへ一陣の涼風と共に、爽やかなギター音が鳴り響いて来た。

「ピキピン、ピキピン、ピキピンピキピンピキピン」おぉー、何とそこには大変に顔が良くて、IQ五千の高知能指数を誇る天才タケシ少年が、自転車に乗ってギターを弾いているではないか。しかも凛々しい口元には、カブキ役者のような薄ら笑いさえ浮かべているではないか…カ、カカ、カッコいい。

「お、お前は…」ミキオが言った。

「タ、タケシ…」ツカサが言った。

「な何てカッコいい…」テツオが言った。

「さよう私はタケシ。人はみな、私の事をゴルゴサーティーン・タケシと言う。ここを神聖な日本の川とも弁えぬ外来種の外道どもよ、うぬらに我が正義の鉄拳制裁を喰らわせんや、いざ受けよ我が天誅を」民衆の心を、一下のもとに収束せしめん理路整然とした説法で論破された衆目は、あまりの恐れ多さに押し黙ってしまった。


「起てはらからよ、我の奮迅に続けをや」と言われなくても闘っているのに、クソぼけはカッコ付けて偉そうに言った。さらにタケシはカッコ良く、サッと自転車から飛び降りて、ハヤブサ号のような速さで土手から川へ降りて行った。トホホ、何てカッコいい。トホホのホ、それにしてもカッコ良すぎる。日本の同胞よ、今こそタケシ少年の後に続けをや、今こそ顔のいいタケシに続けをや、今こそ奮い立たんや我がはらから達よ。だが…


 アホのタケシは斜面で滑ってコケ、しかも傍の石で顔を打ってしまった、しかも顔が悪かった、しかもギターなんか弾けないくせに…最悪、ド最悪、死ね死ね、こんなクソぼけは、とっとと死んでしまえ、その方がよほど日本のためになる。大いなる日本の同胞よ、こんなクソぼけの事は無視して、とっとと忘れてくれたまえ。軍団も、こんなクソぼけの事は無視して、クソタケシの体をてんでに踏んづけてピラニアに襲いかかって行った。そうしなければ閉じられたゲートのおかげで、水かさはどんどん高くなり、ピラニヤに有利な環境を再び与えてしまう事になるからだ。

「ウガガーッ、ワンワオンワン、フニャーーゴ、ミャーゴ、フーッ、シャーッ」

 アルフは得意の咬みつき攻撃でピラニアを次々に仕留め、ペーとミケは浅瀬に入ってピラニアを爪で引っかけては河原に居るタロウ、クー、それに空から降り立ったアルノーとモ―リスに投げてやった。もう、こうなったらピラニアなど恐れるには足りない、彼らによって凄まじい速さで退治されて行った。ミキオは長い脚を利用して効率よくピラニアを踏み潰して行き、テツオは得意の金属バットを使って次々に退治して行った。ここの戦闘は、大勝利のうちにアッと言う間に終わりを遂げ、やがて軍団の中から勝鬨が上がった。



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