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反撃が始まった



 トータスは、辺りを用心深く窺いながら、川底の溝に沿って泳いだ。そして河川中央に、断崖となって切り立っている川溝の底辺部に向かって潜った。水底は非常に水温が低く、おまけに太陽光線も届かない闇社会は、極悪非道な未知の地底世界に迷い込んだようで恐ろしかった。さらにトータスとコケシを震撼させたのは、この暗黒世界が地獄の地底墓場だったからだった。行っても行っても、あるのは同胞たちの屍。彼らには、この地獄の饗応と死の行進が、地球の果てまで続いているように思われた。

「こりゃ酷いよ、コケシ」

「うむ地獄じゃな。トータス気を付けろ、どこに敵が伏せとるやも知れぬでのう」

 だが、コケシの心配を嘲笑うかのように、彼らの目前にいきなり残酷な光景が飛び込んで来た…今までに見た事もないような体中ギザギザで凶暴そうな顔をした巨大亀が、血だらけになったスッポンのアジムを口に咥えて悠然と川底を歩いているではないか。甲羅のいたる所に大きな穴が開き、縦にヒビが入ったアジムは首をダラリと下げて目を閉じ、生きているのか死んでいるのかも分からないような残酷な光景だった。

「う、うわぁううわぁぁー、アジムゥーアジムゥー」トータスは、不用意に大声を出してしまった。それに気が付き、残忍な目でトータスを睨みつけるカミツキガメ…アジムを放し、今度はトータスに向かって猛然と襲いかかって来た。


「ヤバィィーーッ、トータス逃げろーー」

トータスは、逃げた逃げた逃げた。だが、石亀の逃げるスピードなんて知れている。遅い実に遅い。

「グガガガー、待ちやがれーっ、このチビ亀が」

 カミツキガメの大口は、パックリ開いて今やチビ亀をひと呑みにしようとしている。可哀そうに、きっとトータスもコケシも三秒後には、カミツキガメの胃袋の中に納まっている事だろう…アーメン、ナンマイダ。


 だがトータスは、果敢にも体を返し、手足を引っ込めて猛然と体当たりを喰らわした。この勇気ある行動に、カミツキガメも一瞬たじろいだが、トータスの捨て身の攻撃は再び反転して、絶望的酷難回避不能状態に立たせていた。極めて至近距離から、トータスに咬ぶりつく化け物…常軌の一線を越えた。

「グギャギャギャーーッ」吠える化け物。

「ガキッ」川じゅうに響き渡る大きな音…だが、噛めない、トータスの唯一の武器とも言える鉄甲は噛めない。石亀や草亀の甲羅は上に随分盛り上がっており、簡単には潰れない。スッポンの甲羅は、泳ぎや砂に潜るのに適するように扁平な形をしており、柔かいだけではなく、構造力学上から見ても、大して強いとは言えない。その時、またもカミツキガメに体当たりを喰らわせて来る者がいた。


「トータス、逃げろーっ」

 見ると体中に傷を負ったニシキが、大きな体を活かして化け物に必死最後の体当たり攻撃を仕掛けているものだったが、やはり至近距離に置かれて死の渕に立たされているのはニシキだった。凄まじい攻撃で、ニシキの背中に咬ぶりつく化け物。やがてニシキは、血だらけで静かに川溝深くまで落ちて行った。ニシキの最期を、涙ながらに見つめるトータス。

「トータス逃げろ逃げろ、化け物が追いかけて来るぞーっ」だがトータスは、哀しくって動けなかった。それを叱咤するコケシ。やむなく陸へ逃げる事にしたが、何とか息を吹き返していたアジムの背中を押して逃げた。その姿を見つけてか、奇蹟的に生き残っていたシカゴやナデシコなど一部のザリガニ部隊や、グラブらのもくずガニ部隊がゾロゾロと付いて来た。その後ろから追いかけて来る化け物…距離は徐々に狭まって行った。



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